駆け出し記者の一期一会

世界P.E.N.フォーラムで上演された井上ひさし書き下ろしの朗読劇を観た。

「リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン　　少年口伝隊一九四五」

昭和20年8月6日。広島に原爆が落とされた日。
一瞬にして壊滅した広島はヒロシマとなった。
数週間後、被爆地を猛烈な台風が襲う。
戦争と災害、双方に翻弄される人間の運命の不条理。

椅子が14脚、弓なり横一列に並ぶ。
読み手14名が登場して各自の席に着く。
新国立劇場演劇研修所の第二期生のフレッシュな面々だ。
演出は栗山民也。

一段高い席にギター奏者が一人座り、音楽はそのソロ演奏のみ。

シンプルなステージだ。

静かにつまびかれるギターの弦。
時に高音の速いパッセージ、あるいは低音の不気味な響き。
そして、14人の読み手の朗々たる声が、かわるがわるたたみかけてくる。

物語の主人公は三人の少年達。
国民学校の6年生だった。原爆で親兄弟はみな死んだ。
かろうじて生き延びた三人は中国新聞社に少年口伝隊として雇われる。
新聞社も原爆で吹き飛び、印刷も配達もできないから、
町を回り、口頭でニュースを伝えるのだ。
人が集まっているところで読み上げるニュースの原稿。
「8月8日、広島県知事からの通達です。かくかくしかじか…」
「8月9日、長崎にも同じような新型爆弾が落とされました」
「8月15日、本日正午に重大なラジオの放送があります」

町の人々にニュースを読み上げるうちに、
自分達が伝えている内容に対する疑問が湧き起こってくる。
そして、少年の目線から問いただすのだ。大人の身勝手な論理を。

息子達と同じような年齢の少年達が訴えている。
しかも、ニュースを伝えながら…！
その設定だけで、もう私の心の琴線はギターの弦の如くかき鳴らされるのだった。

普通の舞台に比べるとあまりジェスチャーのない朗読劇が
これほど迫力のあるものだとは…！
言葉と声が運ぶ「言霊」の力をダイレクトに感じた。

簡潔な地の文と、ほのぼの温かい広島弁が絶妙なバランスだ。
決して難しい言葉は使っていないし、笑いを誘うユーモラスな場面だってある。
自分では抗することのできない事態に直面した人間が
そのとき何を思い、どう行動しようとするか。
生き抜こうとする意志。しかし、それを不可能とする運命。
両側から「生」の根源に触れて、観る者を揺さぶる。

言葉の一つ一つが練り上げられた原稿が
最終的に仕上がったのは、なんと昨日（！）だと言う。
だから間違いなく今日が初演である。作者の井上ひさし氏も会場に来ていた。
短い練習時間で大変だったろうが、演じた若者達は実に見事だった。
これから多くの人に、中学・高校生にもぜひ観てもらいたい。

日本ペンクラブ主催で、災害をテーマにした国際フォーラムを開催中。

災害が露出させる人間と社会の深層を探り、
文学が、また映画や音楽や演劇が、この災害をどう表現してきたかを紹介。
その書き手や制作者が世界各地から集い、参加市民と共に
自然と人間と世界のかかわりをあらたに展望する。

「災害と文化」という切り口は世界初とのこと。日本からのこのような発信を誇りに思う。

「災害と文化　叫ぶ、生きる、生きなおす」
2月22日（金）～25日（月）　全労済ホール　スペースゼロにて
小説やエッセイの朗読、朗読劇、映画、コンサートなど多彩なプログラム。

「リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン」は
川崎市アートセンター　アルテリオ劇場で2月～3月開催中の
「国際ドラマリーディングフェスティバル」でも上演されます。
公演日は3月7日＆8日