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カテゴリ:ファンタジックなSF
いま兵庫県立美術館で「恐竜図鑑」展をやっていたりして(美術館で、です!)、先日はNHKで最新の話題(南半球の恐竜だとか、隕石衝突後も生き残っていた説だとか)を紹介した恐竜番組をやっていたりして、ちょっとブームな感じ。
というわけで、元祖恐竜マニア、レイ・ブラッドベリの『恐竜物語』を開いてみました。ブラッドベリの短編や詩のうち、恐竜に関するものを集めた1冊。色んなイラストレーターのつけた挿絵がふんだんにちりばめられていて、楽しさ倍増です。 「序/前書き」によると、レイ・ブラッドベリや彼の恐竜つながりの相棒レイ・ハリーハウゼンは、映画「ロスト・ワールド」(1925年)の恐竜の魅力にノックアウトされたとのこと。これは以前とりあげたコナン・ドイルの『失われた世界』の映画版ですね。 最初の物語「恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?」の主人公ベンジャミン・スポールディング少年(『たんぽぽのお酒』の主人公と姓が同じです)も、この映画の影響で、「大きくなったら恐竜になる」と決意します。 すると彼は変化し始めます。歯ぎしりをしたりして、恐竜ぽいオーラが出始めるというか、そのあたりはブラッドベリの描写が見事なのですが、とにかく本物の恐竜に少し近づき始めるのです。 人間だって進化の証拠に、脳みそには「爬虫類脳」と呼ばれる部位(脳幹や小脳)があるそうですから、ベンジャミン少年の奥底にティラノサウルスがひそんでいても不思議はないという気もしてきます。 以下ネタバレ→結局は、彼の「観察」を趣味とするおじいちゃんが、ベンジャミンの変化を止めて、将来の夢を「機関士」に変更させます。 面白いのは、タイトルの「恐竜のほかに~」が、最初は「恐竜以外なりたい職業はない」という反語的な意味で使われますが、最後にはおじいちゃんが同じ問いを発するのに、「恐竜を除外すれば、何になりたいか」という文字通りの意味に使っているところ。つまり、恐竜になりたいという願望はいちおう退けられたけれど、消えてはいない、むしろ他のなりたい職業とは別格となって、ベンジャミンの奥底に存在し続けるだろうな、とも考えられるのです。 このあと、有名な短編「いかずちの音」「霧笛」(もとは『太陽の黄金の林檎』に収録)があったり、恐竜の詩があったりして、最後の短編が「ティラノサウルス・レックス」です。 これは上記のレイ・ハリーハウゼンがモデルの主人公が、ミニチュア恐竜模型を作ってアニメーション映画を撮る話です。彼は自作のティラノサウルスを自分の「分身」として心血を注ぎこんで作りあげ、短編映画を制作しますが、強権的なプロデューサーは難癖ばかりつけて何度も作り直しをさせます。 またネタバレ→とうとうできあがったティラノサウルスの顔は、なんだかプロデューサー自身にそっくりでした。激怒するプロデューサー。ところが居合わせたある人物が、逆説的なことを言います; 世界を恐怖におとしいれるモンスター。ここには独立心、権力、気力、鋭い動物的な悪がしこさ、そういったものをひとまとめにした、孤独な、誇りたかい、すばらしくもまたおそろしい象徴がある。まことの民主主義者、主体性のきわみ、いかずちと稲妻のかたまり。恐竜すなわちジョー・クラレンス[=プロデューサー]、ジョー・クラレンスすなわち恐竜。人間のかたちをとった恐竜の帝王なんだ! ――レイ・ブラッドベリ「ティラノサウルス・レックス」伊藤典夫訳 そしてプロデューサーは上機嫌になり、映画も大成功、というわけです。 この皮肉な物語には、二つの形で最初の短編に対応しています。一つ、レイ・ハリーハウゼンはいわば、大人になった恐竜少年で、自分の分身の恐竜人形を作り動かし命を吹きこんで映画を作るという仕事をしているのです。つまり、レイ・ハリーハウゼン自身すなわち恐竜なのです。 二つめは、「ジョー・クラレンスすなわち恐竜」の文字通り、「大王」と呼ばれるプロデューサー、クラレンスはこの業界で憎たらしいほど権力を持ち、すべてを支配しています。彼の影響力たるや、彼を嫌うハリーハウゼンが無意識にティラノサウルスの顔を彼に似せて作ってしまうほどすごいのです。 こうして、この物語はベンジャミン少年の問いかけ「恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?」の答えとして、本書をしめくくっています! 主人公にも悪役にも恐竜がひそんでいたという結末。さすがレイ・ブラッドベリ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
April 10, 2023 01:01:35 AM
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