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カテゴリ:続きものショートショート
よく晴れた朝だった。一周忌の法要はほとんどが親類だけのこじんまりしたものだった。 見知らぬ人たちの中に剛史の姿を探した。8畳ほどの控え室に剛史は腕を組んで座って いた。隣には私とそう歳のかわらない女性が座っている。剛史には声もかけずに私は 賢二を見つけて声をかけた。
「今日は声をかけてくれてありがとう。圭子に久しぶりに会えた気がするよ」 「いえ、こちらこそありがとうございました。法要が終わったら、お義兄さんの車でお墓まで・・・」 「そうですね。わかりました」
そう答えて剛史をみると、私に向かって小さく頭を下げた。まるで初めて会う人にするように。
剛史の車には剛史の妻と圭子の両親と一緒に乗り込んだ。圭子の母親とは、高校時代の 圭子の思い出を話した。時折りバックミラーに目をやると、こちらを見ている剛史と目が 合った。剛史の妻はあまり話しをしない人だった。それとも、もしかしたら、私という他人 がひとり加わったので、口を閉じていたのかもしれない。
圭子の墓はまだできあがったばかりの美しい公園墓地の一角にあった。あたりには 緑も多く、静かな空間にときおり鳥の鳴き声が響く。墓の横にはラベンダーが植えられて いる。季節になればラベンダーの香りがあたりいっぱいにひろがることだろう。
若い僧侶が読経をあげて納骨の儀式を終えると、参列者は駐車場へと足を向けた。
「賢ちゃん、いい場所だね。圭子はここで静かに眠るんだね」 「ええ。そうですね」 「ラベンダーのいい香りがするね。安心したよ。ここならきっと圭子もゆっくりできる」 「ええ・・・」
賢二が何か言いたそうだった。
「圭子、賢ちゃんに感謝していると思うよ」 「そうでしょうか・・・」 「どうして? 圭子はそう言っていたもの」 「ぼくは圭子に寂しい思いをさせたかもしれない。もっともっと元気なうちにしてあげられる ことがたくさんあったかもしれない・・・」 「そんなことないよ。お願いだからそんな風に思わないで」 「ぼくは・・・圭子を死なせたのはぼくだから・・・」
私はあの日、賢二が「圭子を殺したのはぼくです」と言ったのを思い出した。
「それって、どういう意味なのかな」
賢二は口を閉じたまましばらくお墓を眺めていたが、ふと私のほうをみて言った。
「あの日、呼吸が止まりそうな圭子を見て、ぼくはどうしても圭子をひとりで逝かせたくな かった。すっと繋がっていたくって、生まれ変わっても一緒になりたくって、そしてぼくの ことを忘れないでいてほしくって・・・」 「うん」 「呼吸器をとって唇を重ねたんです。そんなことをすればそうなるかということも知りながら・・・」 「そっか・・・。圭子は幸せだったね。最期の最期まで幸せだったね」
圭子はきっと賢二のことを忘れはしない。生まれ変わっても、また生まれ変わっても、 広い世界の中で賢二を見つけ出すことができるだろう。最後のキスに魂をこめた賢二 という存在が圭子にあったことがうらやましく思えた。ふたりは最期まで、きっと並んで 歩いていた。
ふと駐車場をみると、青い車に剛史が寄りかかってこちらを眺めている。
「大丈夫。またいつか、生まれ変わっても、圭子はきっと賢ちゃんを見つけ出すと思う」 「そうですね・・・」
涙を拭う賢二の背中を押して、私たちは駐車場へと歩きだした。
つづく
*このお話のストーリーはフィクションです。
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