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***7***
本当は泣きそうだった。もう会えないと思っていたから。 でも、有芯の前では、つい強がってしまう。本当はおびえて、隠れてしまいたいのに、余裕ぶって笑ってしまう。笑ってでもいないと、自分が壊れてしまいそう。 一方の有芯は、しばらくあっけに取られていた。有芯と朝子以外に、バスの乗客はない。 「先輩・・・? なんでこんなところにいるんですか?」 当然の疑問だ。ここは、彼女の地元から遠く離れた熊本なのだから。 「旅行よ。」 有芯は怪訝そうだ。「なんで?」 朝子は歯を見せて笑った。「あなたに会いに。」 「はぁ?!」 「冗談に決まってるでしょう。観光旅行よ。そんなに思い切り呆れないでよ」 「旦那さんと、息子さんは?」 「置いてきたわ。気ままな単身旅行ってヤツ。」 「はぁ。いいね、一人で気楽で」 「有芯は? 一人じゃないの?」 「俺も一人ですよ」 「この後、予定ある?」 有芯は携帯のことを思い出した。「・・・ない事はないけど。たいした用ではないです」 「そう。よかったらお茶していかない? 久しぶりに話そうよ」 有芯はしばらく迷ったが、了承した。 運命とは、わからないものだ。 有芯と朝子の出会いは高校時代だった。 (あいつ、またこっち見てる・・・。) 駅のホームや学校の廊下で、朝子がふと視線を感じると、そこに有芯を見つけることがあった。有芯は目が合うと、2、3秒そのまま見つめ、ふっとそらした。 生意気な後輩。朝子はそのとき別の男に夢中だったこともあり、あまり気にならなかった。 有芯は、たまに朝子を見ているだけで、特に近づこうとはしなかった。綺麗でつんとした、近づきがたい雰囲気の先輩にむざむざ声をかけなくても、よってくる女はたくさんいたのだ。 二人が急速に親しくなったのは、朝子が高校3年、有芯が2年になった春、有芯と智紀が朝子が部長を務める演劇部に入部してきてからだ。 朝子率いる演劇部は、世間一般の演劇部のイメージとはかけ離れていた。発声練習行くぞ~と言っては、アルコール飲料持参でカラオケに行ってみたり、授業をさぼって部室にたむろしてみたり。・・・ようするに、不良の集まりだったのだ。先生達は、演劇部のことを朝子の苗字を取って「川島組」と名づけて怖れていたほどだ。 しかし、朝子は演劇に関しては情熱を持ってやっていたし、頭がよく、先生にも他の不良にも決して動じず対応していたので、後輩達からの人望は厚かった。みんな、朝子に憧れていた。 朝子も有芯も、恋人と別れたばかりということもあって話が弾み、毎日何時間か話し続けてもまだ足りないと感じるほどだった。よく、他に誰もいなくなるまで部室で話をした。 「朝子先輩、俺、定期切れた・・・」 「えっ。じゃ、一緒に歩いて帰る?」 二人は時々、2時間ほどの道のりを並んで歩いた。定期が切れていてもいなくても、二人は気にならなかった。2時間という時間は、あっという間に過ぎていったから。 そうして、互いに好意を抱いていたとき、校内の宿泊施設での演劇部合宿が企画されたのだ。 合宿の当日、午前の授業を受けながら、朝子は落ち着かなかった。失恋のショックでばっさり切ってしまった髪をくるくると指で弄びながら、ノートを鉛筆でかろうじてこすっているといった有様だ。机の上には、ノートの他に、部長用の合宿計画表もある。 今日、きっと有芯と何かあるんだろうな・・・。 朝子は落ち着こうとしたが無理だった。彼女は淡い期待を抱きながらも、どうしようもなく不安だったのだ。男性経験がないわけではなかった。だが有芯はものすごく女にもてる。前の彼女を見たけど、びっくりするほどの美人だった。はたして自分が有芯とつり合うのか。彼に嫌われるんじゃないか・・・。 そう考えていると、もう授業どころではなかった。鉛筆が手から転げ落ちる。 あ~~落ち着かないと! 朝子は鉛筆を持ち直した。手が震えていて、自分で驚く。 なぜだろう。何度も恋を経験してきた。でも経験すればするほど私は、臆病になっていく・・・。 有芯・・・。 鉛筆はもはや、授業の内容を記してはいなかった。 『あなたをあいしてる』 有芯は満足していた。もう一押し、ってとこか。 前の彼女に振られたのはまあショックだったが、そんなことはもうどうでもよくなった。今日の合宿で、俺は先輩を落とす。 有芯は机の上にある自分の両手を見た。この手で、彼女を抱きしめる感触を思い描こうとすると、前の彼女の体が浮かんできた。 彼は、軽く頭を振った。もう、あの悪夢は思い出したくなかった。 <つづく> 今日は日記にUPしてみました。 こうすけ達はけっこう元気になりました^^ でも、今日は私がゲーリー・オールドマン・・・。 小説 onceへ ↓↓只今小説部門で39位です☆ クリック、サンキュー!!(堀内孝雄か!?) ↓↓こっちは楽天ランキングです。 ぽち、サンキュー☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.05.06 14:48:36
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