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カテゴリ:続きものショートショート
「なに? 何のタイムリミット? 優奈さん、今日は何だかおかしいよ。」
なきゃ、あとは産むしかないって・・・。」
したんだ。」
私は何も言えなかった。 ただ、子供をあやすように静かに彼女の頭を 撫でた。 LP盤の真ん中で、針がカツカツと小さく鳴いている。 どれくらい 時間が経っただろうか。 5分かもしれないし1分だったかもしれない。
マスターにこうして欲しかったんだ。 ねぇ、マスター覚えてる? 10年前に、 私ここでマスターにお説教されたんだよね。」
私がどんな生活していようが、気にも止めないし、食事もいつも一人だった。 私が援交しても、気がつかなかったんだろうな、たぶん。 あんな風に 言ってくれたのはマスターだけだった。 驚いたよ、すごく。」
「そうか、君はずっとあの時のことを覚えていた。 そして、この店にバイト に入ってきた。 で、僕は今度は、君に何をしてあげられるのかな。」
何故だか、私は少しイラついていた。 誰の子供か知らないが、お腹の 子供は私の子供ではない。 一体私に何が出来るというのか。 この歳 まで結婚もせず、この小さな店をやっと作り上げた。 10年前に一人の 女子高生に説教をした? それで、今度は何なんだ・・・。
ふくらはぎを伝っている。 そして、彼女は崩れ落ちた。 そのあとのことは あまり記憶がはっきりしない。 救急車のサイレンの音と、どやどやと店の 中になだれ込んで来る人の足音だけが響いていた。
入院をすることになったと言う。 もちろん、この店にもう来ることはないと 思われた。 そして、3年経った今も彼女に会うことはない。
「ありがとうございましたー。」
ランチタイムも終わり、店が一番空く時間だ。 店を出た男は、空を 見上げて駆け出した。 降り出したのか。 ドアが閉まりかけた時、小さな 男の子がドアを押さえて、後ろからやって来る母親を呼んだ。
「ママ、早くぅー。」
頭を押さえた母親はひゃー、と声を上げながら店に入ってきた。
「いらっしゃいませー」
あの頃より少しだけふっくらとして、けれど雰囲気はそのままだった。 私は、少し笑ってこう言った。
「履歴書は持ってるかい?」
優奈は返事をする代わりに、私に近づいて耳元で囁いた。
「また、頭撫でてもらいにきたよ。 もっともっと話したいことがいっぱいある から。 それにあの時約束したでしょ。 出来るだけ長く勤めるように 頑張るって。」
優奈は 「ママ、なにー、何話したのー!?」 と騒ぐ子供と手を取って踊る ようにステップを踏んだ。 なーんでもないっ♪ そう言って笑う彼女は、 前よりもすっと明るかった。 そして、前よりもずっと美しかった。
事はどうだっていい。 この店には、優奈が戻ってきたのだから。
******************** 最後まで読んで下さってありがとうございました。 ********************
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