カテゴリ:Day
大学の学部時代のこと。
何の用事かは忘れたが、京阪の出町柳駅で僕はホームに止まっていた電車に乗り込み、出発を待っていた。 その時は夕方だったけど妙に眠く、閑散とした車内で座席に座って端に付いているパイプの手すりにもたれかかってうつらうつらとしていた。そのまま眠ろうかと思ったが、確かこの時は2駅先の三条に出ようと思っていて、このまま眠ってしまったら最悪大阪の淀屋橋まで連れて行かれることになりかねないので、必死になって閉じようとする瞼を持ち上げていた。 と、ホームの方から女の子の話し声が聞こえてきた。 ひょいっと顔を上げると、チマチョゴリを着た朝鮮学校の生徒たちが、僕のいる車両に入ってきた。彼女たちはおしゃべりに夢中になったまま、僕からちょっと離れたところに座った。 さっきまで静かだった車内に華やいだ声が飛び交い、僕の耳に飛び込んできた。 「そうやんなぁ~」 「え~、ちゃうって」 彼女たちは流ちょうな関西弁でしゃべっていた。 朝鮮学校の生徒ということは、全員国籍は朝鮮(北朝鮮籍の生徒がほとんどだそうだが、中には韓国籍だけど朝鮮文化に触れて欲しいからと、親が朝鮮学校に入れるケースもあるらしい)なのに、日本語で雑談している。 僕は、彼女たちの話し声を新鮮な驚きを感じながら聞いていた。 でも、よく考えてみれば彼女たちはおそらく全員日本生まれの日本育ちで、多分彼女たちの両親も日本生まれの日本育ちだろうし、生まれてから日本語に囲まれて育ったのだろう。だから、普段使うのは日本語という子も多いに違いない。 だから、日本語でしゃべっていることに驚いている僕のほうが、変なんだ。 国籍が違っても、住んでいる土地は同じ。 国籍が違うからといって、自分たちとは全く違った世界にいると考える方がおかしい。 いつの間にか眠気も吹き飛び、彼女たちの笑い声が響く中、 僕は密かに自分の視野の狭さを羞じていた。 テレビで日本と北朝鮮のサッカーの試合が明日行われるというニュースを観ていた時、 ふいに頭に浮かんだのは、このことだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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