あと一個。みなさまお疲れ様です。
タイミルは大きな弓矢を構えて、
高い木の上からぶらさがっているクルスに集中していた。
最終回になってなんだが、彼は弓の名手なのだ。
(参照:『結接蘭・破接蘭』-牡牛座のあなたへ-(5/12))
「言っとくけど、はずしたら承知しないわよ!」
脇で祈りながら、クロッテスが叱咤する。
「うるせー!黙ってろ!」
いつものように怒鳴りながらも、
どんどん神経が集中していくのが自分でもわかった。
心の中で視界がクルスに近付いていく。
何故そこにあるのかわからないが、
シンプルな形だが、綺麗な首飾りが微妙に風に揺れている。
今だ。
思うと同時に矢を放った。
見事に一撃でクルスのかかっている枝をとらえたそれは、
ヒモをからめとると、都合よく一緒に落ちてきてくれた。
「やった!」
しかし、駆け寄る二人の前にクルスはなかった。
「・・・なんで?」
ヒモはあるのだ、
トップの部分だけはじけ飛んだとでもいうのだろうか。
「・・・・お前、他のクルスは?」
テスの胸元に目をやったタイミルが言った。
「え?」
首からさげていたテスの首飾りも、
ヒモを残してきれいに消えてしまってる。
「ちょっと!どういうことよ!」
あわててタイミルの麻袋を奪い、
さかさにして中身を出してみたけど、
タイミルの持っていたクルスもすべて同じ状態だった。
しばらく黙り込んで、頭の中で状況をまとめたテスは、
大袈裟にため息をつくと、
「さえない結末ね。」
とだけ言って、空を見上げた。
本当は泣きそうだった。
期待していないといいつつもやはり、
すべてそろったクルスを目の前に、
一応呪文を唱えてみるつもりではいたのに。
「泣くなよ。」
「泣いてないわよ。」
タイミルは、テスがぶちまけた麻袋の中身から、
コインくらいの大きさの、
小さな王冠のような形のものをひらうと、
「ほら、呪文は?」
テスの手のひらの上にのせた。
「?」
意味を理解できない彼女に、
「はい、せーの。」
といってうながす。
“keseran-paseran”
二人が同時に唱えると、ポンッとその小さな王冠は、
原寸大の宝石がたくさんついた、細くて綺麗なティアラに化けた。
「・・・・?」
クルスとはまったく関係がなく、
それはタイミルが城を出る時に持って出たものだ。
花嫁とめぐり合えたら渡そうと思っていた。
「家族が欲しいんだったらさ、俺と一緒にくれば?」
黙ったままでいるテスの頭にそれをのせ、
「そしたら俺の願いだって叶うし。」
だから12個の首飾りは消滅してしまったのだろうか。
自分でいいながらタイミルは思った。
願いが叶ったのなら、
クルス達の役目は終わったのかもしれない。
その国の言葉を、テスは理解することが出来なかった。
「いや~、王子様や~。帰ってきはったんやね~。」
だけど人々がタイミルのことを王子様と呼んでいることはわかった。
預けていた馬をとりにいって、服もかえるように進められていたが、
タイミルはそれを断っている。
(コスプレじゃなくて?)
とテスが思うような、派手な衣装だった。
お城の前まで来ると、タイミルは弓を射って鐘を鳴らす。
「サラン!サラン!俺だ、開けてくれ!」
二人で白い馬にまたがりながら、テスが背中で言った。
「お城の奥に大きな建物があって
あたし、たくさんの人と暮らせるの?」
わくわくしたような、楽しそうな様子だ。
「俺の城にはそういうのはないんだ。」
代々一途な家系なのか、
タイミルの国にはそのシステムはないようだ。
吊橋式の門がゆっくりと降りてくるのを見ながら、
「なんで?あんたに甲斐性がないから?」
クロッテスは少し不思議そうな顔をした。
タイミルの言った意味を彼女はちゃんと理解しているんだろうか。
sagittarius-結接蘭・破接蘭-
物語を信じる純粋な心を持つことが出来たら、
もう願いは叶ったのと同じこと。
自分の一番欲しいものを考えておきましょう。
思い思いに散らばったクルスがまた集まる、
その時まで。
to be continue-結接蘭・破接蘭-