テーマ:ショートショート。(1084)
カテゴリ:短編
また、短い話を書きました。
今回はコメディっぽいものを。 暇なときにでも読んでください。 一人で喫茶店にいるとね、 ついつい、周りの人を観察しちゃう。 そういうものなんです。 ―――――――― 「月子、喫茶店で人間観察の日々」 そのカップルは、ボックス席に向かい合って座っっていた。 二人は喫茶店に入ってきてから今まで、ウェイトレスにオーダーを告げる時以外はまったくの無言だった。 別れ話かな……と、私は考えていた。 誰が見てもはっきりとわかるほどに険悪なムード。 いったいこの後、どんな展開が待っているのだろうか。 たまたま二人の隣の席に座っていた私は、気づかれないように注意しながらも、内心興味津々で、これから何が起こるのかワクワクで、二人の様子を観察していた。 少ししてからウェイトレスがやってきて、彼の前にコーヒー、彼女の前にアイスティーのコップを置いた。 それを合図にしたように、彼女が口を開いた。 「なんか言いなさいよ」 「……なんか…………」 「……は?」 「……なんか言えって言ったから、なんかって言った」 子供かよっ! 私は思わず吹き出しそうになった。 「ふざけないで!!」 「……」 そりゃあ、彼女怒りますよ。 ふざけて良いような雰囲気じゃないっすよ。 「どうして、あの子と会ってたの?」 「どうしてって、……いや、会いたいって言われて」 「会いたいって言われたら会うの!?」 ああ、彼の浮気か。 こりゃあ面白い。 「どこで会ってたの?」 「……彼女の家」 「なんで……どうして彼女の家になんて行ったの?」 「いや、家に来てって言われたから」 来てって言われたら行っちゃうのかよ! その受け答えはまずいって!彼女我慢の限界っぽい顔してるよ! 「ふざけないでよ!」 「いや、だって、そうなんだもん」 「じゃああなた、浮気してって言われたらしちゃうの?」 そうそう、そうだよ。 そんな簡単に浮気なんてしちゃうなよ。 「いや……浮気はしないよ」 「してないの?」 「うん、してない」 「本当に?彼女の家まで行って?」 「うん。してない………Bまでしか」 Bまでしたのかよ!! ――と思った瞬間に、隣で派手な音がした。 パシャーンッ!という、水が飛び散った音だ。 驚いて思わず隣の席を見ると、彼女が自分のアイスティーを彼にかけていた。 「……っ!痛っ!氷、氷ヒットした!」 コップを持ったままの姿勢で動きが止まっている彼女の目の前で、びしょ濡れの彼が口のあたりを押さえて騒いでいる。 「うー、いてぇー。クリーンヒット。まさかコップの中の氷が凶器になるなんて……」 「サイテー!」 バシャーンッ。 二杯目かよ! アイスティーをかけられてまでふざけている彼に対して、彼女はただの水が入ったコップを持ち、その水を彼にかけた。 そして、彼女は立ち上がって喫茶店を出て行った。 …… 彼は、さすがに反省しているのか、無言で自分の前髪から滴り落ちた水を見ていた。 「……ッチ」 隣で、彼の舌打ちが聞こえた。 そして彼は、上着からポケットティッシュを出して、顔や髪の毛なんかを拭き始めた。 こんなふざけた彼とは、別れて正解だと私は思った。 彼女がいるのに他の女の子とBまでするなんて、最低だ。 ……いや、っつーか彼女が水かけたことでツッコミそびれちゃったけど、Bって表現古くない? イマドキ、Bって! ……と、私が心の中でツッコミを入れている間も、隣の席で彼はうなだれている。 濡れた服は、少し拭いたくらいじゃどうにもならないと諦めたみたいだ。 最低な男。 ……そう思うんだけど、やっぱり、彼のことが少し可愛そうな気もしてくる。 ……と、喫茶店のドアが開いて、先ほど出て行ったばかりの彼女がツカツカと戻ってきた。 そして、叫んだ。 「どうして追ってこないの!!」 ……えぇー!追ってきて欲しかったのー!? びしょ濡れの彼の前に戻ってきた彼女が、問い詰めるように彼を見ている。 彼は、ぽかーんって顔してる。 「追ってきてくれてもいいじゃない!」 「……おまえ……」 彼は、ポカン顔のままで言った。 「……おまえ、バカか?」 「なっ……バカじゃないわよ!」 「だってお前、追ってきて欲しかったら、水はかけないだろ、ふつー」 そうだ、そりゃあそうだ。 「……だって」 彼女の言葉をさえぎるように、彼は早口で捲くし立てた。 「いいか、考えろよ。水をかけられたら普通はぼーぜんとしちゃうだろ。それで、水かけられまでしてさ、去っていく彼女を急いで追いかけられるほどタフな男は、なかなかいないよ?少なくとも俺はムリ」 彼女は何も答えられずにいる。 「普通は喫茶店で水をかけられた男ってのはなあ、呆然と座ったままでいるもんなんだよ。そうやって、自分のバカさ加減とかを後悔するもんなの」 彼の声は徐々に大きくなり、周りの人にも聞こえるくらいになった。 「それで、店の人が哀れそうな顔でおしぼりを持ってきて、なんか情けないやら申し訳ないやらな気持ちになって、『すいませんご迷惑かけて』っつっておしぼりを受け取って……って、いや、まあね!ここの店ではおしぼりとかは持ってきてくれなかったけどさあ!」 いや、っつーか店の人に文句言ってるの!? 聞こえてるから! なに?おしぼり欲しかったの? わざと聞こえるように言ってるの? 「それとかね、彼女が出て行ってから、ふーってソファに寄りかかってタバコを吸おうと取り出すんだけど、タバコも濡れてダメになってて、そんで舌打ちしたりして……って、そりゃあさ!ここは禁煙席なんだけどさあ!」 いや、この喫茶店が全席禁煙席なのはしょうがないじゃん! ……ってことは、あれか? さっきの彼の舌打ちは、おしぼりを持ってきてくれなくて、そのうえ禁煙席だったことに対する舌打ちだったのか? 「だから、お前も追ってきて欲しいなら、無難に泣きながら走り去るとかにしておけば良かったんだよ。……ま、そっちのが面白みは半減するけどさ……」 面白みって! それにしてもこの彼、怒ってる彼女にダメ出ししてるよー。 いや、まあ、確かに追って来て欲しい女の子が相手に水かけちゃいけないとは思うけどさ……。 「……なにそれ」 お、黙ってた彼女が口を開いた。 「あなた、全然反省してないじゃない!どうして、どうしてこんなときにふざけられるのよ!」 「……しょうがないだろ。それが俺なんだから」 うわー、出た。 “俺、こんなんだからしょうがないじゃん”発言だ。 「そんな……こんな時にふざけるなんて、そんなのおかしいよ……」 ああー、彼女の方が正しいのに、なんか弱気になってきちゃった。 声に勢いがなくなってきている。 「……まあ、俺も悪かったよ」 おおっと、彼、素直に謝るのか? 「お前、二杯目の水かけただろ……」 うん、かけた。アイスティーかけて、水かけた。 「あんとき俺びっくりしちゃってさ、ぼーぜんとしちゃった」 彼もちょっとは反省してるのかな。 彼女にそこまでされて、やっと後悔したのかな。 その彼の言葉を聞いて、彼女は言った。 「……ごめん」 彼女はなんも悪くないのに、謝るなんて。 なんて健気な彼女なんだろう。 「いや、謝るのは俺なんだ。あんとき、『2杯目かよ!』ってつっこまなきゃいけなかった」 そう、2杯目かよ!って、そうそう。 私も心の中でそうつっこんだ……って、ええー!! リアクション取れなかったことに対して後悔してるのかよ! 「あれ、面白かったよ。サイテー彼氏に追い討ちをかける彼女」 自分でサイテーってわかってるのかよ! 「お前のファインプレーを活かせなくて、残念だ」 いやいやいや、そんな後悔しなくていいから! 「いや、でも、アイスティーでベトベトなところを水できれいにしたっていう、ある意味で優しさだったのかもしれないな……」 優しさとか、そんなんで水かけないから! と、そんな感じで、彼はひたすらベラベラと話続ける。 ……っつーかこの彼、完璧におちょくってるな。彼女のこと。 彼女の方は、なんかもう何も言えなくて、わなわなしてきてるんですけど。 このままだとまた爆発しそうなんですけど。 「おい、大丈夫か?どうした?」 いやいや、あんたのせいで大丈夫じゃないんでしょうが。 「お前が言い返してくれないと、俺の一人芝居になっちゃうじゃん。俺、そこまでの腕ないよー」 いや、芝居って! 腕とか関係無いし!今まで十分一人芝居成立してたし! っつーか、彼女、いよいよ我慢の限界らしい。 彼のことをキッと睨みつけた。 「……いい加減にして」 「え?」 「いい加減にしてよっ!」 彼女が叫んで、またもや派手な音がした。 パシィッ。 彼女が彼の頬を平手打ちしたのだ。 彼女は振り切った腕を上げたままで停止している。 「……いってぇー。……ぶったね!お父さんにもぶたれたことないのに!!」 アムロ!? 定番っちゃあ定番! この彼、めげないなあ…… パシィッ。 うわあっ!往復ビンタ出たっ! 彼女は、一度手のひらの方で頬を張ってから振り上げたままだった手を、そのままバックハンドで振り返した。 これは高等技術です。ええ。 そして、そのまま彼女はツカツカと喫茶店を出ていった。 頬を押さえながら沈黙する彼。 彼女の前ではずっとへらへらしっぱなしだったのに、彼女がいなくなると神妙な顔つきになってる。 ……もしかしたら彼は、わざと彼女を怒らせるようなことを言ってたのかな。 彼女と別れるために……。 そんなことを考えると、なんだか切なくなってきた。 ……と、喫茶店のドアが開いてツカツカと彼女が戻ってきた。 え?え?まさか…… 「追って来てよ!!」 エンドレスリピートだあっ!!! おわり (……このままじゃきりがないから) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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(o_ _)ノ彡☆ギャハハ!! バンバン!
エンドレスでやるとは元気ですねー! 終いには店員さんにつまみ出されそうですが(笑) 彼のあれは地なのか演技なのか・・・・・・。 隣で聞いてるぶんには面白いけど、彼女の立場だったら腹立つだろうなー(^_^;) ところで、Bって今は何て言うんですか? (聞くなよ/汗) (2006年02月10日 22時42分12秒)
雪村ふうさん
コメントありがとうございますー! >彼のあれは地なのか演技なのか・・・・・・。 さー、どうなんでしょうね。 もともとマジメなことをふざけて笑い飛ばすようなキャラなんでしょうけど、これはちょっとわざと怒らせてるっぽいかなあと思います(冷静な分析)。 >ところで、Bって今は何て言うんですか? >(聞くなよ/汗) ----- そもそもBってどこからどこまでですか? なんて。 ここの記述は実はけっこう迷いました。が、今風のどんな表現にしてもハレンチすぎるので古めかしいこの表現にしました。 (2006年02月10日 23時34分40秒)
hoihoi0765さん
>おもしろかったっす。 ありがとうございますっ! 嬉しいです。 >このカップルの続編?(続いているなら)を >切に希望する者です。 続編ですかー。私の場合、続編みたいなものを書こうとするとぐだぐだになっちゃってうまくいかないんですよねー。 いや、でも、希望されるのであれば考えます続編! 面白いものが書けそうだったら、書きます続編!そのときはまたよろしくお願いします! (2006年02月11日 08時57分46秒)
こんなカップル実際にいたら、うちも観察するだろーなぁ(笑)
見てるぶんにはおもしろいけど、うちはこんな男にはついていけません・・・( ̄▽ ̄;) 彼もすごいけど、彼女もめげないなー 案外いいカップルなんだったりして。 んでいまどきBって(笑) かなり笑いました。 (2006年02月11日 10時14分27秒)
ぼっつぇ流星号さん
>こんなカップル実際にいたら、うちも観察するだろーなぁ(笑) きっとこんな人たちいたら目立ちますよねー。 >見てるぶんにはおもしろいけど、うちはこんな男にはついていけません・・・( ̄▽ ̄;) >彼もすごいけど、彼女もめげないなー >案外いいカップルなんだったりして。 普通の人はついていけないでしょうねーこの男には。彼女だからこそ、こんなやり取りが生まれたんでしょうね。 >んでいまどきBって(笑) >かなり笑いました。 Bって、最近の若い人らの日常会話には絶対に出てこないでしょうねー。 いや、私も使わないですけどね! (2006年02月11日 18時05分53秒)
あたし引くなー笑。
水かけるって、テレビの影響受けすぎー。 水かけたい衝動にかられたことはあるけど(それもテレビの影響だよね)、 さすがに、後のこと考えたわー。 この二人、幸か不幸か、付き合いは続いていくんだろうなぁー。 (2006年02月12日 13時58分50秒)
コロきょんさん
>あたし引くなー笑。 >水かけるって、テレビの影響受けすぎー。 >水かけたい衝動にかられたことはあるけど(それもテレビの影響だよね)、 >さすがに、後のこと考えたわー。 > でも実際に水をかけるって、物を投げつけたりするよりはずっと良い方法だと思いますよー。相手が怪我することは無いし。ストレスはだいぶ解消される。 そもそも後で彼が困るのは、自分には関係無いことなんだし。 オススメです。 >この二人、幸か不幸か、付き合いは続いていくんだろうなぁー。 どうですかねえー。二人の今後は、まあ、もしも何かあれば報告します。 なんて。 (2006年02月12日 17時27分27秒)
アイスティーはコップじゃなくて、グラスかなあ、なんておもった。カップでもいいけど。
実際、男のひとを平手打ちしたのは、人生で2度しかありませんが、水をかけたことはないです。 水をかけても流せないものがあるからねえ。 (2006年02月19日 12時18分42秒)
くみさん
>アイスティーはコップじゃなくて、グラスかなあ、なんておもった。カップでもいいけど。 > カップはコップに取っ手がついているもののことで、グラスってのはガラスのコップのことですよね。 この話では、グラスのコップにアイスティーが入っていました。 「――彼の前にコーヒーカップを、彼女の前にアイスティーのコップを置いた。」と書けばイメージしやすかったですかねえ。 >実際、男のひとを平手打ちしたのは、人生で2度しかありませんが、水をかけたことはないです。 >水をかけても流せないものがあるからねえ。 平手打ちより水をかける方が、オススメです。 背景にもよるでしょうが、男側からすると平手打ちされると殴ってきた女の方が悪いような気になるけど、水をかけられると自分が悪かったような気になります。たぶん。 私はどちらもされた記憶が無いので、わかりませんけど。 (2006年02月19日 17時53分12秒) |
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