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第7官界彷徨

第7官界彷徨

薔薇亭華城の時代

 薔薇亭華城(唯物論の哲学者戸坂潤)は、1900年に東京で生まれ、開成中学から一高、に進学、京都大学哲学科で、西田幾太郎に師事しました。
 マルクス主義の影響のもとに唯物論研究会を発足させ、唯物論の形成と大衆化に力を尽くしました。
 1938年、治安維持法で検挙され、1945年、8月9日、長野刑務所で獄死しました。

 「日本の民衆と日本的なるもの」
            雑誌「改造」昭和12年4月号より

 私はひとつの疑問をもっているものだ。なぜ人々は「日本的なるもの」というふうにばかりいって、「日本民衆的なもの」とはいわないのであるか。



 レクイエムとはカトリック教会における「死者のためのミサ曲」のことである。と書かれた浅見洋さんの「思想のレクイエム」を読みました。
 彼はそこに3つの意味を込めたという。
 ひとつは「思想という名のレクイエム」西田幾多郎らの二人称の死に対する思索、に対する癒しの作業として描こうと。
 もうひとつはこの本に取りあげた15人の思想家たちは、西田、鈴木大拙、西谷啓治以外は、忘れられつつある、そうした「歴史に埋もれた思想家へのレクイエム。
 3つ目は
 「思想そのものへのレクイエム」現代のような不透明な時代にこそ、閉塞的な状況を打破する指導的な理念が必要であるにもかかわらず、それが喪われて久しい。この意味で思想という消え去りつつある営みそのものへのの郷愁でもある。

 ということなのです。
 浅見洋さんは1951年石川県生まれ。金沢大学大学院文学研究科で、哲学を専攻なさったそうです。

 そこに、主役の西田幾多郎からはじめて6番目に、戸坂潤がいました。写真の顔はなぜか懐かしい、どこかで会ったことのあるような・・・。

 書き出しはこうです
『太平洋戦争の終戦6日前に長野刑務所で獄死した哲学者戸坂潤が小学校の校歌を作詞していたことは、哲学研究者の間でもほとんど知られていない。
 さらに驚くことに、その徹底した反戦活動家の作詞した校歌は、戦時中にもかかわらず、能登の児童たちのよって高らかに歌われていたのである。
 
 2003年早春に訪ねた石川県冨来町立増穂小学校には、廃校になって久しい旧東増穂小学校の校歌が扁額として保管されていた。(この額は現在、地区の公民館に保管されている)
 そこには流麗な優しい文字で、郷土愛と希望にあふれた雄々しい歌詞が書かれていた。』
     
 (中略)
 『東増穂の生徒たちが新しい歌を大喜びで歌い始めた翌年、作詞者は治安維持法違反容疑で検挙された。それから1945年8月9日に非業の死を遂げるまでの6年9ヶ月、裁判と留置所で、潤はみずからの哲学にもとづき反戦を貫いた。』

(中略)
『戸坂潤は近現代の日本思想史において、最も徹底した唯物論者であり、その徹底性のゆえに犠牲になった透明な知性である。』

 戸坂は東京で看護師として働く母の実家の能登で育ちました。学校は開成中学、一高、そして京大へ。
 開成の友人の村山知義は
「戸坂は哲学を専攻するのだといっていた。ところが戸坂は理科を選んだ。哲学をやるためには、まず、数学と自然科学をみっちりとやらなけらばならないからだ。と言った。わたしは戸坂に対して、とても及ばないものを感じた」と語っているそうです。

 そののち、京大大学院での様子を当時新入生だった後輩は
『「あそこに四天王子がいる」と友人がささやいた。そこには木村素衛、高坂正顕、西田啓治、戸坂潤の四人が心理学教室の前の庭園で談笑しているのを、ほのかな羨望とぼんやりとした敬仰の気分でながめていた。」

 この四人の中で、戸坂だけがやがて西田門下を離れ、唯物論の立場で京都学派に対して鋭い批判を展開することになる。』

 1930年以降は、唯物論研究と国家権力との闘争の日々。

 1938年、2月29日未明に検挙され、裁判と刑務所生活が続く、残された子ども達に潤の母は「お父さんは立派な学者で、それがわからぬ警察が連れていったのだから、おまえたちは決してはずかしがることはない」と言い聞かせたといいます。

 国家との悲壮な闘いの中でも、当の潤はいたって快活で、留置場内で「俳句会」をもち、革命家ローザ・ルクセンブルクの名をもじって「薔薇亭華城」という雅号で句作したとか。

 白色テロの犠牲とも思えるローザと戸坂潤。もし、かれが西田門下でいたならば、死なずにすんだのかも。

 そして、今の日本。情報も学問も思想も自由なこの時代、この混沌を切り開くために、明晰な論理がかつてないほど必要とされるこの時代が、まさか思想の冬の時代になろうとは・・・・。
 精神のない、物質としての書物ばかりの現代は、まさに思想のレクイエムが必要な時代になってしまったんですね。
 


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