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四方山話に夜が更ける

四方山話に夜が更ける

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April 10, 2006
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カテゴリ:ありそうな話

 

 夜の暗闇を照らす電灯の灯りが小さな円を描き、一枚の桜の

花びらがはらはらとスポットライトを浴びるように地面に落ちて

いくのがよく見えた。 僕はいつだって銭湯の前で待ちぼうけだ。 

4月に入ったというのに、薄寒い空気が洗い髪から熱を奪って

いく。 


「ごめんねー。」 


とのれんをくぐって駆け寄ってきた加代子がピンク色に上気した

顔を僕に向けた。 ふと見ると、加代子の白いブラウスの一番上

のボタンが開いたままだ。


「おい、ボタン・・・」

  
 僕が加代子の胸元をあごで指し示すと、彼女は恥ずかしそうに

ブラウスのボタンを止めて、片手で水色のカーディガンの胸元を

押さえ、僕の腕に絡みついてきた。 電灯の下を通り過ぎると、

真っ暗闇の中で、葉桜に微かに残るピンクの花が寂しげに

風に揺られるのが見えた。
 


 
 加代子はサンダルの音をカンカンと響かせながら階段を登り、

僕は彼女の後を追って部屋へと向かった。 僕が東京の大学に

入学するために上京した時に、おやじと一緒に決めたアパート

だ。 去年の暮れに加代子が転がり込んできた。 

 

「ねぇ、ちょっと着替えるから、そっちを向いててちょうだいよ。」

 

 加代子は未だにそんなことを言う女だ。 僕がいつものように

後ろを向くと、窓ガラスに映る加代子はカーディガンとスカートを

脱ぎ、ブラウスのボタンをはずし始めた。 僕がそっと立ち上がり

電気を消すと、「きゃっ」と小さく叫んだ。 もぉー、という声の先

には月明かりに浮かぶ加代子がスリップ一枚の姿で立っていた。 

二人だけの時間が静かに過ぎていく。 僕はそっと手を伸ばし、

加代子の腰に手をかけた…

 

 

 

 
 ・・・・・夢だったのか。 随分と懐かしい夢だ。 

 

 

 

「ねぇ、早く朝ごはん食べちゃってよ。 パートに行く時間に間に

 会わなくなっちゃうじゃない。」


 妻の声がキンキンと冷たく響いた。 隣で娘が冷めた顔で声を

掛けてきた。

 
「なに、お父さん。 いいことでもあったの?」


いいこと・・・か。 ああ、今朝は懐かしくて、とてもいい夢を見たよ。 

腕に絡みつく、加代子の柔らかい感触が今でも思い出せるくらい

だ・・・。

 

 

 






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Last updated  April 11, 2006 12:15:45 AM
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