TUP速報(2009.5.5)TUP速報速報820号 世界最悪のコンゴ紛争と私たちとのつながりとは? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 1990年代以来現在にいたるまで紛争の絶えないコンゴ民主共和国 [旧称ザイール]の戦禍は、第二次世界大戦以降で世界最悪と 言われます。実際、NGOの国際救援委員会(IRC)の調査によれば、 コンゴ紛争(内戦)の死者数は、1998年以来 2008年1月までの時点 で 540万人と見積もられています【*1】。大阪市と名古屋市との 人口の合計を超える数です。しかしながら、世界の十分な注目を 集めているとはとうてい言い難いのが現状です。日本のメディア もその例外ではないどころか、ほとんど完全に無視していると 言っても過言ではないでしょう。今現在にいたっても、日に 1300人が死ぬ【*2】状態がつづいているにもかかわらず。 米国に、「民族大虐殺と人道に反する犯罪を終わらせる」ことを 目標としたイナフ[ENOUGH]という民間プロジェクトがあります。 同プロジェクトのウェブサイトでは、コンゴ内戦の重要な背景を 簡潔に解説しています。世界の一般の消費者もコンゴ内戦に 無縁ではない、ということがよく分かります。 こんな大量虐殺は「もうたくさん(ENOUGH)だ」という願いを こめて、同記事を以下に邦訳しました。 〔翻訳: 坂野正明(前書とも)/TUP〕 【*1】 http://www.theirc.org/news/irc-study-shows-congos0122.html なお、コンゴの国連難民高等弁務官(UNHCR)ゴマ事務所所長 (当時)の米川正子さんの昨年の報告(以下の URI)でも同数値が 引用されています。 http://www.japanforunhcr.org/act/a_africa_drc_03.html (日本語) 【*2】 http://www.raisehopeforcongo.org/files/pdf/crisis_in_congo.pdf ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ※凡例: (原注) [訳注] 【参考文献番号】 ※注: 以下、1米ドル=100円として換算しています。 ──────────────────────── イナフ(ENOUGH)のキャンペーン コンゴに希望をもたらそう 「コンゴの危機 ―― 紛争鉱物の犠牲者」 ★要点となる事実 この一世紀以上にわたり、コンゴ民主共和国は、地域紛争と豊か な天然資源をめぐって死者の山を築く奪い合いが引き続いて苦し んでいます。コンゴに眠る富を求めての飽くなき欲が、コンゴの 苦難の歴史を通じてやむことのない残虐行為と紛争との原動力に なっています。現在、コンゴ東部では資源が多くの武装集団の 資金源となっています。それら武装勢力の多くが、大規模●●を あえて戦略として使うことで、地域住民を怯えさせて、鉱山や あるいは自分たちが支配したい場所から追いたてています。 (うるとび注:●印部分は楽天の規制にひっかかる言葉のため、 伏せ字としました。女性が乱暴される、という意味の言葉です) 特に、コンゴ東部の紛争(第二次世界大戦以来、死傷者的に最悪) は、相当な部分、何億円にものぼる鉱物交易によってあおられて います。武装勢力は 4種の主要金属 ―― すなわち錫[スズ]、 タンタル、タングステン、金 ―― の原鉱の交易により、毎年 1億4400万米ドル[約144億円]を生みだしていると推定されて います【1】。このお金のおかげで、これら武装集団は大量の 兵器を購入し、住民に対して残忍な組織的暴力をふるい続ける ことができています。なかでも鉱山地域では最悪の虐待がおきて います。これら原料は、最終的には携帯電話や音楽プレーヤーや コンピューターといった電子機器のなかにおさまることになり、 ここ米国で売られているものもその例外ではありません。 金属の供給経路が不透明な現実を考えると、米国の消費者は、 残虐行為と大規模●●を日常的に行なっている武装勢力に間接的 に融資しつづけていることになります。 ★武装勢力はどのようにしてこれら鉱物から利益を上げているの ですか? コンゴ東部での暴力行為の主なものは、鉱物資源に恵まれた地域 で発生しています。暴力と悪行をはたらいている三つの主要武装 集団が、鉱物交易の多くをも支配していると言われています。 人民防衛国民会議(CNDP)、ルワンダ民主解放軍(FDLR)、コンゴ軍 (FARDC)の中の無法分子の三集団です。 これら武装集団は、交易を通じて、主に以下の二つの方法で利益を 上げています。 ○鉱山を支配し、死に至ることもめずらしくない環境で鉱夫を 強制労働させ、平均日当 1~5米ドル[100~500円]という雀の涙 ほどの手当しか支払わない【2】。 ○運送者、国内あるいは国外の買人、国境管理所に賄賂を要求 する。 ★どの鉱物が交易されているのですか? ―― 三つの「T」鉱物と 金 武装勢力は、3T 鉱物、すなわち錫[Tin]、タンタル[Tantalum]、 タングステン[Tungsten]の三つ、および金を交易しています。 ○錫[スズ]: 皆さんお使いの携帯電話をはじめすべての電子機器の内部で、 電子回路基盤上に半田[はんだ]として使用される。世界の錫の うち、53パーセントが半田として使われていて、そのほとんどが 電子機器のなかに入ってくる【3】。武装勢力は、錫の交易を 通じて一年におよそ 8500万米ドル[85億円]を稼いでいる。 ○タンタル (しばしば「コルタン」と呼ばれる)【4】: アイポッド、デジタルカメラ、携帯電話[など]において、電気を 蓄えるためのコンデンサーに使用される。世界のタンタルのうち、 65~80パーセントが電子機器に使用される【5】。武装勢力は、 タンタルの交易を通じて一年におよそ 800万米ドル[8億円]を 稼いでいる。 ○タングステン: 皆さんの携帯電話やスマートフォンの[マナーモードの]振動モー ターに使われる。タングステンはコンゴの武装勢力の収入源とし て伸び盛りで、武装勢力は現在、年間およそ 200万米ドル[2億円] を稼いでいる。 ○金: おもに宝飾に使われる。金は電子機器部品の原料の一つでもある。 きわめて高価かつ密輸も容易で、武装勢力は金の取引で一年に 4400万~8800万米ドル[44~88億円]を稼いでいる。 ★これらの鉱物が、どんなわけで私の携帯や音楽プレーヤーや 他の電子機器におさまることになるのですか? 東部コンゴ産の鉱物は、 1) ルワンダ、ウガンダ、ブルンジを含めた近隣諸国を経由して 輸送される。 2) 主に東方アジアに向けて、なかでもマレーシア、タイ、中国、 インドの多国籍精錬業者に向けて輸出される【6】。 3) いったん加工処理されると、電子機器メーカーに買われ、 コンデンサなどの有用なパーツに化けて、電子機器内部に加え られる。3T鉱物を含んだ機器のベストセラーは【7】、 ○携帯電話とスマートフォン ○MP3プレーヤー ○デジタルカメラ (また、テレビ、コンピューター、ディスプレイ) ────────────────────────────── タイとのつながり 最近だされた国際連合の報告書では、錫精錬業界の世界第五位で タイに本拠をおくタイサルコ[Thaisarco]社が、FDLR[ルワンダ 民主解放軍]に関係する筋から鉱物を購入している証拠が示され ている【8】。この FDLRとは、1994年のルワンダの民族大虐殺の 責任を負う人々に率いられた武装集団である。また、米国と ドイツに本拠をおく複数のタンタル加工業者、およびベルギーの 金属貿易会社もコンゴ東部の主要武装集団の他の二つ、 CNDP [人民防衛国民会議]と FARDC[コンゴ軍]から鉱物を購入している かも知れない【9】。 ────────────────────────────── ★私に何ができるでしょうか? www.raisehopeforcongo.org を閲覧して、コンゴの戦争を あおっているこの紛争鉱物交易を終結させるのを促進するために、 そしてコンゴの女性を守り自立するのを助けるために、何が できるかさらに学んで下さい。 ────────────────────────────── 【1】 これは控えめな推定値であり、最大値は毎年 2億1800万 米ドル[約218億円]と見積もられている。特に、主要三武装集団、 すなわち CNDP、FARDCの無法分子、および FDLRの推定総収益は、 錫で 8500万~1億1300万米ドル[85~113億円]、タンタルで 790 万~1300万米ドル[7.9~13億円]、タングステンで 190万~350万 米ドル[1.9~3.5億円]、金で 4400万~8800万米ドル[44~88億円] である。この値は、コンゴ民主共和国の鉱山省、アメリカ地質 調査所[USGS]、CASM(小規模鉱業共同体にかかる主導者)、コンゴ 民主共和国についての国連専門家会議、DFID[英国国際開発省]・ USAID[アメリカ国際開発省]・COMESA [東部及び南部アフリカ 共通市場奨励組織]、ポレ協会[アフリカ大湖沼地域の異文化間 協会――コンゴ東部のゴマに拠点を置く組織]が出している鉱物 に関する最新の資料に基づいて計算されている。計算においては、 以下の二つの要素、(イ)武装勢力が利益を得る二つの方法、 すなわち、鉱山支配と運送業者や中間業者や外国の貿易会社から の収入、(ロ)国連、リソース・コンサルティング・サービシズ [Resource Consulting Services―― 公平貿易などに関する調査 などを請負うことを仕事とする英国の会社]、ポレ協会とによる 2007~2008年のコンゴ東部現地での監視活動に基づき、過小申告 された鉱物量と実際の量との差の推定割合、を考慮に入れている。 データの基準時点は 2007年6月である。武装勢力の利益に関する 詳細な研究報告全文は、本イナフ・プロジェクトから発行される 予定である。 【2】 Nicholas Garrett, "Artisanal Cassiterite Mining and Trade in North Kivu: Implications for Poverty Reduction and Security", CASM, 2008年6月, 第16ページ。[題名参考訳: 「キブ北部におけるスズ石の小規模鉱業と交易 ―― 貧困の緩和 と安全保障へむけての示唆」] 【3】 "Review of Tin Use and Recycling for 2007", ITRI。 [題名参考訳: 「スズの使途とリサイクル概観 2007年」] 以下から閲覧できる http://www.itri.co.uk/pooled/articles/BF_NEWSART/view.asp?Q=BF_NEWSART_308811 【4】 「コルタン」とは、コルンブ石とタンタル石とを総称して、 特にコンゴでの原鉱を指して使われる名称。コルタン鉱石を精錬 することで、金属タンタルが抽出される。[訳注: 日本語「タン タル」は、金銀銅と同様に、金属名でありかつ元素名でもある] 【5】 タンタル製造業界の雄、H・C・スターク[H.C. Starck]社 は、世界のタンタル消費のうちで 60~70パーセントがミクロ 電子工学産業でタンタル[電解]コンデンサを製造するのに使われ、 加えてさらに 5~10パーセントがそれらのコンデンサ製造のため の金属線を生産するのに使われている、と述べている。アメリカ 地質調査所の例証によれば、米国に輸入されるタンタルの 60パー セントがコンデンサに使われている。「たんなるタンタル粉末の せいで市場は"たんと"気をもむことになる」 http://www.icis.com/Articles/2001/08/13/144744/tantalum-powder-tantalizes-electronics-market.html U.S. Geological Survey Mineral Commodity Survey for Tantalum, 2009年。 www.usgs.gov から閲覧できる 【6】 "Final report of the Group of Experts on the Democratic Republic of the Congo." [題名参考訳: コンゴ民主 共和国についての国連専門家会議最終報告], 国際連合安全保障 理事会, S/2008/773, 22~23ページ、を参照せよ。 http://www.un.org/Docs/journal/asp/ws.asp?m=s/2008/773 から閲覧できる。 Nicholas Garrett, Harrison Mitchell, "Congo Rebels Cash in on Demand for Tin" [題名参考訳: コンゴ抵抗勢力、スズの需要 で現金収入], Financial Times[ファイナンシャル・タイムズ ―― 英国の全国紙], 2008年3月5日。 [ http://us.ft.com/ftgateway/superpage.ft?news_id=fto030420082233272004 ] 【7】 Consumer Electronics Association。CEA Market Research (1/07)。 http://www.ce.org/Research/Sales_Stats/1219.asp から閲覧できる。 【8】 "Final report of the Group of Experts on the Democratic Republic of the Congo." [題名参考訳: コンゴ民主 共和国についての国連専門家会議最終報告],国際連合安全保障 理事会, S/2008/773、を参照せよ。 http://www.un.org/Docs/journal/asp/ws.asp?m=s/2008/773 Nick Bates, Hilary Sunman, "Trading for Peace: Achieving security and poverty reduction through trade in natural resources in the Great Lakes area" [題名参考訳: 平和のため の交易 ―― [アフリカ]大湖沼地域の天然資源交易を通じて、安 全保障と貧困の緩和を達成する], DFID[英国国際開発省]/USAID [アメリカ国際開発省]/Comesa[東部及び南部アフリカ共通市場 奨励組織], 2007年10月。 Aloys Tegera, Dominic Johnson, "Rules for Sale: Formal and Informal Cross-border trade in Eastern DRC" [題名参考訳: 販売の法則 ―― コンゴ民主共和国東部における公式および非公 式の国境越境交易], Pole Institute["Pole"の"e"は上に「'」が ついたもの; ポレ協会], 2007年6月。 【9】 ドイツのゴスラル[ゴスラー]に本社を、[米国の]オハイオ 州、ミシガン州、マサチューセッツ州に支社を置くH・C・スター ク社とマサチューセッツ州ボストンに本部を置くカボット [Cabot]株式会社とがタンタル精錬業界の世界の二大巨頭である。 コンゴ民主共和国政府の資料および国連報告書では、金属貿易会 社数社もコンゴ東部から錫とタンタルとを買付けていると名指し されている。たとえばベルギーに本拠を置くトラドメ[Trademet] 社、ベルギーに本拠を置くトラキス[Traxys]社、イギリスに本拠 を置くアフリメックス[Afrimex]社である(ただし、アフリメック ス社は、2008年に同社はコンゴ産の鉱物はもう輸入していない、 と国連に伝えた)。 [上記]"Final report of the Group of Experts", 22~23ページ。 ────────────────────────────── (C) 2009 Center for American Progress イナフ[ENOUGH] ―― 民族大虐殺と人道に反する犯罪を 終わらせるプロジェクト 本部: ワシントン DC、電話・ファックス: [略] [訳注: 「ENOUGH」とは、「もうたくさんだ」という意味] ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 原文: "Crisis in Congo: The Casualties of Conflict Minerals" ENOUGH Campaign, Raise Hope for Congo (C) 2009 Center for American Progress (ワシントン DC) URI: http://www.raisehopeforcongo.org/casualties_conflict_minerals ※全文をつける限りにおいて、御自由に転送・転載なさって下さい。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ TUP速報 配信担当 古藤加奈 電子メール: TUP-Bulletin-owner@yahoogroups.jp TUP速報の申し込みは: http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/ ■TUPアンソロジー『世界は変えられる』(七つ森書館) JCJ市民メディア賞受賞!! http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0480.html ■『世界は変えられるII』も好評発売中!! http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0375.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ジャンル別一覧
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