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2005/10/08
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カテゴリ:novel
「…何だこれは…?」

大都会のど真ん中、その堅苦しいスーツにネクタイをきつく締めた佇まいで一人で呟いた。

暑い日差しに隣を急ぐ人々の冷たい、冷え切ったマネキンのような視線が集まる。

ただ一瞬その視線を寄せては、呆れたように顔を戻す。

その一人一人に、慌しく目線を合わす。

まるでたった今この場所に現れた様な、自分の存在を疑うような挙動不審な態度だった。

ふと、我に返ったようにスーツの先から大きく伸びた手の平を見つめてようやく羞恥心が目覚めた。

慌てて人の蠢く大通りから姿を撒いて、人気の無い道へと急ぐがその道筋もハッキリしない。

今にも転びそうな皮で出来た靴は、思ったよりも使い古されていて、着ていたスーツは何とも地味な灰色だった。

よたついた体を引っ張りながらやっとの事で人気の無い道に転がり込む。

すると同時に自らの体を漁りまわした。

ネクタイは地味なスーツのペアなのか、ガラも無い灰色一色。

中に着込んだカッターシャツは、想像よりもよれよれで汚く、アンダーシャツは伸びきった白いものだった。

ズボンも灰色だ。左腕には時計がついている。こんなものしていた覚えは無い。

ポケットにはほとんど使い切れてない携帯、ハンカチ、財布。お金も1万前後の程度だ。

呆然として、髪をかき分けた。また異変に気付く。

こんな髪型にした覚えはない。

「…ぅゎ…うわぁ…何だこれは…!?」

慌てて奥まった人気の無い道から飛び出し、周囲を見渡しながら、それこそ気違いのように走った。

目をも走らせ、見つけたコンビニ飛び込む。

店員から、たまたま居合わせた客からの冷たい不審な目線と合わせる様な事も無く、一目散に化粧室に紛れ込む。

鏡の前に顔を突きつける。

誰だお前は!?と言わんばかりに睨みつけたその顔は、いつもの見慣れた自分の顔だった。

ただ、髪型と姿、明らかに変わっていた。

「…はぁ…。」

少し息を落とすと、そのまま便座に座り込んだ。

そして、大きく両手で前髪をかき上げると、頭を押さえ込んで目を閉じた。

たった今さっきまで、大学で自慢の撥ね上がった髪型で講義を受けていたはずだった。

雑誌にも何度か載った事のある自慢の服装で、片手の携帯には数え切れない数のアドレスを抱えて、左手には沢山のアクセサリーが巻き付いていた。

夢か?

いや、断じてそれはない。

珍しく真面目に講義を聞いていた。

珍しく、しっかりと教授を見ていたら、教授はいきなり信号に変わった。

驚いて立ち上がると教室が道路に変わった。

見渡すと、周りにいた生徒は、通行人になった。

未来にでもタイムスリップしたとでも言うのか。お笑い種だ。

呆れたように目を開くと、思い出したように携帯を取り出した。

見れば、ごく最近の新しい機種で、年月日も確かに今日の日付だ。

アドレス帳を見るも、家族と、会社の人のみだ。

にしてもふざけてる。家族の登録名が、妻、娘、息子…だと。

せめて名前ぐらい入れろ。これじゃあ何も分からないじゃないか。

冷め切った様に携帯をポケットにしまうと、今度は財布を取り出す。

名刺や免許証、身分証明書などを取り出すも目新しいものも何も無い。

何の変哲も無く、ただそこに知り尽くした自分の表向きの姿があった。

役に立たない所持品をしまい込むと、溜息をついて天井を仰いで押し黙った。

パラレルワールドか。いや、そんなもの存在しないだろう。

悪戯…か。そんな馬鹿な。俺の目の前で教授が信号に変わったんだ。それも有り得ない。

誰かと入れ替わったのか。だが、中身はまさしく自分だ。

じゃあ、時と場所が変わったのか。いや、時に変化は無い。場所と服装だけだ。

…このまま考えたって答えには至らないだろう。

ここの場所は正確には分からなくとも、1、2度訪れた記憶がある。

ここからなら、そう大学のキャンパスまでも遠くない。

一番の手がかりがそこにあるはずだ。

思いついた様に立ち上がると、トイレを落ち着いて出た。

手を水いっぱいにすると、髪を撥ねさせた。

そしてコンビニを出て、周囲の地理を確認すると、すぐにキャンパスへと向かった。

電車をすぎてキャンパスの入り口まで足を急がせる。

駅からすぐ近くの広いキャンパスの入り口に立つと、前方に見覚えのある服装が視界に入り込んだ。

あれは、間違いなく少し前の自分の格好だ。

疑ったように目を擦らせて見ていると、自分の格好をした男は少しずつ歩み寄ってきた。

「…誰だ…?お前…?」

思わず息を呑んだ。

「…お前こそ…誰だよ?…。」

「…ドッペルゲンガー…?」

「…まさか…第一、何で俺のスーツ勝手に着てるんだよ?」

「お前こそ俺の服を勝手に…。」

「てゆーか、誰だよ、お前。」

「俺は俺だよ。お前こそ…何勝手に人のカオ盗んでんだよ…!?」

「顔を盗めるわけがねぇだろう…とりあえず…落ち着こう…。」

まさに自分の服装をして現れたのは、自分の顔と瓜二つの自分だった。

聞けば、そいつの生まれは田舎で、都会生まれの俺とは全く別の環境にあった。

中卒で職に就き、幾つか転職して今の職に安定し、18で結婚しその年に双子の子供を授かったと言う。

名前も顔も体格も等しいが、生きた環境には共通点は無しに等しかった。

お互い、興味と恐怖、好奇心にかきたてられ質問を繰り返した。

しかし間も無く、激しい衝撃とともにその議論も阻まれ、意識が消え失せた。

途切れ薄れていく意識の中で、唯一掴めた事は、おそらく俺たちがトラックにはねられた事実だった。

彼らの遺体は迅速に大学の前から姿、跡形も無くそこから消えうせた。

そして遺族には事故による衝撃で面会謝絶の入院手術との報告のみが届いた。




「昨日運ばれてきた16世代は今どこだ?」

「…ただ今解剖をして今回の失敗の原因を探っている所です。」

「…そうか。原因が解明したら処分するのか?」

「いえ、上手く解剖、再生が出来れば16世代として再び日常の中へ戻します。」

「だが…何故記憶の入れ替えなどが起こったのだ?」

「分かりません。今回その原因が分かれば、次の世代で手が打てます。」

「他の16世代はどうなっている?」

「まだ…今回のような記憶の入れ替えの例はあがっていません。」

「…しかし、このような事が万が一実用化が決まってから起きたのでは…取り返しのつかない事態になる。」

「それは重々理解しています。今回の失敗は決して無ではありません。」

「…しかし、あと4世代で確実に実用化が可能にならなければ国はこの計画を放棄する…。」

「確かに、今まで繰り返された15世代のクローンはどれも失敗がありました。しかし、16世代は極めて…」

「成果をあげている…か?」

「は…はい。」

「それは思い違いだ。実際に18世代では万が一を起こさない世代を完成させねば確実性は伴わないだろう。」

「…。」

「仮に、16世代の事が計画…クローン人員を動員した戦争の最中起きてみろ…。とんでもない事態だ。」

「…。」

「早く完成せねば、国からの支援も凍結、この会社は潰れる。国からの人体実験の許可が下りてから随分経つのに…。」

「…確かにそうですが、きっと完成します。現在16世代で発生した問題は1つのみです。それを解消すれば17世代では…。」

「ほぼ確実…かも知れん。」

「そうです。そうすれば圧倒的な戦時力を誇る国家として生まれ変わり、その柱となるのが我が社です。」

「…そうだ。だからこそ………。」

「…おそらく……。」

「…いや……。」

「……………はい……。」

「…」

「…」

「…」







「はい!今日の遺伝子の講義はこれにて終了とする。」

「…ん…ん?」

机に張り付いた顔を引っ張りはがすと、大きく伸びをした。

…ぁぁ…寝てたのか…。妙にリアルな夢だったな…。クローンか…。

いつもの様に携帯を開くと確かに記憶していた日付から2週間以上が過ぎていた。

「…ん?」

まだ寝ぼけてるのか、と疑いながらも家にいつもの様に帰った。

すると、目に飛び込んできたのはボロボロと泣き崩れる母親の姿だった。

思わず身を引きながらも、母親に近寄った。

「…どしたんだよ…?」

「どう…したも…こうしたもないよ…!面会謝絶で…17日間も……入院手術してたのよ…!」

「…ん!?」



















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Last updated  2005/10/09 06:57:38 AM
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