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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
パトカーから降りてきたのは、事故処理をしてくれた警官だった。
「どうしました?」 全身ぐっしょり濡れて冷え切った身体は、猫のように惨めに、そして小刻みにふるえていた。 「こん人たちが、殴る蹴るの暴力をふるって・・・」 「それは通報で聴きました、通りかかった人から連絡をうけましたから」 警官は、事務的に答えた。 「まだここにいたんですか」 「相手が高校生なので心細いだろうから、親が来るまでと思ったんですよ」 「そんなことは、どうでもいいんですけど、こいつを訴えるんで、連行してもらえますか」 高校生の兄貴を指さして言った。 怒りが高まって、押さえるのに苦労するほどだった。 気が付くと、もう高校生たちは居なかった。先ほど彼らの親父が帰るときに一緒に連れて帰ったらしい。その時には、もうボクの父親は到着していた。一通り説明して警察署まで付いてきて貰うことにした。 警察署までボクの車はフェンダーを引きづるようにして何とかたどり着いた。 応接室のようなところに通され、担当の刑事と話を始めた。 タオルを借りたが、着衣はぐっしょりと濡れたままだったので、カラダは相変わらず冷え切ったままだった。 刑事が言うには、傷害罪で告訴をしても、外傷がない場合、結果は期待できないらしい。それでも、告訴をすると言い続けた。 不思議だったのは、刑事はボクを説得しているようなのだ。 おそらくこれぐらいのことで告訴だなんて面倒なことしなくても、とでも思っていたのだろう。その態度にも納得が出来なかった。 その上、父親は刑事とどうでもいいような世間話で盛り上がっていてボクの気持ちを逆なでしていた。父親はいつもそうなのだ。仕方がないのだ。呼んだボクが間違っていた。彼はいつも本題とはずれたところで生きている。その事については今回は書かないでおこう、それだけで宮本武蔵ぐらい長い連載になってしまいそうだ。 警察に来たのが、午前0時半ぐらいだった。3時過ぎまでずっと刑事の説得は続いた。裁判したところで大した勝算は見込めないし、時間と経費も掛かるのだから、考え直した方がいい。の一点張りなのだ。 高校生の父親に連絡を取ってくれと言った。連絡はしたが、繋がらないらしい。ボクは次第に疲れを感じるようになり、体温も奪われて、衰弱してきたのが自覚できた。フロントガラスに当たったおでこの痛みもズキンズキンと頭に響きだす。 もうこの場を離れて、温かい風呂に浸かり、ベッドで眠りたかった。 結局、告訴はしないと言う事で落ち着いた。しかし、加害者にはちゃんと謝って欲しいと刑事に訴えた。そんなことも出来ない奴は許すことは出来ないと。 暴行をした高校生の兄貴は、警察署のロビーに出てきて、刑事に促され、頭を下げた。 「もう二度とこのようなことはいたしません」 まるで教わって練習してきたかのような言い方だった。 長い長い夜がやっと終わった。 高校生は、なぜいきなり右車線に出てきたのかと、刑事に聴いた。 左車線に水たまりがあったからだと聞いた。 「水たまり?」耳を疑った。そんなバカみたいな事が、この事件の始まりだったとは! そして、思った通り高校生の乗った車には保険が掛かってなく、その後の処理にもまた一苦労した。以前にも事故では苦労したが、 痛い目に遭ったのは、この時が初めてだった。 親切心で高校生と一緒に残って居なければ、こんな痛い目には遭わなかったのかも知れないが、そう言う性格は治りそうにない。 何が起こるか分からない世の中なので、みなさんも気をつけて欲しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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