カテゴリ:噺家の落語とボクの人生落伍記
太宰治『富嶽百景』八回目
井伏氏はその日に帰京され、私は、ふたたび御坂へひきかえした。それから、九月、十月、 十一月の十五日まで、御坂の茶屋の二階で、少しずつ、少しずつ、仕事をすすめ、あまり 好かないこの「富士三景の一つ」と、へたばるほど対談した。 いちど、大笑いしたことがあった。大学の講師か何かやっている浪漫派の一友人が、ハイ キングの途中、私の宿に立ち寄って、そのときに、ふたり二階の廊下に出て、富士を見ながら、 「どうも俗だね。お富士さん、という感じじゃないか。」 「見ているほうで、かえって、てれるね。」 などと生意気なことを言って、煙草をふかし、そのうちに、友人は、ふと、 「おや、あの僧形のものは、なんだね?」と顎でしゃくった。 長い間、お休みしてしまいました太宰治『富嶽百景』、ぼつぼつ続けます。 「どうも俗だね。お富士山、…」には、毎日眺めている僕が言うのならともかく、 大学の講師とやらと一緒になって馬鹿にする太宰さんも太宰さんだ。 広島在勤中のことでした。新幹線で親切な車掌さんが、右手をご覧ください。日本 一の御山です、と車内放送。家に帰って、雪を頂く富士山を始めて観て、大げさにも これでいつ死んでもいいなどと近所や友人に、その感動と感激を話しておられるのを 聞いて、こちらのお方もまともじゃないなと思いました。 事は進みます。井伏さんが仲を取り持って、甲府のある娘さんとお見合いしました。 お名前は石原美知子さん,お茶の水女子大学を出て、都留高等女学校の教師でした。 その美知子さんの著書に『回想の太宰治』があります。 自意識過剰の太宰の虚構、妻との食い違う生活ぶり。生活感覚がなく、飲み歩き、 そのくせ妻のお金の使い方にうるさい。理解できない言動の数々に、美知子さんが 「いいかげんにしろよ」とのぼやき。などなど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.02.17 17:16:14
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