人間の生み出した手段が目的に格上げされるケース。
貨幣などはその格好の例だ。貨幣はそもそも物々交換の手間を省くために考案された。即ち、貨幣が存在しなかった時代、例えばりんごは持っているが卵は持っていない人が、卵を得ようと思ったら、卵を持っていて、しかもそれをりんごと交換してもいいと思っている人を探さなければならなかった。これはとても手間がかかるから、何とでも交換できる物、すなわち貨幣が生み出された。貨幣はこのように、物々交換にかかる手間を省いて、人間の本来の活動(それは狩かもしれないし、芸術活動かもしれないし、戦争かもしれない)に専念するための手段にすぎなかった。ところが歳月を経るうちに貨幣は「何とでも交換できる」という他の物にはない特質により、人々の欲望を激しく煽る様になる。そしていつしか物々交換にかかる手間を省く手段に過ぎなかった貨幣が、人生の目的にまで格上げされるケースまででてきた。