了承は得たはずなのに。
何故か、狭い部屋の中を逃げ惑う彼を追いながら、
俺まで疲れてきた。
「ちょっと待てっつってんだろうが!」
喧嘩ごしで俺を睨む整った顔立ちは、
普段のお綺麗さの微塵もなく、俺を睨みつけている。
「なんだよ、またかよ。」
ケリをいれられそうになって、
俺は彼の手首をつかんだままで、
とりあえずの動きを止めた。
「ふざけんなよお前、ヘタクソ!」
これから、愛の行為に及ぼうとしているっていうのに、
何故こんなにも彼はかたくななのか。
「てめーが暴れるからだろうが、
ヘタクソにされたくなかったら動くな!」
俺も怒鳴っていた。
あまりにも思い通りにならないのでイライラしている。
もう、意地になってきて、
そのまま強引に彼を倒すと、力まかせにおさえつけ、
首筋に舌をはわせた。
「やめろってば!」
押さえたけれど、彼の手がスルリとぬけて、
次の瞬間思いっきりグーで顔をなぐられた。
本当に殴られた。
「~~~~!」
あまりの痛さにうずくまってしまう。
なにも本気でなぐることはないんじゃないか。
「あ・・・。」
俺が離れたので、冷静になったのか彼は、
「ごめん。」
といって俺の顔を覗き込んできた。
「・・・なに、お前どうしてーの?」
もう、それどころではなくなって、
俺は本当のことが知りたかった。
そこまで嫌なら、無理にする必要もない。
落ち着いてみると、
お互いにゼェゼェと息を切らせていることに気が付いた。
これではまるで格闘技だ。
不自然なその状態を頭の中で整理しながら、
俺はとりあえず愛すべき対象の彼にそう質問した。
「こんなんじゃいつまでたっても無理だろ?」
あらそうつもりはないけど、
そこまで抵抗されると、俺だってどうしようもない。
「だってくすぐったくて、我慢できねーもん。」
息を整えながら、すまなそうに視線をそらして、
やっといつもらしくなった彼が言った。
「あ、なにお前、くすぐったかったの?」
ならばまだ、遠慮がちに少し触れただけだったので、
もしかするとそれがよけいに駄目だったのかもしれない。
コクリと彼が頷いたのを見ると、
では。
フイをついて俺は、彼の唇にキスをした。
気がそれていた彼は、驚いた顔をして俺を見る。
「平気じゃん。」
俺は微笑んでから、びっくりする彼を観察していた。
「もう一回な。」
手を触れないようにして、唇だけが彼に届くように、
今度はさっきよりも少しだけ長くしてみた。
「どう?」
身動きしない彼は、頭の中で思考をめぐらせたあと、
「全然大丈夫。」
と言った。
そして、
「お前は触るなよ?」
言いながら、震える手で俺の頬にふれて、
今度は自分から唇を重ねてくる。
ぎこちない動き方や、緊張しながら触っている手を感じると、
思わずおそいかかりそうになったけど、
かろうじて耐えた。
また殴られてはたまらない。
待っていると、慣れてきた彼が俺の顔を抱きしめてくれて、
ああ、いい感じたと実感しかけたその時、
すりよせてしまった頬におどろいた彼が、
ビクッとなって離れてしまった。
「お前!ヒゲぐらいそっとけよ!」
自分の頬をおさえて赤くなる彼にため息をついて、
まぁ、今日のところはキスができたんだからよしとするか。