2023/04/28(金)12:35
小説:盃一休
(二) 何日か過ぎた。袖口に蠢くものがあるのでめをやると、目にしたことのない虫が留まっていた。 一休が言うのに、育てば紋章でいう揚羽蝶幼虫なのであり、善兆だとの説明であった。
普通の揚羽蝶に変ずる青虫とは違う。 池田輝政の紋所として知られる平氏由来の揚羽蝶である。 池田輝政は姫路城の城主として城を改築し、壁や屋根を漆喰で固めて白鷺城と呼ばれるものにした。この城に関わって者は皆出世した。黒田官兵衛然り、羽柴筑前然りである。 徳島が開いた寺子屋は評判が良くて繁盛したし、手伝う美弥の人気も高くて強力な援助者がついていた。
徳島が旗本をやめようと思ったのには、もう一つ訳があった。学問はそこそこであったが、剣術の腕は他人に知られぬようにしていたが恐るべき腕前に達していた。 旗本のような武家勤めでは、表立ってそれを振るうことはできない。いずれは世に隠れた悪を裁く者が現れねばならぬと思っていたし、その一助として働ける機会があるだろうとの期待も抱いていたからである。 (さかず