イシのヒト■第17回
イシのヒト■第17回作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.comイシのヒト■第17回■ 第4章 ミニヨン石の壁から,石の男が消えてしまった。巡礼たちが騒ぎだす。巡礼の目の前で信仰の対象だった石の男が消え去った。 ガントはおおあわてだ。彼ら光二とアルクが石の男の心にはいってだいぶの時間がすぎていた。間違いだった、彼らをいかすのではなかった。反省していた、これで、私もアルクと同じように、ああ、いやだ、かんがえただけでも恐ろしい。あの儀式、それに妻のモリはどうなるのだ、家族は、私の店は、私の美しい着物は。 樹里の祭司たちは大騒ぎだ。その石の壁の前でガントが棒立ちしている姿が際立っていた。「ガント、何がおこったんだ」祭司長マニだった。ガントは祭司長マニの驚きに答えて、つい本当の事を告げてしまう。「祭司長さまお許しください。実はアルクがもどってきていたのです」「なんだと、アルクが」「アルクが一人の若者ともどってきたのです」「それで」「石の男の心に沈んだようです」「おまえはそれをとめなかったのか」「とめようがなかったのです。それにアルクは、この若者が聖砲をもっているといったのです。これがすべてを解決すると」「何、聖砲だと、本当にそういったのだな、ガント」「そ、そうです」ガントは祭司長の顔が一瞬変わったのを見た。祭司長はひとりごちた。「時が満ちたのかもしれん」何の前触れもなく、男たちと女がかえってきた。巡礼たちが声をあげた。信仰の対象である「石の男」が消えたことは、この世界の消滅を意味するのかもしれなかった。そして、続いて男たちが出現したのだ。 時代が変化しつつあるという実感が巡礼たちの心に芽生えていた。その恐怖が人々の心に伝染していく。「よく、帰ってきた、アルク」マニは両手をアルクの両肩においた。「それでは、通信機の声はあなただったのですか」「そうだ、だれかが、この世界からでていって、聖砲をもって帰ってくることは石の壁に書かれていた。石の壁の文字を読めるのは私だけだったのだ」やがて祭司長マニは決心したようだった。「アルク、もう我々は後戻りできん。君はこの若者の導師となり、すべての出来事を掌れ。我々は手助けをしょう。石の男が消滅した以上、石の壁を復興させなければならん。そのためには北の詩人が必要だ」「北の詩人はどうやら、私達のいた世界にいるようよ」ミニヨンが光二に告げる。「俺のいた世界だって」「そう、おまけにVグループが秘密をにぎっているようね」ミニヨンは皆が驚いているのにもかかわらず、次々と事実を述べていく。「アルク、ミニヨンはどうしたのだ」マニが不思議なものを見るように訪ねた。「彼女は変身したといっているのです」「この中では、私が一番、石の民に近いところにいるわ」ミニヨンが皆を無視してしゃべり続ける。「マニさま、お許しください。どうも、もとのミニヨンにはなかなか戻りそうもありません」アルクは冷や汗をかいている。「いや、北の詩人の事を彼女は知っていた。北の詩人も石の壁に書かれていた」マニはしばらく考えている。「若者よ」マニは言う。「俺は光二という」「光二、君はフッコウドームにもどって貰おう。むろん、ミニヨンと一緒に」マニは言った。「マニ、すでに彼女はミニヨンではありません。別の存在です」アルクは言った。「それに、俺の姉さん有沙の記憶ももっているんだ」光二はいった。「どう呼べば良いのかね、君」マニが言った。「ミニヨンAとでも呼んでください」ミニヨンの顔をした女がいった。「さあ、わかった。君たちは早くフッコウドームとやらへ行け。『北の詩人』を必ず手に入れろ。世界はせれにかかっている」そのあとアルクの方を向く。「予定が変わった。アルク、君はここに残るのだ」「なぜです、マニ」「君には石の男の心の中で何がおこったのか説明してもらおう」「なぜ、私が」「ほら、この巡礼たちに説明してやろう、そうしなければ、皆が不安だろうて」「それに私もです」真っ青な顔のガントだった。「でも、Vグループと戦うのだろう」光二はかたわらにいるミニヨンAを見た。「君がミニヨンAの事を心配するのはわかる。が一緒にいきたまえ」マニが命令した。「そう、私には力がある」ミニヨンAは、光二に向かっていった。確かに石の男を消滅させたのも、聖砲の使い方を知っていたにも、このミニヨンAだった。くそ、今度はいいところをみせねば、光二はあせっていた。「いい、光二、北の詩人は大吾の石棺のなかよ」「なぜ、それが、あんたにわかるんだ」「いったでしょ、私は一番石の民に近いのだって」ミニヨンは当然の事のようにいう。「大吾って」「ワンダリングキッズよ。石棺をかついでいるから、見ればすぐわかるでしょう」「よし、まかせておきな」光二は空元気を出していた。 光二とミニヨンAは消えた。 二人が消えたあと、マニはアルクに言った。「アルク、死んでくれるかね。世界のために」「何ですって」「我々は皆滅ぶ。我々は滅ぶが、新世界で再生できる」アルクは言葉もなかった。「総てはあの石の壁に書かれているのだ。だから、アルクよ、君はこの石の壁に書かれている様に、動いてくれ」(続く)SF小説■イシのヒト■(1989年作品)作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com