手を洗った彼に何気なくハンカチをわたす。
シャーペンをカチカチやっていたら芯のケースを投げてやる。
怪我をしたらすかさず差し出すバンソウコウ。
なんでもいいから彼の役に立ちたいし、
かかわっていたかった。
ボクは彼のことが好きだった。
いつまでもこのままでいられるように、
この想いがバレなければいいと思っている。
だから、
「なに、お前、俺のこと好きなの?」
からかい半分で言われた時も、
「あはは、そうだよ、好きなんだよ。」
なんていってサラリとかわした。
どんな演技だってやってみせる。
彼を失いたくない。
出来るだけ長く、少しでもそばにいたい。
カモフラージュでボクは誰にでも親切にしていた。
たんなる世話好きなのだと彼に思ってもらえるように。
「気に入らない。」
風邪で学校を休んだ彼の為に、
プリントを届けにきたっていうのに、
まだ治りきれていないのか、すこしやつれた感じの彼は、
機嫌悪くボクに文句なんていい始めた。
「なにが?」
「今日もお前はうれしそうに愛想ふりまいてやがったんだろ?」
モテる彼のことだし、女の子に来てほしかったのかな。
それなのにボクだったから、いちゃもんをつけてるのかもしれない。
ひどい話だ、ボクは彼の我儘でさえうれしく思っているのに。
「そんなことしてないよ、はい、これ預かったプリント。」
冷静を装ってさりげなく部屋をみまわす。
彼の部屋にふたりきりだなんて、
こんなことは二度とないかもしれない。
「お前は俺のこと好きって言ったんじゃねーの?」
「そりゃ、好きだけどさ。」
けしてボロなんてださない。気持ちがバレてしまったら、
もう二度と彼とは顔をあわせられないから。
「夕べはあんなに・・。」
熱にうかされたような彼の瞳が潤んでいる。
「ゆうべって?」
辛そうに瞳を閉じる彼を見ると、
早く帰ってあげないと、休めないよねって思った。
「もう、寝てたほうがいいよ、ボク帰るし。」
あっさり言って立ち上がる。
帰りたくなんてないけど、
少し我慢すればまた学校で会えるんだし。
気持ちがバレちゃったらモトもコもない。
手をかそうと彼の体に触ったボクを睨んで、
彼は、
「お前、いい加減にしろよ。」
って言った。
「・・・なにが?」
なんで怒ってるんだろう。ボクはなにをしてしまったんだろう。
「・・・夢にまで出てきたくせに」
彼の小さなつぶやき。
夢の中のボクと混同してるんだろうか。
「ボクどんなだったの?夢で・・・」
気になる。
「ちゃんと俺のものだった。」
まるで駄々っ子みたいな言い方で彼はそういって、
「なんでも俺のゆうとおりにしてくれた。」
と続けた。
「ゆうとおりって?」
確認したい、彼はいったい何を言っているんだろう。
「・・・ぬいで、そこ横になって足、
俺に見えるように開いて、一人でして?」
冗談なんかじゃないと、彼の真剣な眼差しが言っている。
びっくりして止まってしまったボクに、
「・・・ごめん。嘘。やっぱり、夢だよな・・・。」
彼は残念そうにそういった。
「そういうのが好きなんだ?」
恥ずかしくてうつむいてしまうけれど、
同時にそういう対象として見られたことが、うれしくなってしまう。
「風邪が治ったらしてあげるよ?」
すました笑顔で言ってみたけど、
演技ででもそんなこと出来るんだろうか。
「・・・ほんとに・・・?」
半信半疑の彼は、
「続きじゃないよな。」
といいながらボクのほっぺたと、
自分のほっぺたを同時につねっていた。