日本刀の出来について【一考察】
日本刀の出来について【考察】日本刀を鑑賞する時に良く出来がいいとか出来が悪いとか言います。私もこの刀はよく出来ていますねとよく言います。しかしこの出来が良いという言葉は、実は茫洋としてつかみ所がなく曖昧模糊な表現ではないかと思っております。出来が良いか出来が悪いのか其の基準があるわけではなく、あくまで個人の好みや感性に頼っているのではないでしょうか?私にもよく出来ている刀の基準はありますが、一般的に出来が良いといわれる出来口よりも自分の好みを優先しております。同じ刀を見ても評価が分かれることはよくあります。では世間一般に流布されている出来が良いという刀は一体どんな刀なのでしょう?【1】 地肌が良く出ている(地景など地肌が働いている)【2】 刃縁がよく働いている(金筋、稲妻などが多い)【3】 刃や刃縁が冴(明るい)ている。【4】 地肌がくっきりと冴えている。【5】 匂口や地肌にムラがなく均一に鍛えられ均一に焼かれている。等等その他にもいろんな見方があると思いますが、総体的には江戸時代より継続して相州伝が良刀とされているように思われます。【1】 と【2】は少し見ればすぐわかります。過日、相州行光の刀を拝見しましたが地肌に地景が織り成し真に見事でありました。よく地肌に地景がなければとか刃中に金筋がなければダメとかよく聞きますが、この様な刀を見ればなるほどと思えるところもあります。【3】や【4】の場合この冴【明るい】という言葉が曲者でして、感覚で言うわけですから人により差があるのは当然でしょう。研ぎの状態や沸出来や勾出来によっても感覚の相違はあるでしょう。刀を数多く見ておられる有識者の方ならおのずと判断はつくのでしょうが、私のような未熟者の場合どこら辺から明るいのか沈んでいるのか判断に苦しむ事がよくあります。参考のため新刀上位の脇差を購入しておりまして、この刀の匂口を判断基準にして観るようにしております。しかし私の場合の出来の良い刀、欲しい刀は【5】の出来を示す刀であります。何時も同じ事を書いて恐縮なのですが、日本刀に何を求めているかで評価は分かれます。世間一般的には面白みのない刀と認識されているようですが、この様な刀は本当に少なくあまり見ることはありません。私は刀工の技量が最大に発揮された出来口であると思っております。古今の刀工の押し型集を見て真に名人上手と思うのは、鎌倉期の福岡一文字吉房であります。残念ながら手にとって見たことはありませんが、博物館などで見てもその感を深くします。この工の匂口は元から先までふっくらと均一に焼かれていて、焼刃に高低があるにもかかわらず焼頭と谷の匂口に差がありません。真に名人の所作であります。この一文字吉房を狙って多くの現代刀工が作刀していますが、ムラのない匂口を焼いて成功しているのが大野義光氏であります。大野義光氏は華麗な山鳥毛写しで著名ですが、氏の真骨頂はこのムラのない匂口にあります。全体的に匂口は締まり心ですが時代が若いのでやむを得ないでしょう。700年先には吉房と拮抗するかもしれません?【よく現代刀を引き合いにだしますが私の好みでありまして、あくまで私見であることをご承知ください】今回も勝手気ままに書き綴りましたが、皆さんの出来の良い刀とは如何なる出来口を示した刀なのでしょうか。