カテゴリ:Nostalgia Sketch
マーラーの2番の後ろから、除夜の鐘が聞こえる。
オーケストラと合唱団が壮大な世界を築きながら去る年のフィナーレと来るべき年のプレリュードを飾る一方で、二つの年を繋ぐようにゆったりしたリズムで鐘が響く。 東フィルのジルベスターコンサートの中継が終わったところで、僕は初詣に行くために外に出た。 真夜中の住宅街は、ポツリポツリと立つ街灯の明かり以外にこれといった光はない。僕は寒さに体を小刻みに揺らしながら、暗い道を歩いていった。 ふと空を見上げる。 気のせいだろうか。いつもよりも空が透き通っていて、夜なのにどこまで見えるように思えた。幼い頃に怯えた迫り来る闇はなく、ただ茫洋とした空間が無限に広がっているかのように。 昨夜の空と今夜の空が劇的に変わったわけでもない。 新しい年になったとはいえ、気持ち的に何が変わったという感慨もない。 だが、新しい一年が始まったこと、新しい一歩を踏み出すことに心のどこかが騒いでいて、その気持ちが僕に夜が闇ではなく未知の世界の広がりであるように見せているのかもしれない。 中国では夜のことを「宵藍」と呼ぶことがある。 そんな話を誰かから聞いた。 夜が明ければ世界ははっきりと姿を現すだろう。 だが、夜が明けていないからといって、世界が存在しないわけではない。 夜は黒く塗りつぶす闇ではなく、藍色に彩られた無限に広がる静かな世界。 その世界へ一歩踏み出すには、今夜ほどふさわしい夜はないのかもしれない。 進むうちに夜は明け、今まで来た道とこれから行く道がはっきりと見えてくるだろう。 鐘の音がまた一つ夜に響く。 その音が世界をまた一つ透き通らせる。 はるか先に、神社の篝火が道しるべのように光っているのが見えた。 ************************************************************** 最後になりましたが、新年あけましておめでとうございます。 昨年よりも更新頻度は落ちると思いますが、本年も「定時制教員のつぶやき」をどうぞよろしくお願いいたします。 縁あってここを訪れる皆様と、皆様の近くにいる人たちにとって、今年が良い年でありますように。 ゆき お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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