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カテゴリ:探訪 [再録]
前回ご紹介した「地蔵院」から200mほど南に行くと、「葉室山淨住寺」です。ここも道路から東に奥まったところに白い築地塀が見えます。 淨住寺は資料によると、3つの時期を経ています。 第1は「常住寺」と称された時期です。天台宗の慈覚円仁を開山とし810年に開創された嵯峨天皇の勅願寺だったと伝えられているのす。「寺伝では常住寺旧跡・嵯峨天皇仏舎利安置所」となっているそうです。(資料1) 第2は、公家・葉室定嗣が西大寺の興正菩薩叡尊を請じて開山とし、「淨住寺」を中興した時期です。弘長元年(1261)に葉室中納言定嗣は出家して常然入道と称した後、弘長年間(1261-64)に山荘を改めて寺とし、葉室家の菩提寺としたそうです。「浄住寺伽藍図」が残されていて、律宗の有力な寺院となっていたのです。この伽藍図は元弘3年(1333)作と伝わるようですが、江戸時代に写されたものと思えるとのこと。しかし、南北朝時代の始まりとなる元弘の変により、1333年の戦いで淨住寺は兵火により焼亡し、衰微します。そして、1567年に炎上したとか。(駒札、資料1,2) 第3は、貞亨4年(1687)に葉室頼孝が黄檗宗の僧鐵牛道機を再興開山に請じて、寺の再興をはかったのです。元禄2年(1689)に頼孝の子、孝重の援助で伽藍の整備が成ったという説もありるそうです。当時は、「寿塔、開山堂、祠堂、佛殿、天王殿、大門、東方丈、西方丈、寶蔵、斎堂、鐘楼、鼓堂、庫裡等」が整備され、黄檗宗の有力寺院となっていたそうです。鐵牛道機は黄檗宗の開祖・隠元隆琦禅師(諡号は数多いので省略)の弟子で、諡号を大慈普応国師と称します。(資料1,2) 現在は、堂宇が一部残るだけです。 道路から参道を進むと奧まったところに、石柱二本だけが立つ山門があります。 門を入ると、参道の先に石段が続きます。その正面に本堂が見えます。 現在はこの参道の左(南)側に、石段を上らずにアプローチできる道も見受けられています。 途中、参道の右、広い境内の一隅に石碑が目にとまりました。2010年、三百九回忌の折りに建立された開山鐵牛道機遺偈の碑です。 「明明歴々 歴々明明 此是何物 廻説死生」 脇道ですが、我が地元・宇治にある黄檗宗萬福寺境内所在の塔頭・長松院にも、鐵牛道機の遺偈碑が建立されていることを調べていて知りました。(資料4) 現在の本堂です。黄檗様の丸窓が建物正面の両側に見えます。本堂の屋根には鯱が置かれています。 さらに近づくと、鐵牛禅師筆の扁額「祝国」が掲げられています。 この建物はもと開山堂だったもので、現在は本堂兼禅堂として使われています。 現本堂の後に、開山堂(もとの祠堂の一部)、寿塔・宝蔵が続きます。 寿塔・開山堂・祠堂・本堂兼禅堂の建物は京都市の指定有形文化財となっています。 ここまでの写真でおわかりのように、正面の門、それに続く参道、本堂、開山堂、寿塔が直線的配置となっています。これは中国の黄檗宗寺院の典型的様相を表しているといいます。(資料1,3) 本堂・開山堂はその墨書から、松尾社の宮大工・河原家の河原清貞が建てた建物なのだとか。本堂の棹縁天井には、黄檗様と和様が混在するという特徴を持っているのです。(資料2) 本堂の前を、右折して北方向に進み、まずは本堂の北側にある「方丈」を拝見しました。 この方丈は、もとは「東方丈」と称されていたもので、少し長さ方向を縮小し、現在の方丈として残っているそうです。仙台藩伊達家の伊達綱村が鐵牛禅師に帰依していたため、淨住寺に寄進した建物(綱村の遺館)なのです。仙台から江戸を経てこの地に移したと伝わるようです。内部は十二畳と十五畳、上段の間があります。床・違棚がつけられていて、「武者隠し」もあります。江戸時代の武家屋敷の遺構でもあります。 方丈庭園 方丈の傍に置かれた手水鉢(水盤) 方丈の廻縁 ちょっと珍しのは宝篋印塔の笠部分の用材を転用した手水鉢が置かれていることです。 上部が苔蒸しているのがまた、風趣を加えています。 方丈側から本堂への廊下 廊下には萬福寺でみた魚鼓(ぎょく:魚板)ではなく、鋳造製の雲版(うんばん)が吊されています。これも禅宗の法具で、輪部が雲形に形どるところからこの名がついたもの。寝起き、食事や坐禅の合図などの告知をするときにならすものです。(資料5) 本堂内部の須弥壇には本尊釈迦如来坐像が、脇壇には阿弥陀如来立像(鎌倉)、葉室頼孝像などが、それぞれ安置されています。また内部両側には板敷の床が設けられており修行の場を兼ねていることがわかります。 後の開山堂には鐵牛禅師像が安置されています。寿塔には、鐵牛禅師の遺骸が葬られています。 本堂の外に出て、本堂側壁をめぐり石段を上がると、大きな亀趺(きふ)が建立されています。ここに上がったのは、寿塔を外側から拝見するためです。 寿塔は方二間、宝形造の小規模なものです。元禄10年に造営されたものだといいます。(説明板より) 寿塔にも丸窓が設えてあります。 境内の一隅には、石仏が数多く安置されています。 「葉室氏は藤原北家冬嗣の孫高藤の後裔で、12世紀に光頼が当地を山荘としたことから葉室を名乗った。後に九条家の家礼となる」(資料2)そうです。 浄住寺は西京区山田開キ町にあり、その東隣が山田葉室町です。葉室は今はこの地名にその名を残すだけとなっていますが、むかしは桂川から西方一帯を葉室と称したようです。江戸時代後期に、歌人千種有功(ちぐさありこと)が次の歌を詠んでいるとか。(資料3) 梅津より舟さしよせて呉竹の葉室の里の夏を訪はばや 千々迺家集・夏 浄住寺の門前の台地上(山田葉室町)には、かつては穀塚(こくづか)古墳があったところだそうです。「全長40.5mの前方後円墳で幅約4.5mの周濠をもつ。主体部は竪穴式石室(5.4×2.7m)が後円部の上部にあり、その下部には粘土槨(長さ約3.6m)が確認された」という規模の古墳です。(資料2) 一方、門前の道を南に行くと、山田上の町です。このあたりから山田古墳群があったところです。上ノ山古墳、清水塚古墳、天鼓の森古墳などが散在していたそうです。 道沿いに「葉室家墓地」の一画があります。ただし、近世の人々の墓ばかりで、葉室光頼・光俊・定嗣らの墓はここには見あたらないといいます。 次の歌が詠まれています。(資料3) 世を逃れて葉室といふ山里に籠りいて侍りけるに、花を見てよみ侍りける いさや猶花にも染めじわが心さても憂き世に帰りもぞする 前大納言光頼 新勅撰集・巻16・雑歌一 世をそむきて西山なる所に住み侍りける頃、春の歌の中に われ住まで花の都の春霞やどせば早くへだたりにけり 光俊朝臣 玉葉集・巻14・雑歌一 この山の麓にぞみる呉竹の葉室の里の世々の面影 光俊朝臣 宝治百首 この背後のところが、現在「上ノ山古墳」として保存されています。 径10mの円墳で、古墳時代後期の造立と推定されえいる古墳遺跡です。 天鼓の森古墳は、『都名所図会』に「天鼓の森(下山田の東にして小社あり。由来未考)として名前を残すところです。現在、桂中学校となっているあたりです。こちらは全長80mほどの前方後円墳があった跡だそうです。 今回の史跡探訪は、桂中学校を遠方に眺めかつての古墳地を知識にとどめて、「山田岐れ」を通り、阪急電車嵐山線の「上桂駅」にて解散となりました。 地蔵院~浄住寺~山田葉室町・山田上ノ町~上桂駅 この辺りの地図(Mapion)はこちらをご覧ください。 これで今回のご紹介を終わります。ご一読ありがとうございます。 参照資料 1) 「葉室山淨住寺」 当日お寺にていただいた案内説明文 2) 「京都の古寺社を巡る29 ~松尾大社~」龍谷大学REC講座 当日配布資料 (作成 龍谷大学非常勤講師 松波宏隆氏) 3) 『昭和京都圖會 洛西』 竹村俊則著 駸々堂 p367-370 4) 長松院 [萬福寺](宇治市) :「京都風光」 5) 『図説 歴史散歩事典』 井上光貞監修 山川出版社 p378 【 付記 】 「遊心六中記」と題しブログを開設していた「eo blog」が2017.3.31で終了しました。 ある日、ある場所を探訪したときの記録です。私の記憶の引き出しを維持したいという目的でこちらに適宜再録を続けています。 再録を兼ねた探訪記等のご紹介です。再読して適宜修正加筆、再編集も加えています。 少しはお役に立つかも・・・・・。他の記録もご一読いただけるとうれしいです。 補遺 鉄牛道機 :「コトバンク」 黄檗鉄牛 :「コトバンク」 名家 葉室家 :「公卿類別譜~公家の歴史~」 浄住寺 :ウィキペディア 京都洛西山田浄住寺境内絵図の現地比定について 松尾剛次・阿子島功共著 論文 狩野安信筆「鐵牛道機像」(仙台市・大年寺蔵) -像主についての疑問、安信と黄檗宗のかかわり 門脇むつみ氏 論文 黄檗宗僧侶名鑑 黄檗宗資料集 :「黄檗宗・慧日山永明寺HP」 穀塚古墳 :「遺跡ウォーカーβ」 天鼓の森 :「京都市立桂中学校」 天鼓の森 :「遺跡ウォーカーβ」 京都紹介・・・西京区山田地区にある古墳 :「好奇心京都」 ネットに情報を掲載された皆様に感謝! (情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。 その点、ご寛恕ください。) 探訪 [再録] 京都・洛西 松尾大社とその周辺 -1 松尾大社(1):楼門、本殿、神輿庫、南末社ほか へ 探訪 [再録] 京都・洛西 松尾大社とその周辺 -2 松尾大社(2):亀の井・曲水の庭・上古の庭・神像館ほか へ 探訪 [再録] 京都・洛西 松尾大社とその周辺 -3 月読神社・最福寺(延朗堂)・地蔵院ほか へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.10.25 15:10:17
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