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遊心六中記

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2018.01.21
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カテゴリ:観照 [再録]
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これは宇治市の隣、京都市の下水道のふた、汚水ふただと思います。宇治市を含め、多くのところでは「おすい」という文字がふたに陽刻されています。私がウィッチングした範囲では、その文字入りのふたを見つけてはいません。

上掲の画像と少し違うバージョンのふたもあります。

これがそうです。どちらが先なのか・・・・、分かりませんが。
 
ふたの中央にあるのが、京都市の「略章」なのです。「京」の字を図案化したものと言います。これはもともと明治24年(1891)10月2日に制定された「京都市き章」がそのルーツなのです。(資料1)
そのまわりにある意匠は「御所車」の車輪だと判断します
 
というのは、昭和35年(1960)1月1日に制定された京都市の「紋章」がこれなのです。ホームページからの引用です。京都市に生まれ育って成人後に宇治市に転居したのですが、この紋章を見た記憶がありません。認識すらしていないというところでした。今回初めて意識した次第です。
ホームページには、「『京』の字を図案化したものに御所車を配し、金色と古都を象徴する紫の2色を用いています(資料1)と説明されています。

汚水ふたには図案化されていませんが、京都市の花・木は昭和47(1972)に選ばれています。序でにご紹介します。
  京の花  ツツジ、ツバキ、サトザクラ
  京の木  シダレヤナギ、タカオカエデ、カツラ  です。 (資料2)

車輪を見れば、千年の古都-平安京、つまり京都が即座に連想されますね。そういう意味で、この象徴性はわかりやすい気がします。
京都-車輪(?)-平安京(平安時代)-御所-御所車ということでイメージが湧くのではないでしょうか。

さて、手許にある『日本語大辞典』(講談社)を引くと「御所車」の項でこう説明されています。
「(源氏物語を題材にした絵によく登場することから「源氏車」とも)屋形のある車。昔、貴人が乗った牛車(ぎっしゃ)の俗称。」
そして、「牛車」の項には、「平安時代、牛にひかせた、貴人の乗用の車。乗る人の身分によって種類が異なった。唐庇車(からびさしのくるま)、檳榔毛車(びろうげのくるま)、糸毛車(いとげのくるま)、網代車(あじろぐるま)など。ぎゅうしゃ」とあり、牛車が網代車で各部名称の図解が載せてあります。

手許の『広辞苑』(第一版、岩波書店)には、御所車という項はなく、「牛車」の項は次のように説明します。「平安時代、貴人乗用の牛にひかせた屋形車。乗者の資格によってその製作に種類が多い。唐庇(からびさし)車・檳榔毛(びろうげ)車・糸毛(いとげ)車・網代(あじろ)車・御所車などの類。金銀の装飾を施し、華美を競うに至った。うしぐるま。御所車」。ここにも、種類の明記はありませんが、牛車の図解を掲載されています。この説明では、御所車が製作の種類の一つであるとともに、総称あるいは通称としても使われるということになるようです。
また、手許の『大辞林』(三省堂)にも、御所車の項はなく、「牛車」の項は「主に平安時代、牛にひかせた貴人乗用の車。屋形の部分に豪華な装飾を凝らしたものが多く、唐庇(からびさし)の車・糸毛の車・檳榔毛(びろうげ)の車・網代(あじろ)の車・八葉の車などがあり、位階や公用・私用の別によって乗る車の種類が定められていた。うしぐるま。ぎゅうしゃ」。ここにも牛車の図解が載っていますがその種類は記載がありません。この辞書では「御所車」という名称自体の記載もありません。
辞書の説明を対比的に列挙したのは、一辞書だけの確認と違って、その説明のしかたの微妙な差異から、色々なことを学べ、さらなる疑問・関心が生まれるというおもしろみがあることです。

 
ふたの車輪の図案に着目してみます。一つを切り出してみました。

ミニチュアで再現された牛車(御所車)の車輪を切り出しました。
これはJR京都駅前に近いところにある「風俗博物館」での企画展示を鑑賞に行った時に撮ったもの(2012.9.14)です。(資料3)

 

こちらは、「宇治市源氏物語ミュージアム」の企画展で入手したリーフレットにたまたま掲載されていて、有益な車輪のイラスト図解から切り出して引用しました。(資料4)

ふたの車輪は左右対称に図案化され、輪(わ)が8つのパーツにしてありますが、実際の輪(わ)は7つのパーツからできていたようです。車輪中心部は車輪を真上から見ると同心円ですが、車輪の写真、イラスト図にみるようにコシキと呼ばれる出っ張り部分があるのですね。
この牛車全体の構造と名称はこちらの図解を見てください。
 

「半蔀車(はじとみぐるま)」で図解説明がされています。

人が乗る部分が「屋形」、その下に車輪があり、2本の長い轅(ながえ)と呼ばれる木の棒が突き出ていて、その先端部には、牛が繋がれる軛(くびき)という横木が付いています。軛の下に描かれているのは、写真では文字が切れていますが、榻(しじ)という四脚の台で、屋形への出入りに使う踏み台です。このイラスト図と以下の画像を対比しながらご覧いただくと、わかりやすくなるかもしれません。

宇治市源氏物語ミュージアムの平常展示室には、入口を入ったすぐ左側に、この実物大の牛車(御所車)が再現されています(2013.5.16)。ここなら、ゆっくり牛車を観察することができますよ。(ちょっと、地元のPR・・・・です。)

「風俗博物館」の2012年秋の企画展では、牛車のいくつかの種類が展示されていました。
以下、風俗博物館で購入した本を参照して、ご紹介します。(資料5)

これが車輪を切り出した「唐車(からぐるま)」の「檳榔毛車」です。屋根が唐破風であり、檳榔樹の葉で葺かれ、これは廂と腰にもこの葉が使われてるというもので、大型の牛車です。
この「唐車」は上皇・皇后・東宮(とうぐう)・親王、または摂関などが用いたそうです。さしずめ摂関政治を行った藤原道長などはこの牛車に乗ったのでしょう。
 
 「糸毛車」
これは絹の縒糸(よりいと)で屋形全体を覆い、その上から金銀の窠文(すもん)を飾った車。内親王、三位以上の内命婦(うちのみょうぶ)など位の高い女性が用いることができたとか。東宮が使用することもあったといいます。
 
                              「八葉車(はちようぐるま)

網代車(あじろぐるま)」の屋形や袖に八つの葉の装飾文様が施されていますので、八葉車と称したようです。八曜とも称するとか。
屋形そのものは檜の薄くて細い板を交差させながら編んでいるのです。つまり「網代」です。
この八葉文が大きいものが大八葉車と称され、親王や公卿、高位の僧が用いたそうです。官位相当表を参照しますと、公卿というのは、中納言(従三位)以上太政大臣(正・従一位)をさす言葉です。
また、文様の小さいものが小八葉車と称され、少納言・外記(げき)などの中流貴族、女房などが乗車したそうです。
屋形に付いている物見窓が引戸が普通の網代車のようですが、これが上に押し上げる半蔀(はじとみ)の形式になっているのが「半蔀車(はじとみぐるま)」です。上皇・親王・摂関、大臣のほか、高僧や女房が用いることもある種類です。
さしずめ、紫式部や清少納言などの女房は、小八葉車や半蔀車という網代車を利用したのでしょうね。また慈円や法然などは大八葉車や半蔀車を利用したのでしょうか。


前の牛車は上掲の八葉車ですが、その向こうにある牛車は「檳榔毛車」です。(2014.10.7)

説明パネルが傍に置かれていました。このときの企画展では、舞姫たちが内裏に向かうときに、舞姫・童女(わらわ)が檳榔毛車に乗り、下仕(しもづかえ)が網代車に乗ったと付記されています。

牛車と言えば、まず想起される有名な話が『源氏物語』第九帖・「葵」の「新斎院御禊の見物」に出てくる「車争い」の場面です。(資料6)
一例として狩野山楽筆「車争い図屏風」(四曲一隻、東京国立博物館蔵)をこちらからご覧ください。

また、​「源氏物語車争図屏風複製(部分)」(京都市平安京創生館)はこちらからご覧ください。

牛車が平安時代の遺物でおしまいになったのか?
答えはNO!だと私は思っています。

牛車の車輪は、京都の伝統行事である祇園祭の山鉾巡行のあの車輪に継承されています。この景色は、函谷鉾が四条河原町で辻回しをするときの場面です(2014.7.17)。鉾の車輪です。この画像では小さくてわかりづらいでしょう。
こちらでは、如何ですか?

巡行を終えた菊水鉾の解体作業の過程を見物した折に撮ったものです。(2014.7.17)
車輪の輪は7つのパーツとなっています。コシキと軸(よこがみ)もイラスト図と同じです。
 
長刀鉾の車輪(2014.7.17)です。どの位置の車輪かわかるように「北東」という文字を記したラベルが付けられています。

こちらは少し古いですが、2005.7.17の巡行後の解体作業中の岩戸山の車輪がトラックに積まれるところです。岩戸山は鉾町内ではなくて円山公園に建てられた「祇園祭山鉾館」の収蔵庫に保管されているのです。(何度も前を通っていますが、今手許に写真がありません。補遺で、あるブログ記事をご紹介します。)

         

もう一つ、忘れてならないのが、「蟷螂山」です。
 
                  祇園祭の宵山で撮った蟷螂山(2012.7.16)です

                    こちらは2014年の祇園祭宵山で撮ったものです。
幕末の元治の大火(1864)で蟷螂山はその大部分を焼失。それが昭和56年(1981)に117年ぶりに再興されたのです。この御所車は屋根が唐破風なので「唐車」の形式です。屋根の上に乗ったかまきり(蟷螂)とこの御所車の車輪がうごくというからくりしかけになっています。(資料7)

もう一つ、京都三大祭の幕開けである5月15日の「葵祭」の行列に牛4頭、牛車が2台加わっています(資料8)
また、10月の時代祭においても、「豊公参朝列」として、牛車が登場します。征夷大将軍にはなれない秀吉が関白太政大臣となった折は、朝廷との関わりにおいては、やはり牛車を使ったことでしょう。また、「豊公の参朝のうち慶長元年五月秀頼初参内、同2年9月元服の時などは最も盛んであったと伝えられます。」(資料9)

牛車の車輪、御所車は今も尚、京都の行事と結びつき現役として継承されているのです
車輪の図案から、話が波紋を広げました。

京都市の上掲の汚水ふたと同じ線上に、あるいは異なる道路上で、次のデザインのふたもあります。
 
 

たぶん、これらも下水道流路の汚水ふただろうと推測します。
設置年代差がどうなのかなどは不詳ですが、京都市の汚水ふたにも変遷があるようです。やはり、その都市の顔や姿が浮かぶようなデザインのものが、楽しいですね。

「京都の花」に選ばれているもの
  ツツジ といえば、やはり蹴上浄水場
  ツバキ といえば、高桐院の雪中花、龍安寺の侘助椿、等持院の有楽椿
       妙蓮寺椿、宝鏡寺の椿、椿寺(地蔵院)、花尻の森、城南宮など
  サトザクラ といえば 京都御苑、京都府立植物園 を連想します。
      勿論、桜の名所は各所に散在。

「京都の木」に選ばれたシダレヤナギについては、先日偶然にも、高瀬川沿いの木屋町通り、三条小橋に比較的近いところで、
 この銘板を見つけました(2015.8.26)。


シダレヤナギについてのエピソードが記されています。東京銀座から里帰りしたシダレヤナギについてのお話です。
知らなかったのですが、「銀座のヤナギ」の親は、京都の頂法寺・六角堂の六角柳と言われているそうです。
  タカオカエデ といえば、高雄三尾めぐりが観光スポットのようです。
    高尾山神護寺、槇尾山西明寺、栂尾山高山寺、と併せて 平岡八幡宮
  カツラ といえば、三鈷寺の「西山上人逆さ杖の桂の木」 何と樹齢800年とか。
    貴船神社のカツラはご神木 こちらは樹齢400年だとか。

このあたりで、一区切りと致します。ご一読ありがとうございます。

参照資料
1) ​京都市のあらまし(紋章)​  :「京都市情報館」
2) ​京都市のあらまし(花・木)​  :「京都市情報館」
3) ​風俗博物館​ ホームページ
4) ​宇治市源氏物語ミュージアム
5) 『源氏物語と京都 六條院へ出かけよう』 監修・五島邦治 編集・風俗博物館
6) ​第九帖 葵 源氏物語​ :「源氏物語の世界 再編集版」
7) ​蟷螂山​  山鉾について :「祇園祭」(祇園祭山鉾連合会)
8)​葵祭 雅な伝統行事を次の世に・・・・​ 小西伸夫氏 :「京都市文化観光資源保護財団」
9) ​時代祭 10月22日​  :「京都市観光協会」

【 付記 】 
「遊心六中記」と題しブログを開設していた「eo blog」が2017.3.31で終了しました。
ある日、ある場所を探訪したときの記録です。私の記憶の引き出しを維持したいという目的でこちらに適宜再録を続けています。
再録を兼ねた探訪記等のご紹介です。再読して適宜修正加筆、再編集も加えています。
少しはお役に立つかも・・・・・。他の記録もご一読いただけるとうれしいです。

補遺
祇園祭と八坂神社・8 山鉾館​ :「dragon-tail」
葵祭​ :「京都市観光協会」
京都三大祭 時代祭​  :「平安神宮」(ホームページ)
時代祭について​  :「京都市観光協会」
サトザクラ(里桜)​ :「かぎけん」(科学技術研究所)
京都府の桜名所​   :「全国お花見1000景」
関西の椿の名所​   :「花の名所一覧表」
京都のツバキ​ :「四季折々」
西山 三鈷寺​ :「数珠巡礼」
貴船神社のカツラ​  :「日本ご神木巡礼」
貴船神社​ ホームページ

   ネットに情報を掲載された皆様に感謝!

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

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Last updated  2018.09.13 18:58:15
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