ガラスの帝国

2005/08/06(土)11:06

ヒロイック・ファンタジーの流行

SF巨大生物の森(12)

この頃のアメリカSFのもう一つの潮流として見逃せないのは、エドガー・ライス・バローズの火星シリーズを代表とするヒロイック・ファンタジーの流行である。 バローズは1912年、火星シリーズの第一作『火星の月の下で』(後の『火星のプリンセス』)を書く。 火星シリーズのストーリーは単純にして荒唐無稽である。最初の3冊のストーリーを簡単に説明する。主人公のジョン・カーターは、ある時肉体から魂が飛び出てしまい、魂だけが火星に飛ばされてしまう。 火星は地球よりも科学力が何千年も進んでいるが、文化的には中世を想像させる。火星は地球よりも重力が小さいため、元々体力のあるカーターは、火星ではスーパーマンも同然である。 火星の悪人どもを剣でなぎ倒し、ヘリウム大帝国の王女にして絶世の美女でもあるデジャーソリスを救い、彼女と結婚して「火星の大元帥」の地位に収まる。 御都合主義的で設定に矛盾が多く、そしてなによりB級の魅力がたっぷりなこの作品は、容易に量産できる為、近代商業主義にとてもマッチしていた。 それ故「バロウズ風の」作品は一大ブームを巻き起こすことになり、後のSFとファンタジーとに絶大な影響を与える。 バロウズが生きている頃には数百人の模倣者がいて、その模倣者の中でも有力な者にはさらに数百人の模倣者がいたという伝説(リチャード・ルポフ『バルスーム』)がある。

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