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2010年11月11日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
待合室
 ものごころついた時からいつも「待合室」で誰かを待っていた。雨の日に帰りが遅くなる母親に傘を届けるためにバスの待合室で待った。父親が帰ってこない日が続くといつもその待合室で最終バスを見送った。母が胆嚢の手術で入院した時には待合室で1日過ごした。そして仕事が終えてからやってくるはずの父親を待った。でもいつも来るのはすまなそうな顔をした父親のお父さんであった。大好きなおばあちゃんがなくなったときも火葬場の待合室でひとりで待った。真っ赤な顔をして怒って出てきた父親は「もう、いい」と私のほうを見ないで出て行った。それきり父には会っていない。母親が仕事を転々と変えるたびに、その店の待合室で面接やらなにやらが終わるまで待った。父親が事故死したことを聞いて駆けつけた警察の待合室でひとりで母親を待った。母親が誰かを刺して刑務所に入ったときも面会の時間まで待合室で待った。2度目の裁判の時に母親に懲役3年が言い渡されるまで待合室で待った。こうして小学校時代が終わり、私は施設で毎日を過ごすようになった。
時が過ぎていった、、母親が自分をおいて行方をくらましたことにも驚かず、中学校。高校とまじめに通った。そして地元の小さな会社の経理に採用されて23歳の時に結婚した。初めての出産。優しい夫は油で汚れた手を石鹸で何度も洗って病院の待合室で待っていてくれた。「女の子ですよ」夫の喜ぶ顔。そうして、母親になった。その後男の子も出産し2児の母になる。子どもが小学校に上がる時、これからの時に夫の会社が倒産し、夫は派遣社員となり家から遠い工事現場で働くようになった。帰りも遅かった。息子のユウキが雨になると私と一緒に父親をバス停まで迎えに行った。娘のサキが胃潰瘍で入院している私によくついていてくれた。ある晩、気分がよくなったので少し歩こうと病室から出て一階の待合室まで歩いた。そこにサキがちょこんと座っていた。「あ!」私と同じだ。いつも待合室でひとりで待っている私をそこに重ね合わせた。「サキ」「お母さん、大丈夫なの歩いて」「ウン大丈夫」といって娘を抱きしめた「くるしいよお母さんはなして」「いいいのこうしていたいの」そこへ「ごめんごめん遅くなって」と夫とユウキが走ってきた「ごめんなサキ遅くなって」「いいんだお母さんの元気な姿見れたから」「大丈夫かお前」「今日は調子がいいの、それにサキの姿見たらうれしくて」何かを悟ったのか父親はニコッと笑って「実はなあ。昼間病院の先生から電話があったんだ、経過がよくて来週には退院できるって」「ええなぜ私に先生は言わなかったの」「そうそうそんなこと言うと無理してすぐに退院できるようにがんばっちゃうからなお前は」ユウキが「父さんあれは」「そうかそうかやわらかいものだったら食べていいって言うんで、ユウキとお前の好きなシュークリーム買って来たんだ、だから遅くなって」
待合室の一角でシュークリームを食べる親子。待っているときに心配で心配でいられなかった自分。待っていても待っている人が来なくなったときに寂しさを知っている自分。豊かな暮らしはできないかもしれないけれど、この子たちに「待っていればきっといいことがあるんだよ」と感じる人生を送らせてあげたい。「ほら、笑うから鼻からクリームが出ているぞ」「ええええ」と鼻に手をやる「うっそー」「もう」カワイイ笑いが静かな病院に心地よく響いた。











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最終更新日  2010年11月11日 07時58分58秒
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