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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:冒険少年の憂鬱
初めて女の子と付き合ったのは、中学2年の時だった。初めてのデートで見た映画がアン・バンクロフトとパティ・デュークの「奇跡の人」
。待ち合わせして、映画を見て送って帰るまでの間に交わした会話は、 「待った?」「待ってないよ」 「この映画でいい?」「うん」 「じゃ、また明日」「バイバイ」 だけだった。今となっては信じられないぐらい、何も喋ることができなかった。思い出しても笑えるくらいだ。 見た映画がいたってまじめな内容だったし、初めてのデートで緊張もしていたのかも知れない。中1の夏休みに色んな女の子と8回も映画に行ったボクがと自分でも不思議だ。 心の中では色々喋りたいことが渦巻いて、収拾がつかないほど、頭の中には言葉が溢れていたのだけれど、口に出る迄に違う言葉に置き換わってしまい、とうとう口から出てくることは無かった。 次に2人で見た映画は「おしゃまなツインキー」スーザン・ジョージとチャールス・ブロンソンの軽すぎる映画だった。チョットはロマンティックな雰囲気を期待していただけに、ガッカリしてまたまた喋ることが出来なかった。 寡黙な男の子のイメージが付いてしまったのか、それが原因なのかも分からないが、彼女が交換日記をしようと言ってきた。 彼女が書いてくる日記に、一生懸命に返事を書いた。文字によるやり取りだと、意外と思うことがすらすら書けるから不思議だ。 日常の他愛ないことから、勉強のこと、お互いのの好きなことなどなど、たのしい日記のやり取りがしばらく続いた。 ある日の日記に、彼女が1級上の3年生がら付き合って欲しいと告白され、ハートの半分のペンダントを貰ったことを、書いてきた。 どうしたらいいのか分からず、ボクに相談してきたのだ。 ボクはその日記を複雑な気持ちで読んだ。とってもまじめに告白している上級生の言葉や、彼女の態度を想像しながら、真剣にどうしたらいいのかを考えた。 深夜ラジオを聞きながら、返事を書こうとしたが、どんな風に書き出していいものか、何時間も悩んだ。だって、その人は格好良くて、とってもいい人なんだ。ボクが彼女だったらどうするだろう? などと考え出してしまって、想像とも現実ともつかないスパイラル・ワールドに迷い込んでしまったようだった。 「断ってよ!」と言うべきだったのかもしれない。 だけど、結局日記にはそんな風には書けなかった。彼女の気持ちが一番大切で、自分はどう思うのかをよく考えて欲しい。そして、もし断るんだったら、ちゃんと合って気持ちを話した方がいい、などともっともらしい事を書いてしまった。 そして、それからもしばらくは日記の交換が続いていたのだけれど、次第にその回数は減り、半年に及ぶ交換日記は終わった。 結局彼女とは、日記の中でしか言葉を交わさなかったように思う。 でも、その思い出は今でもハッキリと心の中で輝きを失ってはいない。階段の下で帰りを待っていてくれた彼女の姿。雨の中を相合い傘で歩いた帰り道。 それは、まるで映画の一コマのようだった。 彼女は、そのあと兵庫県の方へ引っ越しをし、高校の間、時々手紙のやり取りをした。そして、高校を出てから、逢いに行ったことがある。その時、話し続ける僕をみて、すっかり大人っぽくなった彼女は言った。 「昔からこんなに良く喋る人だったっけ?」 ふたりで笑った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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