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カテゴリ:恋愛小説
時計を見るともう四時をまわっている。
「マスター、来てくれたんだ」 「琉夏の初めての写真展だ。見損なうわけにはいかない」 「うん」
前島は肩をゆすりながら、ゆっくりと歩く。一枚一枚に丁寧に目を通してギャラリーの 中を進んで行った。私は前島の大きな背中を追って、一緒に歩いた。
「琉夏、お前に始めて出会ってから十年になる」 「うん」 「結構長いな」 「マスターと私が結婚していたとしたら、なに婚式だろう」 「あほ。知るか、そんなこと」 「お前はいい写真が撮れるようになったな。蓮に負けないくらい上手になった」 「ほんとう?」 「蓮が写真の中に時間を閉じ込める才能があったとしたら、お前には、写真の中に人生 を閉じ込める才能があるな」 「マスターったら、ほめすぎよ」 私たちは、一枚の写真の前で立ち止まった。 「この写真には、今でもこれを撮った時の蓮の気持ちが閉じ込められてる」 こんな写真が好きなのは、たぶん世の中に二人しかいない。やせっぽちの細い肩口にある 小さなほくろの写った写真だった。
私たちが果歩たちのもとに戻ると、母と莉久が帰り支度をしているところだった。 「マスター、私の母です」 「おかあさん、ドルチェのマスターの前島さんよ」 母は「ああ、ドルチェの」と言って頭を下げた。 「琉夏がいろいろとお世話になっているようで」 「いやいや・・・こんな時、おれはなんと挨拶をしたらいいのかな」 「父親ですって言っておけば」 「莉久!」 訝しげに莉久の顔を見る母を、莉久は全く気にもとめない。
「おお、莉久か。見違えるほど大きくなったな。おれのこと、おぼえてるか」 「いや。顔は覚えちゃいないけど、昔、琉夏が自分の父親に合わせてあげると言って、 ひげ面のおっさんのところに連れて行かれたのを覚えてる」 「そりゃ、すごいな。お前は大したやつだ」 話が飲み込めずにいる母親に、私は顔の前で手をふって、「冗談よ」と囁くように呟いた。
つづく
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Last updated
July 16, 2008 07:51:50 PM
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