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THE Zuisouroku

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2024/05/12
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カテゴリ:小説











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 神山たちの一行が、マドラの第二広場とも言われる公園に出かけて見ると、人だかりが出来ていた。その中の一人に、一体何事なのかと尋ねると、神々の軍団が降臨したと言うのである。
 人だかりの向こうでは、ホッジ中佐の航空大隊員達が、古代インドのまじない師や、周辺の修行者らに、天空から降りて来た神々の一団として丁重にもてなされていた。
 これを見た神山たちの一行は、その人たちが米軍将校の一団である事を見て取った。
「あの人たちが、昨日旧式の軍用機で飛んでいた人達ですよ。一体何なのでしょうねえ、これは?助けようにもここではあの人たちは、どうやら供養をされている様です。もてなしの具合や祈祷師の振るまい方を観れば分ります。彼らは礼拝の対象にされている。これは、明らかに彼らが神々であると思われている証です。昨日、私も同じ様な礼拝と敬礼を『仏陀』を名乗っているあの修行者にしていたのを覚えているでしょう?」と、神山が言った。
「ああ、確かに!昨日、神山先生は、もう一つの広場にいる修行者に、ああして丁重に礼拝しておられましたね。なるほど、彼らのしているのは、昨日、神山先生のなさった事と同じ様なものですねえ!先生は古代インド人のこういうお呪いにもお詳しいんですから、驚きです!」と、青年が感動している。

 ホッジ中佐ら、米空母艦載機の搭乗員たちの中には、自分たちキリスト教徒がこの、謎の未開の地で、薄気味の悪い多神教の呪いでもかけられてしまうのでは、と怯えている者もいた。彼らにはここが何処なのかさえ見当が付かないのだ。ましてや古代インドだなどと考える者は一人もいなかった。



 そこに、運よく神山たちの一行がやって来た。人垣の向こうに近代人らしき服装の東洋人が数人立っている。搭乗員たちは、神山らに声をかけて見た。
「おや、なんか言ってますね。この人の群れの中では、ろくに声も出せやあしないでしょうからねえ」と、神山は米軍パイロットと思しき一人の顔を見て、声を掛けた。
「たいへんでしょう。でも、ご心配はいりません。彼らはあなた方を神様の集団だと思っているのですから、粗野な事や、無礼な振る舞いをしなければ、あなた方は安全ですよ」
「え?どうしてわかるんです?ここは何処なんでしょう?」パイロットと思しき士官が聞いた。
「紀元前五世紀ごろの、インドです。古代インドの人たちには、空から降りて来た貴方たちが、神様に見えるのです。私はユング心理学者でこういう古代の儀式に、ある程度の知識がありますから、先刻から様子を見ていました。御安心なさい」
「でも、徹夜でこういうまじないを・・。我々は禄に眠ってもいません。助けて下さい」神山の登場を天の助けと、米軍士官が助けを懇願して来た。
神山はこれに応えようと神官らしき一人のまじない師に、持参した高級菓子を供養し、彼を礼拝して、『神々』を自由にしてくれるように、身振りも交えて頼んでいる。持参したお金も渡した。
「神々にはお怒りなさらないで下さいと、彼らは言ってます、儀式が長すぎて申し訳ないとも。皆さんは自由に振る舞って大丈夫でしょう」神山が、米軍搭乗員らに向かって説明した。
 徹夜での儀式に困惑や怯えを感じて、さすがに疲労困憊の者もいた。神山は彼らに、快適な『タパス』と同じぐらいの宿を紹介してもらおうと、とりあえず搭乗員たちを自分たちの宿へ誘った。彼ら搭乗員の安全が、今日の神山たちの調査に上回った。宿へ着くと神山は早速、宿の女将に事情を話し、この宿と同じ程度に快適で、安全な宿を彼らに世話してほしい旨を依頼して、士官らに事の経緯を尋ねた。
「実は、異常な事の連続だったのです。つい先刻までは、タイムスリップしたロンドンで、飛行訓練中でした。何の異常も無く飛行訓練を続けていると、眼下の景色がロンドンや欧州の眺めとは違って、おかしいなあと思っていました。それで、着陸したらこうなってたんです」はじめに神山たちへ、声をかけて来た士官が説明した。
「飛行中に再度のタイムスリップですか。今、時空は布がこう、絞られる時みたいに、捻じれてしまっている。それで、何かの拍子にその様な事がしばしばおこるのです」
「あなたもそれで、この時空間におられるのですか?」士官が尋ねた。
 神山はシヴァ神やその他、これまでの自分たちが辿って来た経緯を彼らに詳しく片って聞かせようと決めて、取りあえず階下のレストランへ皆を誘った。

 『タパス』の一階部分には、商用の客や貿易の外国人客の多いこの宿の事、昼夜を問わず常に快適で、料理も飲み物も美味しいレストランが付属していた。この時代の文明圏には、大抵どこの国々にも同程度の設備が整えられていたが、『タパス』の様に言わば「近代化」された経営で客の要請に応えようとする、少し上級のビジネスホテルは珍しい。
 日が高い内は、常に開かれているこのホテルのレストランは、夜には、夕涼みの客向けにカフェも兼ね、然も酒まで提供する小洒落た店に変化する。従業員も交代するのである。ホテルのフロントには夜間でも誰かが店番をしており、深夜にこの街の港へ入った船の客も、安心してこの『タパス』を訪ねて来た。ホテルは手広くやっていたので神山たちも知らなかったが、同じ『タパス』の新館が、歩いてすぐの所に開かれており、ホッジ中佐ら米軍将兵たちはそこへ宿泊する事になった。困った時は出来るだけ力になるので、何でも相談をして欲しいと神山が言うと、ホッジ中佐は心底から安堵した様である。
 今まで困難に立ち向かってきつかったその頬に、少し赤みが戻った。ホッジら米軍将兵には特に、資金の事が気掛かりだった。突然、全く別な時空に飛ばされてしまうのには、ロンドンの時にも困ったが、今度こそは、もう行く当ても無く、ホッジはその内心で、ほとほと困り果てていたのだった。
 神山たち一行は、ホッジ中佐や知り合えた将兵たちに、自分たちの事を出来るだけ詳しく、聞かれれば隠さずに説明し、この世界的な怪事象が、いまや時代をも超えて起きているのだと言う事を語って聞かせた。
「私たちも実は、二十一世紀の日本政府でこの事象の原因を探ったり研究したりして事の解明に力を使いましたが、中国が侵略して来たり、核爆弾が使われたりともう、日本と言う国自体が、存続を危ぶまれる事態になってしまいました。時空が捻じれるこの怪事変を「般若事象」と呼ぶようになったのも、その様な世界的怪事象に発展してしまったので、いつの間にか世界の皆がそう言う様になったのです。これについては、追々分る事なので説明は省きますがとにかく・・・」神山は海野やその他の皆と共に、この事態について知り得た限りを、ホッジ中佐とその部下たちに説明した。
「こちらには然も強い味方が付いて下さっています。シヴァ神さまは、我々の困難の多くを、速やかに解決して下さいますし、皆さん協力し合えれば元いた時空間へ帰る日もありましょうから、どうか今後はよろしくお願いします」と、神山はこちらの知る事はほぼ伝え終えた。
「するとここにおられる皆さんは、日本政府でご研究をなさっておいでだったのですか。皆さん、お国の政府に大変ご尽力なさったのですね。然も二十一世紀の日本国からこの太古のインドにタイムスリップして来るとは・・・」
 ホッジら士官たちは皆一様に、神山たちのこれまでの経緯に衝撃を受けていた。然も神山たちが元いた二十一世紀では、共産化した中国のために、日本国が危うくなるという。
 この人たちは自分たちのいた時代よりも100年近い未来の人たちなのだ。こう思うとホッジらには、神山たちがどこか不思議な存在に見えるのだった。然も彼らの一行には、インドの神の化身が同行しているのだ。資金繰りやら日常の事は、このシヴァ神が引き受けてくれるのだと言う。それがどういう事なのか、米軍将兵らには理解が及ばぬところも有ったが、ともかくこの時空でやって行けそうである。ホッジはその隊の責任者として常に緊張を強いられて来たが、ようやくその幾つかの心配事から、解放されるのだと思うと、それだけで身体が軽くなった。

 「どうか末永くよろしくお願いします。我々が頼れるのは、皆さんだけです」ホッジ中佐は話の最期にこう言って締めくくり、酒とナッツや魚料理を注文し、もっと気楽に話し合いを続けたがった。
 彼らはこの晩、互いに、この世界での計画を語り合い、明日の神山たちの調査にも、米側から士官数名を同行させて欲しいと願った。
「明後日で良いと思います。今夜は久しぶりに皆さんたち、新たな友人を得てのパーティーですから」
 神山の言葉に皆は大いに呑む事と決めた。
 

 
 大いに呑み、大いに食べる事。これは、海野の大学教授時代の信条でもあった。海野は、麦から作られた辛い蒸留酒をお代わりした。これは、ウイスキーの原型となった酒で、この時代には「ウイスケ」と呼ばれるものだ。洗練されないが辛口で、蒸し暑いマドラの街にはこれが人気なのだった。海野はここ、マドラが港町で、魚が美味しい事を知ると、活きの好いスズキやカツオ、カジキマグロの切り身などを宿に仕入れて来て、調理場の一角を借りるとそこで、仕入れて来た魚の一部を刺身にして見せた。海野はこれらの刺身を更に工夫し、マリネにして米軍の将兵にも味わってもらう事にした。調理場の皆も、この始めて見る魚料理を珍しく、そして美味しく味わった。これを覚えてこのホテルのメニューに取り入れるのだ。
 仕入れて来た魚の残りは、宿で好きに使ってもらうのである。宿の女将さんや、調理場の皆はこの海野の厚意に感謝した。

「なあに、慣れてしまえば美味しい酒ですよお!さあ、皆も呑んだ呑んだ!」
 海野は嘗ての自分を思い起こしながら、この酒を楽しんでいた。
「焦ったって釈迦に邂逅できるとも限りませんし、的確な情報を得てからで良いのです。現段階での調査は飽くまでも、下準備です。様々の雑多な情報や噂などを含めて、これと思う情報は何でも記録して下さい。今後これが役立つ日が来ますから」
「全く同感です。インドがだだっ広い事は知ってますが、今いる此処は太古の昔!あせりゃあしません。のんびり行こう!ね!神山先生」
「そうそう。そんな感じがちょうどいい」
 
 ホッジ中佐には広場の航空機が気掛かりだが、自分たちは多神教の神様扱いなのだと神山から教わって、ある程度の安心感を得ていた。古代インドの時代、神々の乗り物に悪さをする人は居ないだろうから・・・と。
 ここに集まった皆の胸の内は十人十色、皆異なるが、ただひとつ言える事は、神山も言う様に「焦らない事」だ。
 この晩、皆は酒をどんどん吞んだ。酒を呑めないはずだった青年助手も、この晩は、恋人の麻衣と向き合い、果実酒を数杯お代わりしながら久しぶりのパーティーを喜んでいた。雲井、楠ら二人の医師もリラックスして、ヤシから造る、うす甘い発酵酒をごくごくとのんでいる。ほんとうに久しぶりで、皆が羽目を外していた。
 コロはこの宿の女将さんに相手をして貰いながら、すっかり女将さんと仲良しだ。こうして神山や海野たちの宿『タパス』の夜は更けて行った。

 宿の表では野次馬たちが集まっていた。白い肌をした神々が天からやって来て、ここに宿泊していると噂で知ったのである。
 人間には共通する事柄の一つだが、インドでも古代には既に、肌の色で差別は起きていたと言われる。
 白い肌をした人の方が、神々しく見えたかどうか知らぬ事だが、古代インドでは、こうした人たちが上位のカーストを占めていたのも事実である。見かけに左右されるのが人間の特質なのだ。
 現代でも基本的に幼稚な伝統的慣例として差別はおきる。古代から同じ社会問題を解決できずに、ずうっと引きずる醜さは、幼稚の一語に尽きる。
 彼らは、天空から降りて来て、その乗り物も、この街の誰もが知る「第二広場」に置いてあると言うので、時代を問わず、野次馬や口コミが集まって来たのは無理からぬところであった。

 その人だかりを見て神山は、シヴァ神に頼り、こう言った。
「シヴァ神様にお願いが・・・。あの、人だかりの中の主な噂を聞いて、私に教えてくださいませんでしょうか?私では聞き取れないので・・」
「おう。引き受けたぞ。噂を聞いておれば良いのじゃな?任せて置け!どうせわしは、酒も飲まぬから退屈をして居ったのじゃ」
 
 今の神山には、人の口にのごる話題の中心も重要な情報源なのだ。そこに、どんな人物の評判が含まれるかで、紀元前のより正確な年代推定が出来るからである。その情報次第では関連する他の情報と合わせて、かなり先回りをした知識が得られる。釈迦を探す事も容易になるのだ。
 酒を呑まずにいる神の化身のシヴァ神は、人に交わり話を楽しむ方が良いのだ。神山は、シヴァ神という存在に感謝した。資金繰りの事から始まって、身を守ってくれる様々の術、時空間の移動等など、人間には無理な事を簡単に叶えてもらえるのだ。どんな因果でこういう有難い関係を結べたかは分からない。 が、シヴァには何らかの理由があって、我々に力を貸してくれている。遠く離れた古代インドの時空間の星空を仰いで神山は「大いなる意志」の力を感じていた。

 (続く)

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Last updated  2024/05/12 09:45:42 PM
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