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THE Zuisouroku

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2024/06/14
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カテゴリ:小説











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 海自の新鋭空母、『信濃』を含む、船足の速い航空母艦群と、その支援艦艇を沖合へ。脚が遅く砲撃の得意な戦艦群を、ベンガル湾内へ待機させ、二段の構えで『信濃』艦長の橘は、敵を待ち伏せ、航空機での先制攻撃を掛ける作戦に出た。
 無論、作戦開始の前に橘艦長は、抜かり無く『信濃』から、予め無人機を発艦さていた。
 
 アメリカ海軍の空母『レキシントン』に帰還した、ホッジ中佐もその大隊を率いて出撃する。
「無事に帰還してくれよ!中佐!!待ってるからな!!」励ましの声が飛んで来る。
 敵のレーダーに映っても、その情報が無い第二次世界大戦当時のレシプロ機では、敵にその機種の区別がつかず、戸惑う間に脆い二十一世紀の艦船を攻撃してその後に、『信濃』から飛来したF-35b がステルス性能を活かして本格的な攻撃を掛けると言う作戦なのだ。
 この航空作戦は、主として敵空母に向けられる。空母をやってしまえばその後は、航空機を失った敵艦隊を、戦艦群の砲撃によりせん滅し易くなる。完全な奇襲攻撃である。

 戦艦『大和』の艦橋では、司令長官の山本五十六が訓示をしていた。
 我々の時空で太平洋戦争時に、ハワイ作戦の時に用いられたあれと、よく似た訓示である。
 時空を異にして、その訓示は今、中露艦隊を相手に戦う、日米全軍に発せられた。

「時空の興廃は、本作戦にあり。各員、奮励努力せよ」

 時空間は異なっても、神、否運命と言うものは時に、この様ないたずらをする。



 一方、『信濃』も第三艦隊やハルゼイ提督の率いる米空母群と共に、その艦体に風を切らせて、インド洋上を疾走していた。
 先行する南雲忠一提督の、日本第三艦隊は一足先にその艦体を風上へと向けて、艦載機を発艦させているのが見える。
 その旗艦『赤城』が、最大戦速の33ノットで白波を切りながら疾走して行く。
 それに倣う様に『加賀』『飛竜』『蒼龍』『翔鶴』『瑞鶴』の各空母群からも、艦載機が次々に発艦している。



『信濃』艦長の橘はこの壮大な光景に言葉を呑んだ。
「・・・・。」
 橘は双眼鏡を手に、目視で第二次世界大戦当時の日本空母群の艦載機の発艦に見入った。
「信じられんね!ものすごい光景だよ!!」
「はい。今から八十年以上前に、日本人が造ったものです・・。よく造ったものですよね!凄いものです!我々の艦さえ、最大戦闘速力が30ノットなのに、彼らはもっと速い。付いて行くのがやっとですね」と、脇に立つ、後藤二佐が言った。
 橘艦長はこれに軽く頷きながら「いいか!無人機からの偵察情報は、日米の各艦と共有するんだ!レーダー情報も、各艦が共有出来る様に、無線で構わんから伝え、相互の連絡を怠るな」と、命じ、また視線を大日本帝国海軍の空母群に戻した。
「一隻も、いや!一機も失うな!!」
 この声に、CICの要員たちの間に、良い意味の緊張感が走った。

『レキシントン』ではあの、ホッジ中佐が本来の姿へと帰っていま正に飛行大隊を率い、飛び立つところであった。
 ゴーグルを装着し、戦闘服を身に付けたホッジ中佐は、ドーントレス急降下爆撃機のコックピットへと、身軽に飛び乗ると、航空甲板上で見送っているハルゼイ中将に敬礼を贈る。
 ハルゼイは既に、顔を赤らめて興奮している。その赤鬼の様な顔でハルゼイは、ホッジ中佐に敬礼を返した。

「いけえ!ホッジ!!絶対に敵を沈めてやれ!!いいか!!一つ残らずだ!!」ハルゼイがこう、ホッジへ声援を送っている。これでも励ましのつもりなのだ。ハルゼイは戦闘が終わるまで、この調子で、右手の拳を振り上げながら、怒鳴り続けているのが常の姿である。彼は、まさに「猛将」なのである。
 
 ホッジは「がたん!」とキャノピーを閉めると、レシプロエンジンの心地よい、軽快な音を鳴り響かせて、インドの空へ飛び去って行く。上空では、大隊長機を待って既に部下たちの機が、空を覆う様に囂々と、エンジン音を響かせ、編隊を組んでいた。

 中露艦隊ではそのレーダーに映る、見た事の無い影が、一体何なのかを考えていた。
 ここが古代インドの海上である事に気が付いていない彼らは、この見かけない影が、結局、大きな鳥の群れであろうと、誤った推測を立てて、未だ何の警戒もしてはいなかった。
 とにかく衛星情報が使え無い、古代の世界に来てしまった事が、彼らの不運である。陸がどちらかさえ、彼らは未だ分からずに、双眼鏡で陸を確認しようとしているところだ。
「衛星から何も情報が入って来ないのは、壊れたんでしょうかね、衛星が?」
「他の艦にも情報が来ない様だぞ。とりあえずコンピュータだけは使えるのでまだマシだが・・」
 だが、そのコンピュータが、情報不足から、映るものを敵か味方かが識別できない今、中露艦隊は、そこに映っているレシプロ機の群れを、鳥の群れだと信じ込んでいる。まさか、それが自分たちを狙って来る、第二次世界大戦当時の、戦爆連合の航空機が成す大編隊であるとは、想像だにしていなかった。

 日米連合の航空編隊は、それと知らぬ中露艦隊を上空から目視できる距離まで接近していた。
「もらった!敵は未だ、上空哨戒もしていないぞ!」ホッジ中佐が後ろの射撃手、ダガーレン軍曹に向かって叫んだ。
「私には、後ろ向きで分かりませんが隊長!少なくとも後ろのこっちは、安全です!」
「分かった!よし!待ってろよ!もうすぐだ!!」ホッジはドーントレス急降下爆撃機を、中国空母のひとつへ向けた。

 アッと言うまに、ホッジ機は、中国空母『遼寧』の真上に至った。ホッジが後方に付き従う、部下の数機に翼を振って合図を送った。「掛かれ」の合図だ。

「おーし!いくぞ!ダガー!!」
「はい!隊長!」
 体がひきつる。同時に、エンジンの音が急激に大きく鳴り響く。ホッジ機は、空母『遼寧』の真上を捕捉して、その航空甲板上へとほぼ、垂直に近い角度で急降下している。何の抵抗も見せない敵空母の航空甲板をしっかりと捉えたホッジは、操縦桿の頭部に付いているpressボタンを押した。爆弾は吸い込まれるように『遼寧』の甲板を直撃した。
 ホッジは、爆弾を投下するとすぐに、操縦桿を思いきり引く。
「ぐ!!ん!~!!」と体に重圧が加わった。今度は逆に、機がその機首を45度も上向きして、敵の攻撃から逃れようと、機体を震わせているのだ。がたがたと音を立て、キャノピーが軋んでいる。
ホッジ中佐は、操縦桿を右へと切り、機体の角度を弛めながら上空へ向けた。エンジン音がやや静かになった頃、ホッジはダガレンー軍曹に声を掛けた。「ダガー!どうだ!」
「はい!あの空母が燃え上がっております。味方の爆弾が次々と!!」
「そうか!やったな!ダガー!」
「はい!隊長!」

 ホッジ中佐の率いる大隊が、中国の空母『遼寧』に襲い掛かり、その脆い艦体は、もはや復旧不能に陥った。他に中露の空母が二隻いる。それらもまた、ホッジ飛行大隊の餌食になろうとしていた。
 無警戒でいた、中露の連合艦隊は、ドーントレス急降下爆撃機の群れと、日本の九九艦爆、彗星艦爆の群れに襲われ、爆撃され放題の有様だった。
 中露艦隊の乗り組み員達は、一体何が起こっているのか、いま尚、理解してはいないのだ。
 空母『遼寧』『アドミラル・グズネツオフ』は同時に火柱を上げて爆沈寸前の状態だ。その、さらに上空を、哨戒の為に、ゼロ戦とF6F の群れが覆っていた。
 中露艦隊はもう、手も足も出ない。

『レキシントン』艦上では、早くも帰還する、ホッジ航空隊長の爆撃機を甲板要員らが目視し、それを甲板長に報告している。

「ドーントレス!!接近しまーす!」
 ハルゼイはその声を聞いて勝利を確信した。すでに日本の海自、最新鋭空母『信濃』が彼らに、戦況を伝えていたが、ハルゼイは帰還する味方機をその眼で見るまでは、その戦況報告を信じられなかったのである。

「よくやったぞ!!ホッジ!!」
 ハルゼイは地団駄を踏んで喜びを表し、ホッジ機の着艦を見守った。
 他の機も、次々と無傷で帰還して来るのを見て、ハルゼイはますますその怒鳴り声を大きくし、身体で喜びを表している。
「よくやりやがったぞ!!奇跡だ!!」
 まるで、子供の様に脚をじたばたさせながら、ハルゼイは航空隊の帰還を出迎えていた。
「敵の空母二隻は仕留めました。他にも小型ですが空母がありましたが、それらも今頃は、我が軍の餌食になっていると思います、提督閣下」
 
 ハルゼイは、報告するホッジらを抱きしめ、握手し、あらゆる方法で彼らを誉めた。こんなに褒められては恐縮だと思わせるほどハルゼイは、彼らの成功を褒めちぎった。
 ホッジ大隊の行方が知れなくなってから彼は、ずっと胸につかえていたものを、すっかり降ろす事が出来たのだった。
 先日、行方知れずのホッジ飛行大隊が突如、帰還したと思ったら今度は敵空母をやっつけてくれた。こんなにうれしい事が重なって、ハルゼイは踊り出さぬばかりの喜びを、どうして表せば良いのか、知れないのだ。ハルゼイは握りしめたホッジらの掌を、未だ放さずにいた。

 一方、日本艦隊の戦艦群は、海自の空母『信濃』から敵艦隊の位置情報を無線で知らされ、早速その座標位置へと巨大な艦砲を向けていた。
 戦艦『大和』はじめ、『武蔵』『長門』『伊勢』『日向』などの巨大なその艦砲が、敵艦隊に止めを刺そうと、発砲命令を待っていた。

「あの未来からやってきた空母『信濃』もやりますなあ。こんなにも正確な位置を報せて来るとは」と、第一艦隊の旗艦『大和』座乗の参謀長、小沢治三郎が山本五十六に言った。二人の顔には余裕の落ち着きと、柔らかな表情が浮かんでいた。
「全くだ。俺達はあの未来艦に感謝しなくちゃ!」と、山本も応じた。
「そろそろ!長官」
「うん。」と、山本が頷く。

 砲術参謀が「はい!」と応じると同時に、撃ち方用意の号令が、艦内に響いた。甲板上には、誰もいない。艦外部への出入口に設えてあるハッチが、全て閉め切られてれているのを再度確認した砲術長が「撃て」と下令した。

 ずしーんと来る衝撃が、『大和』の40センチ主砲の威力を、艦全体へと伝える。
 艦橋までもくもくと、黒煙が上がって来た。他の戦艦の主砲も同時に火を噴いていた。
 これまで大人しかった戦艦群は、いよいよ、その本来の姿を現した。

 『大和』以下の戦艦群が、三斉射をするのだ。他艦からの発砲音も物凄い。その振動は、この巨艦の分厚いガラスを通してさえも感じられる程である。日本戦艦群の三斉射は空気をびしびしと震わせた。その威力は、山本の座乗する『大和』の艦橋内にも伝わって来た。
 
 耳に栓をしたくなる程、大きな砲声が『大和』の艦橋にも響いている。
 艦橋の皆が耳元で大声を出し合い、互いの意志を伝達し合っていた。それでも聞こえなければ、相手が長官であっても、その脚を蹴り、背中を叩いても構わない決りであった。
 
 山本は、狙いを定めている方向へと双眼鏡を向けた。水平線上に、黒煙が上がっているのが見える。あれがそうかな、と山本は思った。
「おい、あれが、敵艦隊のいる所か?」
 山本の大声に、 小沢も双眼鏡で確認した。小沢治三郎は砲術では無く、水雷が本来の専門である。だが、あの黒煙は確かにと、小沢も思った。

「敵艦隊が燃えているのでしょうか?」小沢はこう、大声で伝えた。
 すると間も無く、「空母『信濃』より入電!!敵艦隊は、壊滅した。我、これより、敵将兵の救助に当たる」と、作戦参謀が艦橋へ駆け込むなり、報告した。
 
 日米空母群は、最前線の近くに占位して、敵艦隊から上がる火柱や黒煙の地獄絵図を見ていた。戦死した、敵の乗り組み員に心の中で冥福を祈り、敬礼を送りながら海自の空母『信濃』からも、生き残った敵将兵達のために、救助要員を送っていた。

 航空攻撃のあとに襲い来る、日本戦艦群の砲撃を、まともに喰った艦体の弱い現代艦の群れは、ひとたまりも無かった。
 『大和』を始めとする巨大戦艦群。その巨砲の攻撃を受けた中露連合艦隊は、ものの数分で海中へと没して行った。沈んで行く乗員たちには、何が起きて何故、自分たちが沈むのか、理解する暇も無かった・・。

 そのころ『大和』では「撃ち方止め」が下令されていた。海自の空母『信濃』からの報告で、すでに敵艦隊は壊滅、海没したと知って、司令長官の山本は、その柔和な表情を変えなかった。
 直言居士で頑固一徹な小沢治三郎も、いつになく柔らかい表情をしている。

「なんだか、あんまり早く、決着しましたね、長官。こうなるってーえと、我々のこの巨砲がものを言ったというわけでしょうなあ。あの、未来から来たと言う空母の艦長が考え出した作戦が、ものの見事に当たったと!こー言う訳ですね」
「未来の空母とその艦長か・・・。確か、あの男は、橘と言ったねえ?あの男、中々の策士だぜ、我々の、この巨砲の威力を試させたかったのかな?実戦ではまだ、一度も使った事が無かったこの、40センチ主砲をなあ、まるで何か知っていた様に撃たせてくれたが・・・。然し、たったの、三斉射で壊滅してしまうとは、敵も何か、脆過ぎやあせんかね?」
「航空作戦が成功したからでは?奇襲でしたからねえ。まさしくこれは、我、奇襲に成功せり、ってーえとこですな!」
「あははは!全くその通りだな!我、奇襲に成功せり、か」
「歴史に残りますかな?あはははは!」
「私の訓示が歴史に残るかどうかは、神様だけが知ってるさ。だが・・・。」山本は、納得が行かぬ何かがある様に、ここで言葉を切った。
「え、長官?だが、何です??」と、小沢が尋ねた。
「あ、いやあ、何。あの未来の空母艦長、橘君と言ったなあ?橘君は、海上自衛隊の、一佐とかいう階級だと言っていたな。海上自衛隊は、軍隊では無いのだとも。然し、俺達の流儀で言えば、彼は海軍大佐だ。彼は何かを知っている。俺達が知らない何かをね・・。俺が橘君のこんどの作戦に乗ったのは、橘君が、敵空母の数や性能を、前以てよく知っていたし、それに俺達の持つそれぞれの戦艦や、空母の特性をも、よく理解していたからさ。とにかく、何故か橘大佐は、俺達の事をも含めて、前以て知っていたと思われる節がある」
「我々の事を、ですか?」
「うん。橘君は、俺達の事も、百も承知でこんどの作戦を練ったとしか思えんよ。然も、博打みたいな奇襲作戦をねえ。一つ間違えば、俺達がお陀仏だったろうさ。彼はそれを知っていて、我々を作戦に乗せてくれたんだろう」
「確かにねえ・・。おっしゃる通りなのかも知れません。戦艦が後方に待機して、空母が先に立って敵艦隊に、向かうなど、幾ら支援艦艇が一緒だとしても無茶な作戦でしたが・・。我々の事で、橘大佐が何かを知っている、とおっしゃいましたね長官?橘大佐は何を知っているのですか?」
「判然とは言えないが、俺達には言えない何かだよ。何故、橘君はそれを、黙っているのだろう?」
「なるほど、我々には言えない何か、ですか。」
「うん。何か、さ。何れにしても、橘君は優れた海軍軍人だ。大佐にして置くのが惜しい器だと言う事だけは、俺にも分るよ」
「はい。そこは全く私も同感です、長官。惜しい器・・。橘大佐によれば、彼が勤務するその、海上自衛隊は、平均的に五十代で退官させられてしまうとか、橘君ももうすぐ海軍、あ、いやあ、海上自衛隊とかを、辞めさせられてしまうのですねえ、惜しいこった!」
「全くだ。退官したら我が海軍に、是非!欲しい男だよ!」
 
 山本と小沢の二人が話していたその空母、『信濃』からは、山本やハルゼイ、南雲らが見た事の無い、不思議な航空機が救助に加わっていた。
 第三艦隊の長官、南雲忠一提督と、その参謀長の草鹿任一少将は、その空中に静止して人員救助に当たっている、不思議な航空機を目視で見ていた。
 第三艦隊の旗艦『赤城』もまた、敵兵救助の為に、戦闘海域に至ってカッターを降ろしているのだ。



「おい、みろ。ありゃあ、なんだい?」と、南雲中将が言う。
 参謀長の草鹿少将も、艦橋から口をあんぐりと開いたまま、そのヘリコプターが救助に当たっている模様を眺めた。
 どういうことなのか、分からなかったが、未来から来た『信濃』と言う空母はこれまでも、自分たちには到底、出来ぬ技を見せていた。
 アメリカ東海岸でもそうだったが、日本海軍の、ソナーを備えた駆逐艦よりも早く、空母の『信濃』の方がそれらの駆逐艦よりも正確、迅速に、日本海軍がその存在を知らずにいた敵、ドイツ海軍潜水艦の存在を報せてくれた。
 駆逐艦でも分からない潜水艦の存在を、空母が探知して報せてくれるなど、南雲にも草鹿にも、到底考えられない事であった。然も、その時は、空母『信濃』から飛び立った対潜ヘリが、ドイツ潜水艦隊を全滅させたのだった。
 
 また、遠く水平線の向こうまで、その有様をまるで見ている様に細かく把握する能力を見せたりと、『信濃』の性能に、彼らは度肝を抜かれる思いなのであった。
 かてて加えて、今回は、『信濃』から飛び立ったヘリコプターの行う救助作業の様子が、南雲と草鹿を尚一層、驚かせている。

「空飛ぶカッターボートと言ったところですねえ!空中で静止しながら敵将兵を救助している!それに救助も早い!然も、よく訓練されてますなあ!」草鹿も驚きを隠さない。
「あんなのが敵に回ったら、俺達は大変だぞ!!」
「全く、おっしゃる通りですねえ!『信濃』みたいなのが味方で良かった!」
 
 『信濃』の艦長、橘一佐は先に上げて置いた、無人偵察機から送られて来る戦況を、モニターを通して見ている所だった。モニターには、燃え上がる中露艦隊の様子がありありと、映し出されている。
 橘艦長は、この映像を通して、第二次世界大戦当時の戦艦の威力と言うものを、まざまざと見せつけられた。文字通り、その巨砲に襲われた艦艇は、一つ残らず爆沈していた。あっと言う暇もなく、中露の各艦は一瞬で海中へと消えて行った。
 
 第二次世界大戦当時の軍艦と一緒に戦って、『信濃』艦長の橘は、自らの作戦成功を喜ぶよりも、第二次世界大戦当時の空母や戦艦の、その優れた戦闘能力に、逆に尊敬の念を抱いていた。
 日米の航空機の優秀さも、実際に戦場での戦いを見ると、とても、これらが八十年以上も昔のものだとは思えなかった。
 戦艦群の、止めの三斉射にも脱帽だった。その、巨砲の弾をまともに食らい、盥の様に真っ二つに割れて、爆沈する現代艦の現実を見て橘は、恐怖を超えた、畏怖をさえ感じるのであった。
 既に海上には、なんとか浮かんでいるのが精一杯の艦艇が、二つか三つあるだけだ。他の艦は一瞬で沈んだので、救助には手が掛からない。その一方では、これが逆の場合も有り得たのだと思うと、背筋に寒気が走るのを覚えた。
 橘は、モニターを通して、戦死した敵将兵の冥福を祈りつつ敬礼を贈った。

「まさしくこれは、我、奇襲に成功せり、だな・・・。」橘は呟いた。
「はい、艦長。我々のF-35bの、出る幕がありませんでしたね」と、橘の脇で控えている後藤二佐が言った。

 救助された人たちの中に混じり、思ってもみなかった重要人物がいるのを橘らは後に知る事になる。
 それは、国連の「欧米中心主義」に対する抗議のため、その艦上から国連に、メッセージを発しようと乗艦していた、中露両国の元駐米大使であった。軍服では無く背広姿のこの二人はいま、『信濃』のヘリコプターに救助され、その機上にあった。

 (続く)

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Last updated  2024/06/15 09:38:30 AM
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