あやしいふるほんやさん:アジアの迷宮

2007/02/23(金)15:29

阿修羅王の面影~東京都美術館・五美大の卒展から

日本の美術館(34)

光瀬龍の小説「百億の昼と千億の夜」が大好きでした。 創刊して間もないSFマガジンに、日本人作家として初連載した小松左京の力作「果てしなき流れの果てに」が完結・終了して、続いての登場が当時日本人作家として彼と本格SF人気を二分していた光瀬龍作品の斬新なスタイルの長編「百億の昼と千億の夜」でした。 よせては返し。 よせては返し。 返してはよせる波のくりかえし、を描写して時間の永遠性と宇宙の無辺を暗示する有名なプロローグ。 ★地球の屋根と言われるヒマラヤを思わせる人跡未踏の高所に、古生代から変わらぬ姿をしたシーラカンスが浮遊します。エベレストの地層から貝殻や魚たちの化石が見つかることからも知られるように、ヒマラヤ山脈もそんなに遠くない昔に海の底だったという事実の不可思議。 ★東京都美術館・五美大展より(撮影2007年2月21日) 現在はアニメやマンガでもアタリマエのような設定ですが、 オリエンタルな仏教宇宙観と設定を、世界で初めてSF小説に本格的な骨格として取り込んで、弥勒菩薩から阿修羅王、などの神々や仏たちの超絶の存在を、専門用語を自在に駆使して入り乱れる魅力的なキャラクターとして導入。悠久の宇宙全体の滅びの美学を織り込んでの神々の戦いを華麗に展開させ、学生だったはるるさんの心を見事に奪いました。 どのくらい高校生のおいらが夢中になったかというと、SFマガジンに「百億の昼と千億の夜」が連載中に・・。 その頃はまだ専業作家でなくって高校の教師もしていた光瀬龍さんの、赤羽台団地にあるご自宅に押しかけ、半日も居座って東キャナル・シティの配置を手書き地図で説明していただいたり、小説作法の内幕などを教えてもらった上に、夕食のお寿司までご馳走になったほど。 当時ひんぱんに文通したりSF同人誌(ファンの出版するマガジンという意味で仲間内では「ファンジン」と呼んでいた)などでつきあってた東京近辺に住んでる学生のSF仲間も同行してくれたので、可能だったこと。 SFという言葉がSMと間違われたり、筒井康隆や半村良などが新人デビューしたばかりの、日本SFの夜明けの時代だったからこそ、第一線SF作家が気軽にファンとおしゃべりしてくれたんです。 道玄坂にあった喫茶店「カスミ」でのファンたちの会合には、現役作家やイラストレイターなども気軽に顔を出し、ひんぱんな交流があった頃は、マイナーなSFというジャンルの蜜月時代だったんですね、あとから振り返ってみれば。 のちに萩尾望都の手でコミック化され、一部のSFファンによる評判だけでなく、ポピュラーなものになりましたから、「あしゅらおう」という魅力的な主人公を、ご記憶のひとも多いでしょう。 三面六臂の異形の神ながら、その中性的な美しさを秘めて根強い人気を持つ奈良・興福寺の国宝「阿修羅像」に、おいらが惚れたのもこの小説のおかげ。笑 この21日にムスメとふたりで行って来た東京五美術大学連合卒業・修了制作展 ★ その会場で・・・現代風ながら、なつかしい阿修羅をイメージさせる絵画や彫刻を何点か見つけましたので紹介させていただきます。 ★三面十臂は西洋の古典の神々を思わせるスタイルの中で、東洋の顔をしたキメラのような存在の日本民族そのもの、の「ぬえ」にも似た姿でしょうか。 ★東京都美術館・五美大展より ★「百億の昼と千億の夜」も、フレドリック・ブラウンの「フェッセンデンの宇宙」のような閉じた宇宙とその向こう側の物語でしたが、このうつくしい絵もそれと同質な無辺際の広がりと閉塞した闇を感覚させます。 ★東京都美術館・五美大展より ★現代の千手観音は、ちょっと途方にくれたような困った顔をしていますが、その情けない表情のわりには沢山の文明の利器を手にしていて、何にでも手が届きそうです。 どんなに世の中が便利になっても、本質的な人間には限りない欲望があって、そういった欲望の渇きは決して尽きることがないものだと知っていて、諦めにも近い境地。 ★東京都美術館・五美大展より ★この古代アジアの歴史や宗教世界に深く憧憬する「百億の昼と千億の夜」が連載されていた当時、日本は共産主義国の中国とは国交がありませんでした。毛沢東の大乱心が引き起こした国家全体の大混乱事件、あの文化大革命の直前のこと。この絵画に見られる中国奥地の客家の大集合住宅など、伝説のシルクロードのまぼろしの彼方の風景だったのです。今では、普通にバックパッカーが世界の至る所を旅していますが。 ★東京都美術館・五美大展より ★三面ではありませんが六臂の木彫の像です。奈良・興福寺の阿修羅像はシンメトリーな様式美を追求していますが、こちらはあえて非対称。それぞれの腕も自然に躍動して、静謐なたたずまいの中で、必死に何かを訴えて来ました。。。アタマに比較すると、その腕や手のひらに、強力な主張があって、強い存在感を持っています。プロポーションは決してばら色の未来なんかじゃなかった21世紀の日本人そのもので、表情にもうすっぺらな現代日常世界の危うさがどことなく。。 ★東京都美術館・五美大展より 開催中! 2007東京五美術大学連合卒業・修了制作展 ★ ●会期:19年2月21日(水)~26日(月)   9:00~17:00(入場は16:00まで)   最終日は9:00~13:45(入場は12:45まで) ●会場:東京都美術館(台東区上野公園内) ●入場無料で、2階から地下の会場まで、すべて鑑賞できます♪ 内容は、タイトル通りに東京を代表する5つの美術大学の美術系学科(武蔵野美術大学、多摩美術大学、女子美術大学、東京造形大学、日本大学芸術学部)が参加する豪華な卒業・修了制作展。 美大の学生にとっては、一般の大学での卒論の発表会みたいなもので、学園祭と似て非なるものですが、展覧会場での写真撮影は問題なくOK!です。 はるるさんたち親娘は、同時に東京都美術館内で開催されているオルセー美術館展の40分待ちのとか係員が叫んでる長蛇の列を横目に、すいすいと五美大展に入場。 たっぷりとゆとりのあるスペースで、3時間ほどかけて堪能させていただきました。 お昼は、ムスメのリクエストでとなりの上野動物園のレストラン。 他にも国立博物館には、精養軒のレストランもあるし、もっとお洒落な都内一流ホテル直営のレストランも正倉院宝物館のほうで千円のランチやってる。 国立近代美術館や、科学博物館、それに文化会館の「響き」も、好きなレストラン選り取り。笑 でも、パンダやぞうさん見物付きの魅力には勝てないようで・・。汗 【はるるが過去に書いたアート関係日記(の、一部)紹介】     ↓  ↓ 映像】森の青空図書館~妻有アート2006 映像】家族で宇都宮美術館&松本哲夫ギャラリー・トーク。 奈良美智「ともだちがほしかったこいぬ」青森県・弘前市 映像アルバム】軽井沢セゾン美術館~再読・聖と俗 タイの友人画家が描いた絵 スペインの旅★ガウディの懐しい曲線の街バルセロナ 映像】1週間で7つの美術館へ! 映像】草間彌生「花咲ける妻有」~遅く起きた朝は・・ ダリ劇場美術館(スペイン)改訂版 映像集】南仏ニースのシャガール美術館   未確認美術館めぐり~誰も居ないAtoZ 牢獄のピーターパン~サンジェルマン教会裏手のドラクロワ美術館☆パリ 映像】菊池歩/こころの花が3万本☆妻有アート06 映像】東京都内の美術館巡り ★等身大フィギュア・あしたのジョー★ ~旅のARTこれくしょん(そのろく) ★旅のARTこれくしょん  山形県立美術館・箱詰め恐竜生体標本 ★旅のARTこれくしょん オルセー美術館の妖怪たち ★旅のARTこれくしょん 世田谷美術館(東京都)空中歩行少女がゆく ★旅のARTこれくしょん 信州・松本市のガマさむらい ★旅のARTこれくしょん 京都市立美術館・宇宙戦艦江戸城! もし、この日記を気に入っていただけたら、ぜひクリックをお願いしますね。 アジアを始めとする世界各地、選りすぐりの旅行好きたちのHPが見られるランキング集にジャンプします♪ 人気blogランキングへ 

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