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テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:ありそうな話
僕には、斉藤智志という友だちがいた。 うちが近かったので、 僕らはいつもつるんでいた。 小さい頃は海が僕らの遊び場で、 休みの日には自転車を走らせて海へ向かい、二人とも一年中 真っ黒だった。 智志とは中学まで一緒だったが、高校に入ると 違う高校へと進み、会う機会は減ってしまった。
けれど、高三の春に近くの公園に風力発電用の風車ができて からというもの、ヒマを見つけては、僕は智志を誘い、ペケペケ バイクの後ろやつを乗せて公園に行った。 眼下に海が見下ろせる 公園には、できたばかりの風車が二基、その大きな羽を回転させて いた。 音もなく、ゆっくりと。 僕は、この空間で風を感じながら 過ごす時間がたまらなく好きだった。 そのゆったりと廻る風車の スピードに合わせて、時間まで流れる速度が遅いように感じ、僕ら は時の経つのも忘れて、海と風車のある風景を楽しんだ。
週末になると、僕らは公園の海が見えるウッドデッキの上に腰を 下ろして隠し持ってきた酒を飲み、二人でエロ本を眺めては、この 巨乳ちゃんが可愛いだの、この網タイツの足首がたまらないだの とくだらない話で盛り上がり、夜にはカップルをからかって遊んだ。 この辺の駐車場で抱き合うようなカップルは、案外年がいったのが 多かったから、セダン型の車を見つけては、腰をかがめて後ろに まわり、二人で思いっきり後ろのトランクに体重をかけて車を 揺らした。 胸のはだけた女の人が飛び上がるほど驚くのが、僕ら には可笑しくてたまらなかった。
高校と卒業すると、智志はおやじさんがやっていた釣り船屋を 手伝うようになり、僕は横浜の大学へ行くことになった。 それから は、智志と会うこともほとんどなくなった。 僕がおふくろから、智志 がこの町を出ることを聞いたのは、大学三年の時だった。 智志 のおやじが持病をこじらせて亡くなり、釣り船屋の経営を続けていく ことが困難となったために、お袋さんの実家のある静岡に二人で 移り住み、智志はおじさんの漁船に乗ることを決めたらしい。
「もしもし、智志? 僕だけど…」
場所もねえしさ。 お袋んとこのおじさんが一緒に船に乗ろう って言ってくれてるんだ。 船舶免許も取らせてくれるって
僕は智志をあの風車の公園に呼び出した。 智志は子供の頃と 変わらない日焼けした笑顔でやってきた。 あの時のように酒を 飲むような無茶なしないが、僕らは、あの頃の思い出を話して 笑った。 そして僕は巨乳ちゃんや網タイツの話ではなく、付き 合っている彼女の話をした。 横浜の女子大との合コンで知り 合ったこと、彼女の柔らかい唇のこと、滑らかな素肌のこと、酒も 飲んでいないのに、日焼けした笑顔は目を輝かせたが、 「これ 以上はお前にだって話せるかよ」と言って智志の頭を小突いた。
「彼女、詩織って言うんだ。 でも、女は難しいよ。すぐメソメソ 泣くしさ…。 お前とこうして話してる時間が一番だぜ。」
この風車に誓えよ。このやろー。」
そう言って智志は風車を見上げた。 それからしばらくして智志と おふくろさんは静岡へと越していった。
続編へ続く
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