2019/11/17(日)17:09
この「名作」がわからない
『個人的な体験』大江健三郎(新潮文庫)
何を隠しましょう、って、少し恥ずかしい話なのでこんな書き方をしたのですが、実はわたくし、この冒頭の小説を、きっと45年ぶりくらいに読みました。 ……うーん、なんと言いますかー、実に何ともいえませんなー。
で、とても感心したかと言いますと、それが、そうでもないのが、我ながら少しよく分からないんですね。 今でもたいがい文章読解力に疑問符の付くわたくしではありますが、それでも、いくら何でも45年前よりは少しは読めるようになったと思うのですが(そうでもないのでしょうか)、ちょっと当てがはずれたように感じてしまいました。
下記に繰り返していますが、その中心は、この小説のクライマックスの、主人公が障害を持って生まれてきた我が子を責任を持って育て上げると決意する場面にいたる展開であります。
45年ぶりに読んだとはいえ、この小説がそんなストーリーを持った小説だと言うことは覚えていたんですね。そして若かりし頃の私は、そこに感動したような記憶があったんですね。そして、事実小説はそのように進んでいくのですが、しかしそのクライマックスの場面が、あー、なんと言いますかー、ちょっと期待はずれであったと言うことで、わたくし、少しぽかんと戸惑っています。
そんなわけで本小説を読み終えた私は、なんか置いてけぼりにされたような感情を持ち、いや、そんなはずはないと思い直して、今回の読書の跡をたどり直していくと、いくつかよく分からないところがありました。
しかし、まー、著者はノーベル文学賞受賞作家でいらっしゃいますし、今から考えれば、少々若書きの作品かなとも思いますが(でもこの作品の次が代表作『万延元年のフットボール』ですから)、やはり誰が悪い(良い悪いではないでしょーに)といえば、それは当然小説読解力に難のあるわたくしが悪いんだろーなー、ということでありましょう。
ま、しかし、まぁ、せっかくですから、この度私が読んでよく分からなかった部分を、せっかくですから、だらだらとあまりしつこくならないように、箇条書きでまとめてみました。この4つです。
1.主人公が、障害を持って生まれたわが子の死を願う心理がほぼ書き込まれていないんじゃないですか。 2.ヒロイン「火見子」の描かれ方が、前半は主人公にとって巫女的存在であったのが、後半になって急に「俗的」な軽い感じのものになってませんか。 3.途中から現れる「菊比古」という登場人物(主人公の「改心」にも大きく関わる人物)の書き込みが足りないんじゃないですか。 4.そして、やはりクライマックスの主人公の「改心」に至る必然性というか、説得力に欠けることはないですか。
この4点について、私は今もよく分かりません。(ただ、本作は、発表当時からかなり高い評価を得ている作品ですしねー。)
何となく一つ感じるのは、本作は昭和39年に例の「新潮社純文学書き下ろし特別作品」のシリーズで出版された作品で(あのシリーズは、出版されるたびに文学的事件のような、その時代の名作・問題作の宝庫でしたが)、やはり、「時代」という意味で、かなりな制約を受けているんじゃないかと言うことです。
例えば、島崎藤村の『破戒』が、現在ではやはり時代的限界を持つように。 つまり、それは障害というものに対する考え方、感じ方の大きな隔たりであり、それを考えれば、上記の「1」についてはかなり納得がいきます。
そんなように考えていきますと、「2」については、「火見子」という存在が、主人公の「青春」のメタファーだと捉えれば、それは主人公の青春との決別という理解ができそうです。
「3」の「菊比古」についての書き込み不足という私の考えも、それはそうでありながらも、大江作品を継続的に読んでいくと、この後「菊比古」的プロフィールは、レギュラー俳優のように出てきており、その先駆けに当たるのだと解釈できそうに思います。
という具合に、頑張って考えていきますと、それなりに納得の「芽」はあるのですが、どうにもよく分からないのが、やはり残った「4」であります。
ただこれにつきましても、我が「小説道の先人」の知人に伺いますと、これは初期の大江健三郎の思想的先導者サルトルの理論に関係する部分であるとのお教えをいただき、あ、そっちのほうの話、あ、それならわたくしダメ、わたくしの軟弱な脳細胞では理解不能だなと、えー、まー、いちおーは、矛を収めたといいますかー、そもそも、「勝負」にはなっていないんですがね。
しかし、大江健三郎の、若き頃の瑞々しい文章をこの度久しぶりに読みましたが、やはり凄いものだなーと、感心しました。 これは私の思いつき程度のことですが、やはり優れた小説の優れている理由の中心は、文体の力である、との証明ではないですか。 いえ、ひょっとしたら、これも今さらの当たり前のことなのかもしれませんがー。
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