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四方山話に夜が更ける

四方山話に夜が更ける

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March 5, 2006
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 ある日僕は、仕事帰りに不思議な婆さんに

出会った。 駅からアパートに向かう道で露店

を出していたのだ。 まだ寒いこんな季節に

人通りの少ない道で露店を言うのもありえない

話だが、売っているものが、これまたありえない

代物だった。 それは、なんと何も書いていない

白い紙だったのだ。 


「もし。 そこのお兄さん。 この不思議な紙

 をお買いにならぬか・・・。」


「不思議な紙って、何も書いてない、ただの紙

 じゃないか。」


「何をおっしゃる。 この不思議な紙は手にした

 人が望むことを表し、すべて思い通りに事

 を運んでくれる力をもっているんじゃよ。」


「すべて、思い通りに・・・!」


 会社で、大口の大事な契約を抱えていた私は、

思い通りに事が運ぶ力のある紙がほしくなった。

もし、私が思った通りに契約が進めば、会社に

莫大な利益をもたらすことは間違いないし、社

の僕に対する見方も変わるはずだ。。


「で、いくらなの?」


「1枚1万円じゃよ。」


「い、いちまんえん!? 何も書いていない

 真っ白い紙が?」





 しばらく僕は悩んだが、自分への投資と思い

1枚購入するととにした。





 次の日、会社に着いた僕は、コンピューターに

打ち込んである契約書をプリントしようと、昨日

の紙を取り出した。 不思議な紙ねぇ・・・と眺めて

いると、真っ白い紙に文字が浮き上がってきた。

契約書だ。 読んでみると、自分が書いたもの

より、はるかに分かりやすく内容もうまく

まとまっている。 



 お~。 不思議な力とはこういう事か。

1万円の価値はあったな。 そう思いながら

契約書を部長に見せてみた。 もちろん、部長

もすぐにOKを出した。 先方とも連絡をとり、

不思議な紙の契約書を提示すると、手に取った

先方の担当者も満足げに頷いた。 話はとんとん

拍子に進んでいく。 やっぱり、あの婆さん

の言ったことは本当だった。 



 数日後、私は本契約を結ぶため、部長と共に、

相手の会社へ赴いた。 本契約書は不思議な紙

の契約書とは違い、表紙と裏表紙のついた冊子が

作られた。 ところがその契約書を読んだ先方

の部長の顔色が見る見るうちに変わってしまった。 

ついには、顔を真っ赤にした彼は立ち上がって、

テーブルに契約書を叩きつけた。



「いったい、どういうつもりだ。 以前貰った

 契約書とは全く内容が違うではないか。」




 そんなはずはない。 あの時私は、不思議な

紙の契約書を書き写し、この本契約書を制作

したのだ。 




 結局、その契約はうまくはいかなかった。 

あの嘘つき婆さんに騙されて1万円を払った

僕は大馬鹿者だ。




 それから数日後、またあの道で婆さんが座って

いるのに出会った。 僕は1万円を返して貰おう

と足早に近づいた。




「おやおや、お兄さんはあの紙の使い方を間違え

 てしまったようだね。」


「何言ってんだよ、婆さん。 俺のこと騙した

 だろう。 1万円返せよ。」


「あれま、お兄さんは、あの紙を間違った相手

 に渡しちゃったんだね。 あれは、手にした

 人が望むことを表し、すべて思い通りに事を

 運んでくれる力を持っているんじゃ。 相手

 が望んだ内容が、あんたが望んだ内容と同じ

 とは限らんじゃろが。」


「はあ???」


「一度、好きな人にこの紙を手にとって読んで

 もらうとええ。  あんなのことを好いて

 くれとる娘じゃったら、すべてが思い通りに

 いくというものじゃ・・・。 ただ、相手に紙を

 渡しちゃいけないよ。 後で喧嘩の種になる。

 はっはっは。」


「はぁー? それを最初に言ってくれよ・・・。」
 

 










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Last updated  March 5, 2006 10:54:46 AM
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