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カテゴリ:詩
いいにおいのするかぜ 耳をすますといいにおい せせらぎの表面を滑るモンキチョウ ひだまりのレンゲソウ 溶けた蜜は待ち望んだ春 目を閉じるといいにおい 瞼を通してとどく 勢いのある光と繰り返す波のきらめき 小さな足を始めてつけた夏 手を開くといいにおい 山盛りになった落ち葉のかさかさ 車いすで踏んで歩いたイチョウの黄金 銀杏のおしゃべりを連れ帰った秋 深々と帽子をかぶるといいにおい きりきりと鼻のてっぺんをタッチする 雪のお土産ばなし 道中窓から見えた家々の湯気たつ夕食 いいにおいのするかぜは 私を包むあたたかいにっこり どんな感覚からも記憶にたどり着けるのだから、いい記憶を思い出せばそのたびにほっこりすることができる。 全身を過敏にして戦っている弟が、日常の小さな刺激から一気に他の感覚がかき乱されて混乱している様子を見ると、いい記憶に辿りつくルートをはやく整備してあげたいと私も願う。 まるで津波でぐちゃぐちゃになった大地。 それを整え、道路を敷き詰めスムーズに流れるように復興するようなものだ。 弟はストレスがかかると時系列に関係なく言葉から記憶が一気に押し寄せてくる。 そこから起きる衝動的行動は突飛で、周囲も理解できず慌てるのだが、落ち着いてよく聞くとちゃんと理由がある。 突飛なことに驚く周囲だけれど、理解すればしようとするだけでも、弟の世界は安定していくようだ。 小さかったときすごくかわいかった様子や、楽しかった思い出を一緒に話すうちに、こんなに頑張ってきた自分を認めてもらって泣きそうになっていた。 それくらい自分はだめだ、と思っているのがなんとも辛い。 好きな音楽や、好きな香りからその時の気持ちを思い出すように、弟も記憶の引き出しからにっこりの記憶を引き出せるよう手伝いをしてあげたい。 空気や風は見えないけれど、その中にある安心。 弟にも見えるにっこりを取り戻そう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.12.01 09:58:14
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