2011/11/05(土)11:21
イシのヒト■第5回
■イシのヒト■第5回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com
山田企画事務所
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第5回
巡礼ポレフは、トゥーンから遠くはなれたハル星系のゲルダ星から来ていた。この星にくるまで、「石の男」の所樹里に来るまで、どれくらいの金銀をためただろう。ポレフは、生まれてこの方、この星にくるためのみに金をためていたのかもしれない。星間船の乗船賃はこのころでも安くはなかった。一般庶民の手におえるものではなかった。
そんな思いをしてたどり着いたこの星で、巡礼のポレフはあり得ざるものを見た。それをみつけた。
「信じられない。こんなことがあってもいいのか」石の男を信仰の対象としてき
たポレフにとってまさに晴天の霹靂だった。
石の男のまなじりがひかっているのだ。
「見てみろ、石の男が泣いている」
同時に各地の巡礼たちから驚きの声があがっていた。
祭司アルクも石の男が涙を流すのを眺めていた。
アルクは今日は非番だった。
祭司のアルクは、典型的な樹里の男の顔をしていた。鼻梁は高く、ほりの深いかおだちだった。まるで哲学者の顔だった。髪は黒で、祭司にきめられた通り短く切り揃えていた。
目はマリーンブルーだった。
すんだ目で遠くを見ているようだった。身長180CM。
やせ型だった。適度の筋肉がついていて、動きは軽やかだった。
「ねえ、おとうさん、石の男はなんてかわいそうな顔をして入るの」
アルクのかたわらにいたミニヨンがいった。
ミニヨンはアルクの自慢の娘だった。長い金髪は豊饒を思わせ、いままさに少女から、娘に移行する女のあやうさを見る者にかんじさせる。母ドルミはしばらく前に、はやり病でなくなっていた。
父と娘は同じような白い絹のチュニックを着ていた。祭司とその家族にゆるされている服装である。
『娘よ、私の悲しみがわかるのかね』
ミニヨンの心底に声が響いた。
心底とは、精神の内部、心の内部をいう。
「えっ、いったいあなたはだれ、私の心理バリアーを容易に破れるわけはないわ」
祭司の一族は特に心理バリアーが強固だといわれている。他人に自分の心のうちを読まれないようにしている。
『私にとっては容易な事だ』
私に話し掛けてくる男はだれなのだろう。
特殊な能力をもつ外惑星にいる人間か、ミニヨンは、たずねながらまわりを見渡す。
「あなたは、どこにいるの」
『君の目の前だ』
ミニヨンはまわりをみわたすが、巡礼の人ばかりで、それらしき人はみえない。どの人も優れた能力をもつ巡礼とは見えない。
「いったい、あなたは」
『私は石の男だ』
驚きがミニヨンの心に走った。
「えっ、石の男ですって、信じられない」
『事実、君に話し掛けているだろう。君はなんという名前なのだ』
「私はミニヨンよ」
ミニヨンは思わず自分の名前を答えていた。なぜなんだろう。この気持ちは。
『そうか、ミニヨンよ、私の心底にこい』
心底ですって、ばかなことはいわないで、
何故、あなたの心底に。大体、石の男に心底なんてあるのかしら。
ここ樹里の人々は訓練すれば、他人の心底にいく事ができる。もぐりこんだ本人の心は「分心」となり、その場所、「心底」にいる。その場所で、分心は本人と同じようにものを見、言葉を発するのだ。
しかし、その分心が、他人の心底にいっている間、分心の本体は何も見えず。考えずその場所にいる。この体は幽体と呼ばれる。
『君はアルナににているな』
「アルナって」
『私の古い知り合いだ。君が私の心底にくるのがいやなら、私からいこう』
「何ですって」
(続く)
SF小説■イシのヒト■(1989年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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