テニス教室が始まった。申し込みの時の、あの若者も来ていた。なるべく目を合わさないように気をつけた。でもなんだか気味が悪い。自意識過剰かと思ったが、周りの人もみんな同じように気味悪がって、こっちを見ていると言った。幸いなことに初心者だったのでコートが違う。いくつかのスポーツセンターでトラブルを起こしてチェックされている人物らしいとコーチサイドの噂を聞いた。今日の初日はそれなりにやっていたようだ。テニスで汗をかいてさわやかな青年に生まれ変わってくれないかしら。
ドビーに昨日の帰り、「明日ほのぼのさんだからね」なんてさんざん言ってしまったが、あさっての間違いだった。担任の先生も私のせりふを聞いて、毎回金曜なのにおかしいと思って確かめてくれていた。しかし、ドビーはちゃんと覚えていたらしい。今日の帰りは怒って泣いて、その泣き顔がすさまじく可笑しいので、先生たちは吹き出すのをこらえるのが大変そうだった。
母は必死になぐさめる。今日のおやつをどれどれにしようね、とか、一緒に歌を歌って帰ろう、とか、とにかく笑顔で帰りたかった。ほっぺをつつみこみ、中腰で抱きしめて、だんだんドビーは泣き止み、最後は笑顔がでた。よかった~。挨拶をして校門をあとにした。
ところがやはり怒りはおさまっていなかった。家に近づくにつれてだんだん足取りが重くなる。ついに門から5メートルのところで立ち止まった。「おうちに入ろうよ」「庭で遊ぼうよ」「リュックしまおうよ」どんなに呼びかけてもそこから動こうとしない。私はドビーをひきつけようと水を撒くために、栓をひねった。ほら、と見せようとしたらドビーの姿が見えない。「ドビー!!(←もちろん本名ではナイ)」叫んでもぜんぜん見えない。慌てて門の外に出ると、なんとドビーは側溝に隠れて私の方を伺っていた。
ちょっと~~!なんて高度ないたずらが出来るようになっていたんだろう!見つけた~!と叫びながら、笑顔をみせて手を引こうとすると、まだまだ拒否の姿勢。寒い庭でフェンスをはさんで粘った25分。結局家に入れたのは、またもや、庭遊びの時と同じく彼女の生理的欲求のおかげだった。