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2005年11月06日
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カテゴリ:読書
ウは宇宙船のウ 萩尾望都(原作レイ・ブラッドベリ) 集英社漫画文庫
アラスジ:土曜の朝、僕たちは連れ立って宇宙空港に行くのが大好きだった。ロケットが宙“ソラ”へと飛び立つのを見るのが、堪らなく大

好きだったのだ。学校も好き、家族も好き、だけども何よりも宇宙に飛び立つ存在になることを渇望している。だって、僕らは男の子だから。世界一の仕事に手を染めることの出来るのは、ほんの一握りの人間だけ。そして、それはある日突然やってくる。宇宙への窓口へ通じる切符を持った使者が。そう、僕は踏み出すんだ。宙への第一歩へと…。表題作『ウは宇宙のウ』の他、全8編。ブラッドベリの世界を漫画化した珠玉の短編集。


ブラッドベリは『火星年代記』と『二人がここにいる不思議』しか読んだ事がないが、とても美しい世界を描く作家だと感じた。
そのガラスのような世界を見事に描き、且つ、その上に独自の色彩を塗り広げることにも成功した萩尾の凄さを堪能出来るのが本書。
巡り合えた事をしみじみ幸せだなぁと思えり作品の一つだ。
萩尾は少女漫画界の最高峰に位置する人間だと思うが、中でもこの作品の頃の画力は素晴らしい。
優しい、懐かしい線を描いていて、その一本一本を見ているだけで陶然となる。

話そのものも、甘やかに懐かしく、そして切なく寂しい世界を描いている。
“男の子の夢”そのものの表題作も良いが、私は『霧笛』が好きだ。
これを“残酷なまでに切ない恋の話”と読むのは、間違った解釈かな。
だが、灯台に同胞の夢を投影してしまった恐竜も、その心情を推し量って語る灯台守も、狂おしいほど切ない恋に身を焦がしているように、私には見えてしまうのだ。
恐らく、これは原作のと言うより、萩尾の色がより強く滲んでいる為だろう。
恐竜は、灯台だけに惹かれてやってくるのではあるまい。
灯台の放つ霧笛に乗って漂う、灯台守の遣る瀬無い想いにも惹きつけられてやってくるのではあるまいか。
共に歩むものを持たぬ悲しみ。
それは一人たつ灯台と同じく、ただ“自分はココに居るよ”と、いずくとも知れぬ地にいる魂の片割れに向けて啼くしかない。
更に穿った(腐ったw)見方が許されるならば、灯台守の想いの相手を、一緒に恐竜を目撃する青年かもしれないと思っても宜しいだろうか。
「あるものを、それがきみを愛してくれるのより、ずっとずっと愛している」
こう呟く灯台守は、恐竜の想いを代弁しているかにみせて、青年に向けて語りかけているのかも…なんて思ってしまうのは、ブラッドベリに対する冒涜ですね。ゴメン、仄かに腐っててw
何れにせよ、自分の過剰な想いに耐え切れず、その対象をいっそ壊してしまうしか術を持たぬ恐竜の姿には、胸が痛む。
それにも増して、青年が去った後も一人残り、新たな灯台の守も勤める男の横顔の哀切さよ。
「ねえきみ この世の中では何をいくら愛しても、愛しすぎることはないって…そう思うね」
だが、青年も、判っていたのではないだろうか?
判っていても、受け止めえないなら、ただ霧笛に耳を傾けるしかない。
ここにいるよ、ここにいるよ。
ただ声のみが、咽び泣く。

とまぁ、何でも腐った視点で見てしまう私の悪癖はさて置き、本当に哀しくも美しい物語であるのは確か。
この他に、幼い日に喪ってしまった恋に殉じる『みずうみ』も良い。
人は、決して二度と手に触れえぬものだからこそ、いつまでもいとおしく思うのかもしれない。

文学と絵の見事なコラボレーションの果実であるこの作品集、是非一度ご賞味頂きたい。
どこか懐かしく切ないその味に、あなたは何を思うだろうか?





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最終更新日  2005年11月08日 01時41分56秒
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