氷雨ふる横須賀
「横須賀」と言う地名の響きには、JAZZとバーボンと洋モクが良く似合う気がする。これは横須賀を知らないある種余所者が考える既成概念かも知れないが、それほどに横須賀は異国情緒があって、神戸や横浜よりもアメリカ臭い感じがする。それは、横須賀が列記とした軍港であるからかも知れない。かつて、舞鶴を訪れた時、そこに海上自衛隊のイージス艦が巨体を露にして接岸していたのを見て、帰還兵の引き上げ港として有名な舞鶴はやはり軍港だったのだと思ったものだ。横須賀は横浜と鎌倉の間に張り出した三浦半島の中ほどに位置している。横浜から京急電鉄で20分ばかりだろうか、町並みも都会的で交通の利便も良い。最初は新幹線の新横浜駅からレンタカーで三浦半島を横須賀・観音崎・三浦・葉山・逗子と回ろうと計画していたが、この2月の三連休、なんと運の悪いことに大寒波が襲来し太平洋側も含め日本中雪と言う悪天候で、止む無くレンタカーをキャンセルし、電車旅となった。ちなみに旅行かばんを止めリュックにして万全を期した。少し話はそれるけれども、最近、国内旅行でもあのコロコロの車の付いたボストンを持ち歩く旅客が多い。確かに本人は楽だろうが、新幹線でもホームでも階段でもやたらと邪魔になる。特に雑踏するホームで我が物顔にカート(コロコロ付きボストン)を引き回し、時には歩く人に何度もぶつけながら暴走するお姉さんが多い。実はとても頭にきている。10日ぐらい滞在する海外旅行なら分かるが、たかが1~2泊の旅行なら買い物袋でも充分だ。旅馴れの無い日本人の愚行を露呈しているようで恥ずかしい。横浜もなかなかセンスの良い街って感じがする。何より港町で海の香が漂っているところがいい。銀タテも海に近いところで生まれ育ったから親近感が湧くのかも知れない。腹ごしらえにとバーガーショップに入った。無論、マクドナルドでもモスバーガーでもない。東京に良く出かけるので知ったバーガーキングでもない。横浜バーガーなるものをオリジナルにしたお店。ただし、凝った作りはいいが一人1,800円はちょっとお高い。東京近郊の食い物の店の破格に高いのは古今問わず変わりがないと言うことらしい。横須賀。たどり着いて見ると、一見普通の街の様で、外国人も多く一見してアーミーと分かる。防衛大学の学生なのか詰襟の制服・制帽姿が目立つ。何だか街の空気が軟派じゃない感じがする。お隣の中国や北朝鮮の不穏な国際情勢からしても、今では自衛隊やアメリカ軍に拒否感は余り無い。元々、反戦歌とピースマークで育った世代だから、軍事的な問題は避けたい気持ちだが、凛々しい彼らを見ていて、どんな事も一方的な視野で考えてはいけないと考えた。もしも戦争などあってはならないが、その危険性に対して如何なる抑止力も排除してはならないと改めて思う。その昔、この三浦半島の浦賀にマシュー・カルブレイス・ペリー海軍代将が黒船を擁して来航し鎖国政策をとっていた日本に開国を迫った。まさにその地なのである。日本の近代の歴史はここから始まったと言ってもいいが、それにしては、京急浦賀駅は全く貧弱なもので、コインロッカー一つ無く、お陰で観音崎までバスに乗り、観音崎灯台にはリュックを抱えたまま小高い山道を氷雨に降られながら歩く羽目になった。東京湾を一望する観音崎に立って、蒸気を吐きながら黒いアメリカ軍艦の襲来を見た日本人はさぞかし驚いた事だろうと、疑似体験のような感慨にふけった。横須賀での1泊はメルキュールホテル横須賀で。フランス系ホテルという事は分かるがそれ以外は余り良く知らない。調度品のセンスも良くフロントクラークやボーイの対応も感じが良かったし、朝食の時などの日本人に対する対応も外国人対するそれも何変わりなく実に自然で居心地の良いホテルだった。まあ、おじさんには畳の部屋に温泉ってのが似合っているが、たまにはこう言うグローバル・スタンダード(このホテルがそうかどうかは別にして)なのもいい経験だ。それに比べて2日目に泊まったマホロバマインズ三浦は、まあ何でも有の一大リゾートで、部屋も洋室あり和室あり馬鹿でかいリビングにキッチンも完備のコンドミニアムで大人数で泊まるには持って来いだ。ただ大浴場に行くのに、マンション並みに一度外に出てエレベーターに乗らないといけないので、この厳寒の夜には鼻水が出て参った。館内にはスポーツクラブもあり、スイミングをしてそのまま温泉クワパークにも行けるので、近隣からの日帰り客も結構多い。三浦半島の突端は京急「三崎口駅」からバスで30分の城ヶ島ってことになるだろう。3日目はあの厳寒の氷雨が嘘のように麗らかに晴れ渡った。三崎のマグロと言うぐらいここかしこに「マグロ」の看板が目立つ。相変わらず駅にコインロッカーが常備されていないのでリュックを背負ってテクテク歩く。結局、県立城ヶ島公園を徒歩で走破した。(走っていないので歩破したと言うべきか)まだ、葉山・逗子にも行っていないが、これはいずれ行くことがあるだろうから、その時の楽しみに取っておこう。最近は自分でも随分と旅馴れた気がする。今回のようにグループの場合もそうだが、一人でもどこにでも普段着で(気持ちの問題として)行ける自信がある。冬場はちょっと厳しいが、気候が良ければ別に決まった寝床が無くても1日ぐらいなら問題ない。そしてもっと多くの物を見て多くのことを感じたい。人々や自然や頭上の宇宙も。■ DegBook ■ ⇒ 「氷雨の横須賀」メルキュールホテル横須賀マホロバ・マインズ三浦