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2024/05/14
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カテゴリ:小説











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 海野はこの古代インドの大都市が好きだった。マドラ(madras)の港も入日がとりわけ美しい。適度に人口があり他国に対して適度に開けたマドラ(madras)を、海野は運命が若し自分にそれを許しさえしたら、生涯住みたいとさえ思った。だから神山たちが開いた新しいクリニックにも、海野の持っている海洋生物学者としての知識や経験が活かせたら、尚嬉しい。マドラ(madras)の市民に、間接で良いから何か役に立てる事があれば良いなと、海野はその機会を待っていた。
 雲井、楠の両医師達は二十一世紀では決してできなかったであろう、薬草の栽培やその加工法、そしてそれを丸薬にまで加工する、薬剤師としての技術までをこの古代都市で、全て自らの手でやらなければならないと言う経験を貴重なありがたい事と受け止めている。まだ、三十代の両医師らは、学生に戻った気で日々の経験から、多くを学んでいた。
 特にインド古代からあるこの大地の産物、スパイスとその原材料になる植物の研究と、それらの栽培が、二人の医師達に大きな力となっていた。
 皆にとって、いまこの古代の街で出来る経験は、生涯にわたって役に立つ事ばかりなのだ。



 クリニックには未だ、名を付けていなかった。
 せっかくこの街の皆にも親しんでもらえるようになったクリニックなので、自分らで名前を付してみたい、医師達はここぞとばかりに神山を頼った。
「神山先生?このクリニックですが名前がまだ決まっていませんね。我々で何か名を付しては如何でしょうか?」
「そうですねえ、名前何て忘れていましたが、このマドラ(madras)の人たちに、随分知っていただく事も出来たのだし、それなりの名前を付けなければいけませんね。こう言うのはどうでしょう?」神山はこう言うと紙とペンを取ってそれへ、古代インドの文字で「ayur deva」と書いた。
「どういう意味なのですか?」「まあ、医の神とでも。また、『仁術』と意訳してもらっても宜しいですよ。この時代の人に分る名前が良いと思いましてね」
「なるほどお!『仁』ですか。ぴったし!ですねえ!!」
二人の医師達もこの名前を気に入った様なので、神山はクリニックをこう名付ける事にした。
 こげ茶の厚い木の板を買い求め、白い文字で太くこの名を書いて、クリニックの前に立てかけると、これを見た市民たちは早速、この名前を噂にのぼせた。
 「ayur deva」と白字で、濃い茶色の看板に大書されたこの名はその日の夕方には既に、この街の口コミによって知られる所となっていた。市民の中にはこれを聞いてわざわざ看板を、見にやって来る人まで現れた。
 古代の口コミは貴重な情報源でもあるので、これらの情報を相互に流す役目の人たちが、都市の間を行き来していた。彼らは王に仕える者達で、多くはスパイをも兼ねた。
「マドラに、薬効験かな、新しい医院が出来た」という噂を、相互の都市のあいだに流風させる  のも彼らの役目である。遠方の都市にはこうして情報が伝えられ、それを旅の商人や貿易商人が負って伝えた。
 
 『仁』と意訳して欲しいこの名を、市民はなんととらえているのか、彼らにはまだ分からない。

 

ともかくも、クリニックの名称は定まった。

 『ayur deva』だ。

 (続く)
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Last updated  2024/05/17 10:42:31 AM
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