きょうもよしあしありなし

2010/11/07(日)10:16

『ウィキッド』@大阪四季劇場

おしばい(199)

劇団四季の『ウィキッド』を見てきました。 『オズの魔法使い』の裏話になってまして、 あの話ではドロシーに退治される魔女が本当は悪者ではなくて… って話ですが、マイノリティの女の子が居場所を見つける話でもあり、 タイプの違う女の子二人の友情ものでもあり、 二人の女の子の成長物語でもあり、政治的な隠喩の話でもあり、 子供から大人まで重層的な楽しみ方ができる深いミュージカルでした。 私はアイデンティティが緑の肌のエルファバつうか、 マイノリティであって内部に黒いものを持つので、 一幕目の終わりのエルファバが権力と決別して ほうきに乗って飛び出す場面でぼうぼうと一人泣いていた。 居場所のなかった子が自分を見つけて力を得る場面ではやたらと泣くのだ。 これはこないだの『マイ・フェア・レディ』でも イライザが初めて「すぺいんではおもにあめはひろのにふります」 と言えた場面でも泣きそうになって、 いくらなんでもここで泣くなよと一人ツッコミをして耐えたのであった。 私が見たのは11月3日マチネですが、 主要キャストはみんなルックスも演技もなかなか良かった。 以前見た『アイーダ』はアイーダは良かったけど、 ラダメス、ゴリラみたい、その姿勢を何とかしろ、 アムネリス、クライマックスの歌でもっと泣かせられるはず と思ったので。 よい魔女のグリンダは宝塚の女役を思わせる容姿の 山本貴永さんという人で、細いのに筋肉がすごい、 エルファバと仲良くなるきっかけのゆっくりしたダンスや あとの方、エルファバとけんかになりそうになる場面で 身長を越えるほどの長さの妖精の杖を沙悟浄よろしくふりまわすときの 筋肉の美しさに感動した。 欲を言えば、最初の場のグリンダにスケールの大きさがもうちょっと欲しかった。 こんなに無理してちゃ、この後大丈夫って思っちゃう。 でも、後半、なんでこの子こんなに人がいいんだよぅ、 グリンダかわいそうじゃないかと思わせたし、 学校入りたてのグリンダ、物質的には恵まれ、みんなの人気者だけど、 親からも周りからも外面でしか評価されてなくて 実はさびしかったんだろうってわかった。 エルファバの江畑晶慧さんも最初はずどんと立ってて、 そうそうオタク系(私もオタクですんで揶揄してるわけじゃないです)の 女子高生でこういうタイプの子いるいる。あともなかなかよかった。 エルファバも純粋で真っすぐな子ではあるけど、 ひがみ心があって、かたくなな面がグリンダと関わるうちに変わっていく。 後半、二人がお互いに成長させてもらったと歌う場面、 これはみんな泣いてたから、私も遠慮なく泣きました。 一つ難癖をつけさせてもらうと、 曲があんまり頭に残らないんだよね。 こないだの『レベッカ』のときは、 一ヶ月くらい頭の中が「レベッカ祭り」になって大変だったのだ。      ~~~~~*~~*~~*~~~~~ 映画『オズの魔法使い』を先に見てる方が、知ってれば知ってるほど 楽しめるのだと思う。私は子供の時原作を読んだよ~。 魔女があっけなくやっつけられてしまう。 そのショックでドロシーがどうやって故郷に帰るか全然覚えてなかった。 脳ミソのないカカシと心のないブリキ男と勇気のないライオンへの 解決策は覚えてるけどなんだかなぁだし、 私はイギリスファンタジー育ちなので、 このアメリカの童話にはどうも付いていけない、 同じ児童文学全集に入ってた 『トム・ソーヤーの冒険』と『ハックルベリー・フィンの冒険』は すごく楽しくわくわく読んだが、この話はどーもピンとこなかった。 アメリカでは作者自身の続編に、作者の死後も書き継がれたシリーズが なんと40篇もあるくらいの人気作品だそうな。 『ウィキッド』プログラムを読んでいるとアメリカ文学の教授が 『オズの魔法使い』について解説していた。 この話は1900年まさに20世紀が幕を開けようとしている時期に世に出た。 序文でも「『今日の子供』を喜ばせるための『近代のおとぎ話』を書いた」と言ってる。 まず、ドロシー、自分で運命を切り開き威圧的な相手にも毅然とした態度がとれるヤンキー娘。 ドロシーについていく三人も知・情・意を備えて人間らしく生きたいと願っているが 自分がそれを持っていることに気づいていないだけだった。 これは「自己を信頼せよ」というアメリカ的教訓。 オズは魔法使いでなくただの普通の人という設定だが、 新世界へ移り苦労しながらも先住民を支配して文明都市を建設した これがまた新大陸に移住してきた「アメリカ人」そのもの。 あぁ、こう解説していただくと『西部二人組』をはじめとする 私たちが見て育ってきたアメリカのテレビドラマに共通する精神のような気がしてきた。

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