カテゴリ:加藤暠伝説
加藤暠伝説4
天才相場師の記憶(3) 株であろうと何であろうと、 「相場」というものは、非情だ。 売り方と買い方が、有り金を賭けて戦うのだから、 非情でなくては戦いに勝てやしない。 先を読み損ねた者、 資金の尽きた者、 手を打ち間違えた者、 そういう人間は、相場に敗けて、落ちぶれ果てていく。 「命までもは取って喰わない」という言葉があるが、 相場は、命を取って喰う時だってある。 そんなことは、どこの誰でも知っている「相場の常識」だ。 優良株相場であろうと、小型材料株相場であろうと、それは同じことで、 株式市場を「相場」と呼ばせたくない人間たちが、 「株価は企業業績によって上下すべきだ。」 そんな一方的な論理を押しつけているのが、今の東京株式市場の実状だ。 しかし、 加藤暠は、 「それは、実は、大手証券会社の営業トークに過ぎず、 実際の株価は、需給関係で決定される。」 と、株式市場の核を喝破して、 彼なりの仕手戦を実践してきた、 この国では100年に1度出るか出ないかの天才相場師だ。 株価は需給関係によって決定される。と認識した加藤暠は、 その優れた株式売買術によって、 けい線の経験則を利用した空売り誘いをおこない、 加藤の作るけい線に、「儲けのチャンスだ。」と爪を伸ばした欲深投資家たちが、空売りをかけ、 しかし、加藤軍団によって買われているため、浮動株は市場に少なく、 空売り筋には、「逆日歩」がかかってくる。 慌てた空売り連の買い戻しによって株高をはかる、 そんな彼独特の株式売買術を駆使し、 そのほとんどに成功し、 天才相場師の名を欲しいままにしてきた。 この株式売買術は、非情ではあるかもしれないは、違法ではない。 この一点については、彼をきちんと擁護してやらねば、 稀代の天才相場師が不憫すぎる。 加藤暠の非情さについていけなかった人間たちが、 「彼に騙された。」 とか、 「彼は、信者を裏切る。」 とか言うが、 僕には、そんな言葉こそが、「仕手戦に乗ってはいけない人たち」の言に過ぎない。という気がする。 もう30年も前の話だから、僕が書いても差し支えないと思うので、 少し書いてみる。 ある日、 「おい。 加藤さんが行ったから、 すぐにS運輸を買うとけ。」 ある人から、そういう電話をもらった。 「いくら買えばいいんですか?」 「信用枠で、好きなだけ買うておけや。 売り時はまた教えてやるよって、買ったら、動かずに持ってろよ。」 「はい。」 僕は、有り金はたいて、 そのS運輸を、9万株、信用取引で買った。 買値は、340円から360円くらいまでの間だった。 しかし、 10日経っても、 20日経っても、 全然上がらない。 逆に、毎日、ジリジリ株価を下げていく。 買って一か月ほど経ち、株価が300円を切りかけた頃、 たまりかねて、電話をした。 「本当にやるの? 下がってばっかりじゃないですか。」 僕の問いに、こんな答えが返って来た。 「あのな。 加藤があの株をやっとるっていうんで、 うちの会社で提灯買いがつき過ぎてな、 加藤が怒りよって、 もうやめるって言うとるそうや。」 「そんな……、 僕は、もう、9万株も買ってしまっているんですよ。 売ったら何百万円かの赤になるけど、どうすればいいんですか?」 「まあ、待っとけや。 加藤のことや。必ず何かをやらかす。 黙って待ってろ。」 「……、わかりました。」 僕は、不承不承にうなずいた。 そして、数日後の土曜日。 その時代は、土曜日も2時間、場が立っていた。 土曜日が休みで、妻子を連れて喫茶店にいた僕に、 証券会社の担当者から電話が入った。 「大変です。 S運輸に、500万株の売り物が出て、 値つかずのまま、売り気配で、値を下げています。 今日は土曜日ですので、2時間でストップ安にまでいきます。 このままだと、月曜日に追証が600万円くらい出ますが、どうします?」 担当の証券マンは、慌てふためいていた。 「ちょっと待っていてくれ。」 僕は、いつもの人に電話した。 「どうなるんですか?」 「どうもこうもあらへんよ。 500万株売りが出ておるんやから、 ストップ安になるんやろ。」 「そんな…、」 僕は、もう、生きた心地がしなかった。 「お前、ナ。 加藤がやっとるんやぞ。 黙って見ておかんかい。」 「しかし…、」 「お前、加藤を信じてきたんやろうが、」 「はい。加藤さんの腕は信じています。」 「だったら、黙って見ておけや。 加藤のことや。必ず何かをやりおるから。」 「わかりました。」 僕は、電話をかけ終わると、自分の担当者に電話し、 「大引けまで見ておきましょう。 月曜日に追証が出るなら、手当てしますから。」 「しかし、世川さん。 売り物が膨らんで、いま、900万株になりましたよ。 大丈夫ですか?」 「見ていましょう。」 電話を切った。 11時までの2時間は、実に長かった。 呑みかけのコーヒーの味も忘れるくらいだった。 11時ぴったりだったか、その直前だったか、 今はもう、記憶にないが、 担当の証券マンから、また電話が鳴った。 「世川さん。 いま、 S運輸のストップ安の215円に、 誰かが、500万株いっぺんに買いを入れました。 900万株あった売り物は、400万株消えて、 売り物は500万株になって、 それを全部誰かが買ったんです。 商い成立です、」 「そうですか…。 500万株全部かっさらいましたか。 ……、」 僕の中に、深い安堵が訪れた。 これが加藤暠の相場なのだ。 月曜日は、今度は一転して、買い気配から始まるだろう。 僕は、そう確信して、月曜日を待った。 月曜日。 予想どおり、S運輸は50円のストップ高をした。 翌火曜日も、80円のストップ高をした。 水曜日も、ストップ高近くまで暴騰して終わり、 「どこまで上げるんだろうか?」 僕は、期待に胸をワクワクさせて株価を見ていた。 木曜日、 440円くらいの時、 僕は電話した。 「S運輸、どこまでやるんですか? どれくらいを見ておいたらいいか、教えてくださいよ。」 そう尋ねると、 「お前は馬鹿か! もう、本尊は、みんな売ってしもうて、 今度は空売りをかけとるやないか。 早う逃げんかい。」 「ええっ?!」 「はよう、売れ!」 「は、はい!」 僕は、電話を切るなり、持っていた9万株を売りに向かった。 420円くらいで売れたから、700万円か800万円は儲かった。 その次の日から、 S運輸は、売られに売られ、 再度ストップ安売り気配となって、 結局、僕などが青ざめた時と同じ215円まで下げた。 提灯買いのつきすぎた銘柄に空売りをかけて儲け、 ストップ安の安値を買って棒上げさせて、儲け、 高値に空売りをかけて、また儲ける。 僕の人生で、 あんなに華麗な3度の売買はを見たの、初めてだった。 「この人は、天才だな。」 改めて、そう思った。 断言しておくが、 この売買のどこにも、違法性は、ない。 この3度の売買で、 逆を張った仕手株好きの個人投資家は、大損した。 中には、加藤暠の信者もいて、 「加藤に騙された。」 「加藤に損をさせられた。」 加藤暠の悪態を言った。 しかし、 それは、お門違いというものだ。 恨むなら、自分の未熟を恨むべきだ。 と僕は思った。 僕だって、 一つ間違えたら、大損をさせられていたかもしれないが、 仮にそこで大損を出していたとしても、恨みを加藤あきらには向けなかっただろう。 ただ素直に、 こんな華麗な3度の売買をやった加藤暠の相場術に、絶賛の拍手を送っただろう。 少しは株に精通している人間には、そんなことは当たり前すぎるほどに当たり前のことだが、 そこいらの不勉強な新聞記者や検察官あたりには、 永久に理解できないに違いない。 2015-11-18 12:22:13記 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2021.06.20 10:38:03
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