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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
仕事中に社長秘書に頼み事をされた。
「Mixさんのお宅、○○店の近くですよね。これを帰りにお店に届けてもらえませんか?」 「いいですよ。急ぎじゃなければ」 仕事を終え、帰りに○○店に寄って荷物を降ろした。店の同僚と少し話をして、片付けを手伝い、駐車場に出ると雨が降り出していた。 車のタイヤがすり減って来ていたので、明日にでも車屋に行かなきゃいけないな~と思いながら、車に乗り込んだ。 春の夜の、気持ち悪いような温かい雨が降り始めていた。雨は次第に強くなり、ワイパーをハイスピードにしなければならないくらいになった。 車は、変形四つ辻の交差点にさしかった。左前方に車がとろとろと左折専用車線に入ってきた。こちらの信号は青だった。 ボクは、用心のため車線を右側に変更し、交差点を通り過ぎようとした。 その時、一時停止をしていたはずの前方の車が、ずるずると頭を出してきたのだ。それもなぜだか分からないが、右側車線まで飛び出してきた。 「危ない! 当たるぞ!」 視界全体に車がズームアップして、その画像が超スローもションで動き始めた。止まったように見えるのだが、止まっていない。確実に前方の車めがけて突進していった。土砂降りの雨の日にキューブレーキほど役に立たないものはない。おまけにタイヤは交換しなければならないほどすり減っていた。 ガァ~~~ン! ボクの車は、滑りながら前方の車のフェンダー部分に激突した。 ショックで頭をフロントウィンドウに強打した。膝も何処かで打ったようだ。車は土砂降りの車道で無惨な形で止まった。フロントガラスは弾丸が当たったようにひび割れていた。 カラダの痛みで急には動けなかった。 気を取り直し、なんとかドアを開け、雨の中に出て、傘をさした。そして前の車の状態を確認しに行った。若い少年のような3人が乗っていた。 怪我はないかと訊ねたら、怪我はないようだ。 「そこの公衆電話で警察に電話してくるから、前のガソリンスタンドのところで待っててくれますか?」 そこには屋根があるからだ。 そう言って、公衆電話から警察に電話をかけた。 警察署は直ぐ近くにあったので、間もなくパトカーが到着した。 雨の中、現場検証が行われ、明日、暑の方に来てくださいとだけボクたちに告げ、警察は帰っていった。 事故の相手は、高校生だったので、 「親に連絡した?」 「連絡したので、兄貴と親父が来てくれると思います」 「じゃ、お父さんが来るまで、待っててあげるね」 そう言って、こちらも車がまともに動かないので、父親に電話をして、来て貰うことにした。その親切があだになるとは思いもよらずに。 しばらく待っていると、荒っぽい運転の黒のセダンとワンボックスが止まった。 「われ~、お前か息子にぶち当たってきやがたのは!」 そう言って、男2人がボクの方に襲いかかってきた。 傘を盾に牛若丸のように相手をかわした。2人は歩道につっぷした。それがいけなかった。最大の刺激を与えたようだ。 そしてさっきよりも大きな声でがなり立てながら、襲いかかってきた。 おやじの方が、ボクの傘を掴む、傘の骨が無惨に折れ、傘の用をたさないような形状になり、飛んでいった。パンチパーマの若い方が胴体を羽交い締めにしてきた。咄嗟に振り払い、2人から少し離れることが出来たが、膝を強打して動きが鈍くなっているボクは、若い方の男のパンチを食らう。しかし、上体を少し引いたおかげでそれ程のダメージはなかった。 次はおやじの方が、蹴りを入れてきた。痛めた膝の少し上に当たり、ボクは雨の歩道に横倒しになった。 その時、ボクの目に工事中の資材置き場の鉄パイプが目に入った。 こいつらのパンチや蹴りの強さから言って、それほど強そうには思えなかった。このパイプを手に戦えば、やっつけることは可能だと感じた。しかし、見境がなくなったボクは、きっと取り返しの着かないことをしてしまうのではないかと、自分が怖くなった。 結局鉄パイプを手に取ることはなかった。転がっているボクにパンチを食らわそうと、殴り込んできた拳は、瞬間に頭をずらして免れた。拳は鈍い音をたててアスファルトの歩道に跳ね返された。 ボクは、相手を疲れさせるために、蹴られると大げさに倒れ、殴られると大きくのけぞり、カラダを捕まれると自分からカラダを揺さぶった。 土砂降りの中、しばらく乱闘が続いた。おやじの拳はぼろぼろになっていた。血がながれうなり声を上げながら、暴れていた。 そして、遠くの方で、サイレンが鳴る音が聞こえた。 「叩きのめしてやれ!」 何故かそう言い残して、自分だけ車に乗って立ち去ってしまった。 サイレンが急に大きくなった時、若い方の男をボクは強く掴んだ。 すっぽんのように、絶対放してやるもんかと思いながら。 パトカーがけたたましいサイレンを鳴らしながら、目の前に止まった。 つづく、、、 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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