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テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:カテゴリ未分類
>はじめまして。 お宅にワタルという名前の >男の子は遊びに行っていませんか? ---------- 3年前の春、私は幼稚園を卒業したばかりの ワタルと下のルミコを連れて実家に帰っていた。 「もう暗くなるからワタルをうちに入れて、 あんたも夕食の仕度を手伝いなさい」という母の 声を背中で聞いて、私は和室の炬燵に潜り込んだ。 たぶん物置だろう。 このうちの物置小屋は子ども にとっては秘密基地だ。 薄暗くなった窓の外を 見て、私は炬燵から這い出て玄関のサンダルを 履き、裏の物置小屋に向かった。 物置小屋は三畳ほどの大きさで、小さい頃は 私もその中で遊ぶのが好きだった。 草を刈る 大きな鋏や鉈、大工道具、それから長靴や下駄。 様々なものが雑多に置かれていたが、その中でも 私の一番のお気に入りは、母が結婚前に履いて いたハイヒールで、引っ張り出してきては小さな 足を滑り込ませ、しゃなりしゃなりと歩く練習 をしたものだった。 物置に近づくと、ワタルの話し声が聞こえた。 私が声をかけると、ハーイと返事がして、ワタル がガラリと引き戸を開けた。 そして一瞬物置の 中に目をやり、元気に玄関に向かって走り出した。 ワタルも友だちと遊んでいたのかな…と私は考えて ながら、何も言わずにワタルの後ろ姿を眺めていた。 その日、母は町内会の集まりがあるというので 私は一人で夕食のあと片付けを終え、炬燵に 戻った。 ワタルの姿が見えない。 父に聞くと 今さっきまでいたからトイレじゃないかと言う。 しばらくしてもワタルは帰ってこない。 心配に なった私は、家の中を探し回っているうちに、 ワタルの靴がなくなっていることに気がついた。 暗闇の中に、物置から漏れる小さな光が見えた。 私は小走りに近づいてガラリと扉を開けたが、 そこには誰もいなかった。 その後、父や母、 姉夫婦、そして近所の方々警察の力を借りて ワタルを探し回ったが、見つかることはなかった。 いったい、どこに行ったしまったの…。 ---------- あれから3年の月日が流れ、ルミコはあの時の ワタルと同じ年になった。 そして、最近ブログを 始めた私は驚くべき書き込みを目にした。 それは ワタルが生きていて、今もこの世界のどこかいると 信じるに十分すぎる内容だった。 今年7歳になる元気な男の子のお母さんの話。 マンションに住む彼女の息子は一人で部屋で遊ぶ ことが多く、いつも誰かと話をしているらしい。 ある日、誰と話しているかと聞いたら、ワタルと いう名前の男の子が、壁に浮かぶ小さな扉の中から 遊びに来ると言うのだ。 夕方になると、ワタルという男の子は「ママが 呼びに来るかもしれないから」と言って、再び扉 を開けて帰って行くらしい。 自分もワタル君の 後を追って扉の中に入って行こうとすると、ママが いつも僕のことを呼ぶ、と言ったという。 ワタルだ。 ワタルは友だちの後を追って、 あの扉の向こうに行ってしまったのだ。 あの日、 私がもっと早く気がついて、呼びに行っていれば、 扉の向こうに迷い込んでしまうこともなかった のに…。 そういえば私の時も、私が扉の向こう に行こうとすると、いつも母が呼びに来てくれた…。 ごめんね。 あなたは今でもどこかでママを待って いるんだよね。 だから、私はインターネットで こうして毎日書き続けている。 >はじめまして。 お宅にワタルという名前の >男の子は遊びに行っていませんか? >突然こんな話を書いても信じられないかもしれ >ませんが、私の息子は6歳の時に、壁にぽっかり >浮かぶ扉の向こうの世界に入り込んでしまった >のです… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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