500羅漢の微笑み(境界線とメディア)

2010/02/13(土)03:03

羽鳥書店まつりがやってきた

オリンピックが近づいてきた。雪が東京に追いつき大急ぎで追い越して行った。地球儀の上に雪を少々残して。  そんな寒さのおり、寄りに寄って、向ヶ丘の大観音で「羽鳥書店まつり」が一足早く開催された。オリンピックとはもちろん、関係ない。4年に一度なんてもんじゃなく、たぶん生涯に一度の催しと言ってもオーバーにならない古本市だ。なんといっても、たった一人のための、たった一人から始まる、古本市なのだから、新し物好きの谷根千の住人もこれにはビックリである。行かなくちゃ。 元東大出版会の編集者でいらして、千駄木に出版社「羽鳥書店」を設立されてまもない羽鳥さんの個人蔵書による古本市だ。詳しくは東京新聞に紹介されている↓ http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/20100209/CK2010020902000063.htmlなるほど、古書ほうろうさんによる企画である。「ほおずき市も地域の人の手作り。人のつながりがあって古本市も実現できた。地元の仲間として羽鳥書店さんを迎えたい」という古書ほうろうの宮地さんに対して、羽鳥さんは「羽鳥書店の名前を使うのは気が引けて申し訳ないが、ご厚意に甘えることにした」と新聞の中で答えてられる。  うーん、こういうセリフに弱いのです。かっこいい! おまけに大観音さまの前でお店広げて「何ゆえ寒風吹き荒ぶ2月に青空古本市?1万冊の大放出!」とは大した読経、いや、度胸。。 http://d.hatena.ne.jp/koshohoro/20100112/p1 初日、私は知人の結婚式の帰りにそのままの格好で滑り込んでみた。雀のチュンたちがある程度啄んでおいてくれたので、助かったが、これはこれは、ほう、はあ、へえ~とため息ばかりの品ぞろえ。  その内容は後日に回すとして、私の感激はやはり、上記の新聞記事の両者のエールの交換にある。  私はこの記事から、ふと、思い出したことがあった。結婚式の帰り道だからかもしれないが、昨年晴れて結婚したT君のこと、だ。  今年も1月17日には阪神大震災の時のことがニュースに出ていたが、ぼくにとっては、彼がいる限り、記憶の風化に待ったをかけられる。 T君は神戸にいて、被災した。と同時に仕事場も被災。それで、たまたま当時、ぼくたちの共同生活をしている内田勝久君の長崎盲学校時代の後輩ということもあって、彼が声をかけた。東京に来ない? 彼はほどなくして、ぼくらの共同生活の場の住人となった。ただ、面白いことに、彼が来るので、部屋を何とか一部屋融通するということでなく、新たに隣合わせになっているテラスハウス(洋風二階建て長屋)の片割れをこの際だからとすべて借り切ることにした。そして、東京の知り合いをもう一人、呼び寄せ、総勢5人となった(いまそのうちの3人が十条に残って針きゅう治療院を設立して3年くらい経つ)。音楽練習スタジオ風の部屋も作った。 そうなのだ。これは東京にT君を一方的に「受け容れる」というよりも、T君がくることで、新たな新しい展開を呼び込んだのである。彼が来ることは新しい価値の創造となった。この冒険をやってみせたのが、内田君だ。彼はスポーツ選手で走り高跳びも飛ぶ方向で手を叩くと音を頼りに一気に飛んで見せる。身体の冒険をする者はこういうこともやってみせてくれるから面白い。 再び記事に目を落とす。「人のつながりがあって古本市も実現できた。地元の仲間として羽鳥書店さんを迎えたい」という古書ほうろうの宮地さんに対して、「羽鳥書店の名前を使うのは気が引けて申し訳ないが、ご厚意に甘えることにした」と羽鳥さん。 羽鳥書店さんを迎えるとは、「(地元という分母に)受け容れる」ではなく、まさに、T君が来ることで、新たな展開が呼びこまれたのと同様、一緒にわくわくしましょう、というお誘いなのではなかろうか。そこに、「ご厚意に甘えることにした」との羽鳥さんが続く。暗黙の了解。これはねえ、すでに開かれる前から、参りました、であります。  そう、この一言で、どう転んでもこのイベントは成功であります。もちろん、たいへんな裏方のご努力だろうけれど(谷根千エリアや一箱古本市の仲間も多数参集されているそうだ)、それにも増して、これは何かを動かしているということがこちらもに伝わってくる。(寒さにも関わらず相当に初日からにぎわっているという事実!)  ましてや、それがさらに、羽鳥さんという名編集者の知(の一端)が本という100円、500円、1千円という交換価値を介して谷根千じゅうを流れ出すというおまけ付きである。 もちろん、会場では羽鳥書店による出版本も販売されている。こちらの知も楽しみだ。  T君は震災から数カ月の間、神戸の治療のお客さんに呼ばれて、出前マッサージをしていた。方向音痴の彼が神戸まで行くことがそもそも驚きなのに、まだ復興の始まったばかりで、歩くのにも覚束ない神戸の記憶をマッサージして回った、T君こそ、羽鳥書店さんのブログ名にならって「相互に旅をする人」にふさわしい。  さあ、この土日は羽鳥書店まつりへ旅してみよう!

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