仁左衛門の河内屋与兵衛
夜の部のチケットは確保ずみだったので 昼の部の油地獄を幕見で観なくちゃと。 1時過ぎに列に並ぶ時「お立ち見かもしれません」といわれましたが、席にも座れました3階席には高校生の団体。私が仁左衛門さんにメロメロになったのが、大学1年時の鑑賞教室の「女殺油地獄」だったので 一世一代のこの舞台で同じように魅せられる子がいればいいなぁと思いました。(学校行事でみせてもらえてうらやましい←田舎の高校出身なので学校単位での古典芸術鑑賞には縁がなかったのと この貴重な舞台を観られることの価値を今でないにしろ気付いてほしいという願望etc)仁左衛門丈自身が「若い人が演じる方がいい」とおっしゃってる与兵衛・・・なんですが、20代の若者にしかみえない仁左衛門与兵衛に 今更ながら魅了されっぱなしいきがっているけれど 根は小心者。ひいきの小菊を他の客に取られて、喧嘩をふっかけるものの、投げた泥が武士にあたってしまったものだからさあ大変!!武士の警護についていた叔父に「帰途に成敗」といわれ、 すっかり意気消沈、びくびく逃げていく野崎詣りの場。妹のおかちに仮病させ、店の跡継は自分となんとしても言質をとろうと画策するも、継父がのってこないと暴力。あまりのことにおかちが仮病をばらすと、あわてふためき、あげくに開き直り。継父の心のこもった説教も 馬耳東風と聞き流し、そろばんで遊び事してる まぁわがままなボンボンぶり。そのどうしようもないさまが いかにも何も考えてない若者で苦笑を誘います。 甘やかされ放題で育ってしまった本当にしょうもない若の可愛さ・仕方ない奴やなぁと この前半二場で 十分に納得させられるからこそ その後の展開も効いてくるんですよね。実の母にも暴力をふるい 勘当を言い渡され 虚勢を張って出ていくもののあてもなし・・・期日のせまった借金に 同じ油屋稼業で顔見知りのお吉に頼み込んで工面しようとする与兵衛。そこへ、継父と母がそれぞれに自分に金を渡してやってくれとお吉に頼んでいるのを隠れてつぶさにみていた与兵衛。親の情を感謝しつつも、置いていった金が借銭には足りないから「不儀になって貸して下され」とお吉にいいつのり、断られるともう殺してお金を奪うしかないと考えて実行にうつしてしまう・・・先を見通して考えることを全くできずに その場その場の思いつきで行動する与兵衛の表情の変化がたまりません親の情に感謝しているのも本当ならば、借金で親に迷惑をかけたくない気持ちも本当なんだけれども 迷惑をかけないために→金を奪うしかない→殺すしかないという短絡思考も与兵衛。お吉のとけた帯を手繰り寄せながらのイッちゃった目つきと口に浮かぶ微笑が・・・怖いんだけれど、もう目がはなせないのです・・・油まみれのすってんころりん 場内から笑いもおきてましたが 私は笑えなかったです。殺されたくないお吉と お金を手にするためには殺すしかないと思いこんじゃってる与兵衛、双方の心情を考えると緊迫した気分で 確かに目の前ではぶざまに滑っているけれど せっぱつまってて笑う余裕がないのでした絶命させた後、はっと自分のしてしまったことの重大さに愕然とする与兵衛。震えながらも どうにか脇差を手からもぎりとって お金を奪うと 犬の遠吠えにおびえながら逃げていく・・・花道の与兵衛は 半分以上は想像するしかないんですが それでも十分に堪能して、どっと疲れもする一幕でした。「日本一!!」という大向こうを聞きながら まだまだ観せてほしい与兵衛でありました歌六さんの継父の「だんなを追い出したような・・・」と与兵衛の後姿を見送るセリフにもグッときました。ここのところ老け役専門で、たまに実年齢に近い役だと「珍しい!」と思ってしまう(笑)歌六さんですが、この演技あってこその「油地獄」でもあったと思います。映像での印象からは適役にも思える獅童くんが 三越劇場でこの役に挑戦した時は前半のかわいげも薄ければ、後半の殺し場もドタバタしているだけで キレイじゃなくて見苦しいだけ(ゴメンヨ獅童クン)だったのを思うにつけ 「歌舞伎」として観客に見せることの難しさなんていうことも考えました。 でも、鑑賞教室で観た時の孝夫さんも 今の獅童クンくらいの年だったんだけど・・・ボソッ