テーマ:新撰組!(305)
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新見錦は、歳三いわく「人物として芹沢以上、いや、うちの近藤以上」。無論、新見を陥れるための甘言だが、必ずしも単なる世辞とは言い切れない。客観的にみれば(あくまでこの物語の中で、との留保がつくが)、かなり的を得た評価といえる。時勢を読み解き、事象の裏に潜む意図を見抜く洞察力は山南をも凌ぐ。清河の連判状しかり、八月十八日政変における薩摩藩の謀略しかり。際どい隊内処理もしたたかにこなし、参謀としての実務能力に不足はない。
新見は芹沢と同じく水戸出身で、北辰一刀流で剣と思想を学んだ。「水戸」「北辰一刀流」といえば、尊攘派の中でも最も原理主義的色彩の濃い水戸学派の王道を行く。だが新見は、一面で冷徹に現実を見据える眼を持っており、机上の尊攘理論を貫き通すことの限界も知っていた。幕府側に身を置くことも、信条を実現するために相応の地位を得る手段と割り切っている。 この点、山南も新見と同じ北辰一刀流の出である。したがって山南にも原理主義的な尊攘思想は根付いており、政治信条的には近いものがある。だが新見とは違って、その心根は実にピュアだ。それだけに付け入る隙はおおいにあり、新見としては御しやすい相手と見受けられた。 ところが、歳三にはそういう甘さがない。歳三は主義や思想などではなく、ただひたすら勇を押し立てるために仕事をしている。シンプルだが極めて明快な目的を持ち、その実現のためには手段を選ばない。自分に輪をかけた超現実主義者である歳三の才覚が、新見には不気味に思えた。浪士組内の主導権争いにおいて歳三と激しい鍔迫り合いを演じるうち、ますますそれを痛感する。我が大将の芹沢の評判が急落する一方で、勇はこのところ日に日に存在感を増しており、会津侯の信頼も格別に厚い。しかも歳三という新見にとって最大の脅威をも擁する。勇を敵に回すのは得策でないと判断した新見は、芹沢を見限り、歳三の誘いに乗った。 しかし、相手に危険な匂いを嗅ぎとっていたのは歳三も同様だった。歳三はそれゆえ、いずれ厄介な存在になりかねない新見の抹殺を真っ先に企てたのであろう。喧嘩上手なら歳三が一歩先を行く。歳三の策は見事にはまり、新見はついに引導を渡された。 新見の命運を分けたのは大将に賭ける想いだった。参謀の絶大な権限は、上に戴く大将からの全幅の信頼に由来し、そのぶん参謀は大将に対して無限の責任を負う。大将に腹を切れと言われれば、喜んでその通り果てる覚悟でいる。歳三にはまったく疑いのない前提であったが、新見にはその感覚が極めて乏しかった。たったひとつの欠点だが、参謀の資格としては致命的な欠点だった。 山南イッ!お前はこれでいいのかッ!? 新見は、歳三の罠にかかった無念を歯がみする一方で、この企てに山南もが参画していたことに愕然とした。非情に徹する山南が痛々しい。そもそも過激な尊攘思想者が幕府側の一員として振る舞うという芸当を、山南のような元来誠実な男がこなすのは無理があるのとうのに。 あんたも足下をすくわれないよう、せいぜい気をつけることだな、 山南さん・・・ 新見はいま自らが置かれた現実を急速に受け容れながら、歳三の今後の思惑を瞬時に追っていた。――俺は土方と思考回路が似ている。俺が土方なら、芹沢派を一掃した後、参謀の機能をいっそう強化すべく、権限を一本化することを考える。とすれば、次の標的は・・・山南だ――いつか山南も自分と同じ憂き目に遭う――新見は不吉な出来事を即座に直感した。 そして新見は自ら果てた。「先に行って、待ってるぜ」という不吉な予言を遺して。もちろん、名宛人は山南敬助である。 山南は初めて歳三に脅威を感じたに違いない。暗い表情の山南に、「これは、避けては通れない道なんだ」と歳三。歳三はこの時点で何も自覚していない。が、歳三のこの言葉は、山南にどう響いたのか。 #以上、トーベのミーさんの新選組レビュー「●●●新選組!~ただ其処にいるだけで」の「追記」部分(山南敬助の複雑な胸中について)に触発されて。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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