こどもからの『けんぽうってなぁに?』に答えられる“ママ”になる!
先日、子育てママが「未来」について様々なテーマで学ぶ「未来カフェ」の勉強会の講師をつとめました。テーマは、ずばり「憲法」。 敷居をとにかく下げて、難しい言葉を使わないで、そして政治的な話には極力踏み込まないで、という難しいリクエストでしたが、このカフェを主催したTさん&Kさんの「普通のママたちが、気軽に、気持ちよく参加できる会にしたい」という気持ち、本当に痛いほどよく分かって、だから、何としてもこの熱意にお応えしたいと思って準備しました。題して、「こどもからの『けんぽうってなぁに?』に答えられる“ママ”になる!」です。 当日は、Tさん&Kさんの熱意が伝わったのですね、30数名ものママが集い、大盛況、私の拙い話に集中して耳を傾けて下さいました。 盛況だった会の様子、本日付朝日新聞にも掲載されました。 http://www.asahi.com/articles/ASJ6W4Q6HJ6WUTPB00C.html 後日、Kさんから、参加できなかったママたちのために、当日ビデオ撮影した私の話を上映しつつの「シェア会&復習会」が企画されていることをお聞きし、とても心が熱くなりました。法学部の学生でもない、司法修習生でもない、法律と触れ合うことなく「普通に」生活しているママたちが、憲法という硬いテーマの話にこんなにも身と耳と心を傾けてくださったことに、泣きそうな気持ちになっています。本当にありがとうございます。 この熱意にお応えして、ブログ上でも、カフェを再現できたら本当は良いのですが、約1時間の講義でしたので、完全に再現しようとすると大変な大作業になってしまいます。 そこで、本当は反訳したいところですが、レジュメだけ、アップしておきますね。 なお、レジュメの中で引用したキング牧師の演説、私が最初に聞いたのは、高校時代でした。 凄まじい差別に苦しんでいた大観衆の前で、朗々とまるで歌のようなリズムで、厳しい現実を踏まえつつも、あるべき理想と未来を語る姿を映像で目にして、激しい衝撃を受けました。 こんな人がこの世にいるのかと思いました。でも、同時に、「牧師」という職業から、彼を支えているものは、神の力、宗教的な信念というべきものなのだろうと勝手に思い込んでいました。実際に、キング牧師を支えていた理念であることは間違いないでしょう。 ただ、最近、思うところあって、再度、彼の演説を聴き直してみたところ、彼は、生涯を通じて、何度も、独立宣言、そして、合衆国憲法を引用してスピーチをしていることに気付きました。 自宅を爆破され、執拗な脅迫にさらされ、時には投獄されるという凄まじい現実の中で、キング牧師がよりどころにしていたものが「法の下の平等」、「幸福追求権」といった法の光でもあったことに初めて気付き、とても感銘を受けました。 法は人を幸せにするために、人に希望を与えるために存在する。 私たち法律家は、法の役割を地道に語り、日々の生活の中で実践していかなければならない。 そんなことを今回お話ししながら改めて感じました。 ******************************こどもからの『けんぽうってなぁに?』に答えられる“ママ”になる! (自己紹介)葦名(あしな)ゆき・弁護士13年目。7歳息子、3歳娘の母。・東京で1年半→福島県相馬市で2年半→2007年から静岡市、現在に至る。・仕事を通じての目標:「身近」で「優しく」「あたたか」な司法の実現・弁護士の日常:時間に追われてせかせか細々。ドラマと大違い(笑)!【第1 そもそも憲法って何?】 Q1 国民は憲法を守らないといけない。 ○?×?1 キーワード「立憲主義」理解のために法律= 国家権力による、強制力を伴う(破るとペナルティがある)ルール。 国民の代表=国会がつくる。 例 交通違反をすると反則キップ、犯罪行為をした人は刑務所へ ↓ 統治のために権力は必要ではあるものの・・・ 権力には常に濫用(行き過ぎ・暴走)の危険がある ↓ 例:政府を批判する新聞の出版を禁止する法律を作る 権力の濫用は個人の権利・自由を侵害してしまう ↓ 例:新聞社、ジャーナリストの表現の自由 国家権力の濫用をおさえて、個人の権利・自由を守るための「何か」が必要となる その「何か」が憲法 ↓ ★憲法というルールは、性質上、国家権力に対して向けられたもの。 =国民に対して向けられる規範ではない! 憲法によって国家権力に枠をはめ濫用を防ぐという発想(立憲主義)が生まれた。立憲主義=個人の人権・自由を守るために憲法によって国家権力の濫用に歯止め・抑制をかけるという考え方 (第98条)【憲法の最高法規性】 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。(2項略) (第99条)【憲法尊重擁護義務】 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う ★もし、憲法に反する法律を国会が作ったら?(多数決で通れば作れてしまう) →憲法に反する法律は無効。(憲法の効力>法律の効力) 【例:尊属殺人重罰規定違憲判決】(憲法第14条) すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない (刑法199条) 人ヲ殺シタル者ハ、死刑又ハ無期若クハ三年以上ノ懲役ニ処ス (刑法200条) 自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス*1963年:栃木実父殺害事件 15歳の時から実父に性的虐待を受け、5人の子を出産した娘(29歳)が、職場で出会った青年との結婚を実父に切り出したところ、逆上した実父に監禁されたため、実父が生きている限り自分の幸せは望めないとして絞殺した事案。 *1973年:最高裁判決「以上のしだいで、刑法二〇〇条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法一九九条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならず、したがつて、尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほかはない。この見解に反する当審従来の判例はこれを変更する。 そこで、これと見解を異にし、刑法二〇〇条は憲法に違反しないとして、被告人の本件所為に同条を適用している原判決は、憲法の解釈を誤つたものにほかならず・・・」 ★ 裁判所が、国会が多数決で作った法律を無効と判断することは越権行為か? 三権分立(国家権力を立法、行政、司法にわけてそれぞれ独立した機関に委ね相互に抑制しあってバランスを保つことで権力の濫用を防ごうという考え方)。 ★ 司法の役割=多数決では守られきれない少数者の人権を守る最後の砦 多数決が常に正しいとは限らない。多数決の横暴による少数者の弾圧もある →多数決によっても、少数者の憲法上の人権を侵害できない。 →少数者は「多数決で決めた法律だが憲法に反して無効」と訴えられる 憲法が、多数決で決められる法律の歯止めになっている。 ★ 憲法は、「現実と乖離している」という批判に対して →憲法が理想を謳うのは、その性質上、当然。 *暴風雨の海に光る灯台。灯台は船の進路に合わせない。 船が灯台を見ながら進路を決める。 →権力者の都合で簡単に灯台が動かされない目的:「硬性憲法」 (96条) この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。 2 「少数者」ってどういう人?Q2 今まで憲法に助けられたことなんて、ないもん! ○?×?「けんぽうがやくにたったことってないなあ」もし、そうおもったら、あなたはつよくて、おおくのひとのがわにいる。「えー、そんなことないよ。クラスいいんでも、おかねもちでもないし」そうだね。でも、あなたがにっぽんじんで、けんこうで、ふつうのせいかつができて、がっこうにかよえるなら、それは、つよいがわにいることになる。けんぽうがひつようなのは、よわいがわにいるひとたち。こころやからだにハンディキャップをもっていたり、とてもまずしかったり、さいがいでいえをなくしたり、いじめられたり、さべつされたり・・・。そういうひとたちが、みんなとおなじようにせいかつできるように。みんなとおなじに たいせつにされるように。けんぽうはちからをだす。「あなたこそたからもの」(2015年、いとうまこと文、たるいしまこ絵、株式会社大月書店) 「こころやからだにハンディキャップをもっていたり」「とてもまずしかったり」「さいがいでいえをなくしたり」「いじめられたり」「さべつされたり」→人は生きている限り、誰でも「少数者」になり得る。「多数者」が「少数者」に転落する瞬間は無数に存在する。=憲法に助けられる日が来る可能性は誰にでもある。→司法は少数者の権利を守る役割:弁護士は、現実にも様々な裁判で憲法を引用して、主張を展開している。→憲法があるからこそ、言論の自由をはじめとする人が個性を活かしてのびのびと生きていく自由が保障されている。今のあなたの幸福は、憲法によって守られている。3 条文紹介Q3 今まで、憲法を読んだことはない。○?×?*法律家は、条文をとても大切にする人種です。(第11条)国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。(第13条)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。*自民党憲法改正草案 「全て国民は、人として尊重される」(第14条)すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない(2項以下引用省略)*アメリカの公民権運動の指導者:マーティン・ルーサー・キング牧師「I Have a Dream」演説(1963年)から引用。I say to you today, my friends, わが友よ、今日私は皆さんに言っておきたい。so even though we face the difficulties of today and tomorrow,I still have a dream. われわれは今日も明日も困難に直面しているが,それでもなお私には夢があると。I have a dream that one day this nation will rise up and live out the true meaning of its creed: "We hold these truths to be self-evident: that all men are created equal." 私には夢がある、いつの日か、この国が立ち上がり、「我々はすべての人々は平等に作られている事を、自明の真理と信じる」(アメリカ独立宣言、1776年)というこの国の信条を真の意味で実現させることだ。*生命身体に危害が及ぶ、想像を絶するdifficulties(困難)の中で、キング牧師を支えた理念=「法の下の平等」(第21条)集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。*自民党憲法改正草案1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。(第26条)すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する(2項以下引用省略)(第97条)この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。*自民党憲法改正草案 「削除」 4 憲法をみれば、国の「かたち」が見えてくる。 モンゴルの憲法 第5条 「家畜は国の富であり、国の保護下に置かれる」 北朝鮮憲法 第11条 「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮労働党の領導の下にすべての活動を行う」 ↑権力を縛っていない「憲法」 → 憲法を変えるというのは、国の「かたち」を変えるということ。 変えるとしても、どう変えるのかが大事。【復習】1 憲法とは何か ( ) を抑制し、( )を守る基本法2 誰に憲法を守る義務があるのか 現行憲法で憲法尊重擁護義務が課されているのは( )*憲法99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」*自民党憲法改正草案参照1 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。【第2 憲法を変える方法】Q4 憲法を変えるためには、国民投票において、有権者全員の過半数の賛成が必要である。○?×? 1 憲法改正(条文を変える) 【現行憲法】 改正手続は二段階 96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し(注・第一段階)、国民に提案してその承認を経なければならない(注・第二段階)。 この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。 ※「過半数」 とは何の過半数?国民投票法では、 「百二十六条 国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が第九十八条第二項に規定する投票総数の二分の一を超えた場合は、当該憲法改正について日本国憲法第九十六条第一項の国民の承認があったものとする」 投票総数の1/2を超えればよい =棄権者は分母に入らない。 例1 有権者が100人。投票率40パーセントで投票総数は40票。 賛成票が21あれば改正可能。 例2 投票総数3票なら、2人が賛成すれば改正可能。 2 憲法解釈の変更 現政権が安保法案を可決させるために採用した方法 →法案への賛否にかかわらず、圧倒的多数の法律家、憲法学者が反対している。 *(第23条) 学問の自由はこれを保障する。 →法治国家=正しいと思うことを法律上の根拠に基づき主張し、法律が定めた手続きに基づいて主張していくことが予定されている国 *どんなに正しいと思うことでも「手続き」を踏まなければならない、それが法治国家の決まり。例)袴田事件 「私は私の思っていることが絶対正しいと思いましたし、急いでいましたので,時間がかかるので適正手続きを踏みませんでした。でも、あなたは、どんなに急いでいてもどんなに正しいと思うことがあっても、法律の定めた手続きに従って下さいね」 こんなことをいう自分勝手な人があなたの周りにいたらどう思うか。(さいごに)第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。