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テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:ありそうな話
私が兄と二人でこのマンションに住むようになってからもう三年 が経つ。 今、両親と妹は、父の仕事の関係で名古屋に住んでいる。 父の転勤が決まった時、両親は私も一緒に名古屋へ行くと思って いたらしいけど、当時、第一希望の私立高校に入学したばかりだった 私は、名古屋に一緒に行くことを拒んだ。 むしろ、兄がこのまま 東京に住むというのだから、私も一緒に残ったって問題はないだろう と言い張った。 だけど、両親の心配は私の考えていることとは少し 別のところにあったようだった。
私の両親はそれぞれ子供を一人ずつ連れて再婚した。 兄が中学 二年生で、私は小学四年生だった。 妹は、私が六年生の時に生ま れた。 兄はいつもで無口で、最初は仲良くなれるか心配だったけど、 それまで一人っ子だった私は、兄弟ができたのがすごく嬉しくて、後を くっついて歩いていたように思う。 中学までは随分仲良く過ごした けど、兄が高校生になったら、あまり顔を合わすことも無くなり、高校 に入って私に彼氏ができてから、さらに話す機会が無くなった。 だから、二人で暮らしたって今と生活は変わらないじゃない、と思った のかもしれない。
私が高校二年の夏、結局私は両親の反対を押し切り、兄と一緒に 東京のマンションに住み続けることにした。 もともと、母が働いて いたせいか、自分のことは自分でするというのがうちのやり方だった から、兄と二人になっても食事の支度を交代にするようになった くらいで、何ら問題なく、今までと同じ毎日が過ぎた。 けれど、兄は 両親に相当釘をさされたのか、私が彼氏と出かけるたびに帰りの 時間やら、出かけ先やらを聞いてきた。 親よりうるさい兄貴だった。
みんなピリピリした雰囲気になった。 そして私は彼氏にふられた。 あいつは、親に受験の妨げになるから彼女と別れなさいと言われた から、と別れを切り出してきた。 冗談じゃない。 同じ大学も受ける つもりだったし、卒業しても絶対に一緒にいようねって言ってたし、 それに初めての相手だったのに…。 それから、私は、勉強が手に つかなくなって、ご飯も喉を通らなくなった。 最悪だった。 結局、 そんな状態で受験勉強を続け、年末に風邪をひき、最悪の状態で 受験をしてことごとく落ちまくった…。
のは兄のおかげだと思う。 随分、助けられたし、元気づけられた。 あいつにふられて受験に失敗した後、「もういいじゃん…」 その 一言で、重い鎧をガランと脱ぎ捨てた気がした。 もう、いいや…。 兄の顔を見ていたら、心底そう思った。
ここはこの辺で私が一番好きなプールだ。 時々気分転換にと、 兄に車の運転をせがんで連れてきてもらっている。 水深が 2メートルあって、立て札には「100メートル以上泳げる方以外は 入らないで下さい」と書いてある。 いつ来ても、このプールで 私たち以外の人が泳いでいるのを見たことがない。 ゆっくり 泳いでいると、隣のコースから兄が私の下に潜り込んできた。 透き通った水の中から兄が私に手招きをしているのが見えた。 私は大きく息を吸い込んで水底に沈んだ。 兄が手を伸ばし私を 抱きとめる。 私達はキスをした。 まるで中学生の時、プールの 中で友だちと練習した時のようなぎこちないキスだった。
苦しさに耐え切れず、私が水面に浮かび上がると、兄は何事も なかったように数メートル先に浮かび上がり、水しぶきを上げて 泳ぎ始めた。
お兄ちゃん…? 私はゴーグルをとって、ただ、兄の泳ぐ姿を ぼうっと眺めていた。 その向こうの窓には、白い雲がゆっくりと 流れていくのが見えた。 雨、降るのかな…
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