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カテゴリ:心理学/心理療法/カウンセリング
小川隆之 生月誠 1992 逆説志向の適用過程の分析 ―強迫行為のケース― カウンセリング研究,25,112-121.
(前回日記から続く) 〈第4回面接〉 (略) カウンセラー(以下「カ」と略す): まず、課題をやられた結果を教えていただけませんか? クライエント(以下「ク」と略す): ん・・・きちんとは、できなかったですかねえ・・・ カ: きちんとはできなかったですか? ク: 先生に怒られちゃうかもしれませんが(笑いながら)、あれから、我慢に我慢を重ねたんですねえ。 カ: 我慢に我慢を? ク: 手を洗うのをです。それでもう、大変に、手を洗うのが少なくなったんです。 カ: 少なく? ク: はい。回数が・・・1日に洗う回数も手を擦る回数も、少なくなりました。おかげさまで。 カ: ええと・・・課題では、少ないほうは15回で、多いほうは80回と。 ク: あのう、そんなにやらなくて、済んだんですね。 カ: ん・・・済みましたか。 ク: ええ。そのかわり、我慢をしてましたけれども。先生は、大丈夫と思えたなら、やらなくていいとおっしゃいましたけど・・・本当には、大丈夫だとは思えなかったんですが(笑いながら)・・・先生には申し訳ないんですが、我慢しちゃったんですね。 カ: ああ、そうですか。 ク: でも、最初は我慢のしっきりだったんですが、だんだんと大丈夫になっていって。 カ: そうですか。 ク: 最初のうちはねえ、ええと、土曜日(前回面接は金曜日)あたりは、大変でしたねえ、我慢するのが。だけど、あとはだんだんと、1日増しに大丈夫になっていって。 カ: 結局、全然やらなかったんですか? ク: もちろん、普通に洗うのはありますよねえ。普通の、正常の範囲で洗うのは。でも、あとはほとんど洗わないで済んじゃう。 カ: ほとんど? ク: ええ。ですから、たとえ洗っても、簡単に5回から15回ってところでしょうねえ。 カ: 前回の面接の時までは、多いほうが70回、少ないほうは10回は擦らないと気が済まないとおっしゃって。 ク: ええ、だから、済んじゃう。気が済んじゃうんですねえ、今は。だから、70回のほうが15回くらいになって、10回のほうが5回かそのくらいになったんですよねえ。 カ: ああ、そうですか。・・・そうすると、課題のほうは、ちゃんとできなかったですね。観察のほうも・・・ ク: そうですねえ。でも、大変よくなったんで。 カ: ええ、そうですねえ。 ク: 本当に、ねえ。 カ: でも、あのう、少しは観察できました? もし少しでもできたのなら、お聞かせいただけると、今後の方針の参考になると思いますので。 ク: ああ、そうですか。・・・そうですねえ・・・でも、それがねえ、観察するよりも、だんだんとよくなっていったんでねえ。 カ: ええ。 ク: 最初はね、自分で我慢して、言い聞かせていたわけですよ、大丈夫だって。それがだんだんと、日増しによくなってきたんですよねえ。 カ: ああ、そうですか。 ク: 今朝あたりなんか、すごくいいと思います。全然違ってきましたねえ。 カ: 全然違ってきましたか。 ク: ええ、おかげさまで。・・・なんだか、暗闇から外へ出たって感じで。 (略) カ: ご家族の方々の対応はどうですか? ク: そうねえ・・・やっぱり家族が、わりかた暖かく包んでくれますから。 カ: ああ、そうですか。 ク: ええ。そうじゃないとやっぱりねえ、悪くなっちゃいますよねえ。 カ: そうかもしれませんね。 ク: 主人が優しい声をかけてくれれば、良くならなくちゃな、自分でも頑張らなくちゃいけないな、と思いますもの。 カ: そうですか。 ク: ええ、前までは、主人なんか口うるさく言ってたんで、私もカーッとなって、余計に悪くなっちゃいますよね。それがね、今日なんかも、大変だな、頑張れよって、お店に出る前に優しく声をかけてくれて。そうするとやっぱり、良くならなくちゃなと思うんですねえ。それで私も洗わなくなってきてねえ。 カ: 奥さんが洗わなくなってきたんで、ご家族の方々も、きっと喜ばれているんでしょうねえ。 ク: あ、そうですねえ。やっぱり違うんですねえ。それもあるでしょうね。 カ: そうすると、お互いに助け合っているわけですね。 ク: あ、そうですねえ。 カ: 素晴らしいご家族ですね。 ク: ええ、ありがとうございます。 カ: 奥様も、ご主人も、お子様方も。 ク: ええ、ええ。子供たちもね、私が洗ったり我慢したりしてるのを、黙って見ていてくれましてね。それで、良くならなくちゃなと思いましてね。 (略) カ: ですが、まだ(症状が)残ってますね? ク: ええ、まだ残ってます。でも、もうちょっとなんで。ちょっと気になって洗うくらいなんですよ。 カ: ちょっと気になって洗うくらいですね。 ク: ええ。ほとんどは大丈夫ですねえ。 カ: で、ちょっと気になって洗う時、確か先ほど5回か15回擦るとおっしゃってましたね? ク: ええ。だいたいそのくらいです。 カ: あのう、つまり、少ないほうが5回で、多いほうが15回ということですね。 ク: ええ、そうなんです。でも、日増しに良くなってますからねえ。 カ: ああ、そうですか。 ク: ええ、ええ。最初のうちは苦しかったですよねえ。我慢していると歯ぎしりするほどでしたから。それが今はね、あっと思っても、洗わずに楽に済んじゃいますよねえ。 (略) カ: (1日に洗う回数も、1回に擦る回数も)もう、全然なくなって・・・いえいえ(笑い)、少なくなってきましたが、少なくなっただけではなくて、きっちりと治してしまいたいでしょう? ク: (笑いながら)ええ、そうですねえ。 カ: 課題を続けてみてほしいんですよ。ただ、擦る回数は少ないですし、ちょっと気になって洗ってしまう時だけで、もちろんいいんですが。 ク: ああ、そうですか。分かりました。 カ: 少ないほうは10回です。(両手を擦り合わせながら)1・2・3・4・5・6・7・8・9・10です。そして、多いほうは20回お願いします。(両手を擦り合わせながら)1・2・3・4・5・・・(数え続ける)・・・16・17・18・19・20ですね。 ク: ああ、そうですか。 カ: 数が少ないですから、そのぶん真剣にやられて、真剣に観察してくださいね。ええと、声を出して数える。ゆっくりと通して数える。それと、ご家族の方々にはまた話されてくださいね。 ク: ええ、分かりました。けれど、観察といっても、なんだかもう洗わなくて済んじゃうような気がするし、このまま治っちゃうような気もしますけどねえ。 カ: おっしゃるように、このまま治ってしまうかもしれません。けれど、万全を尽くしましょうよ。もしものことを考えて、観察しておきましょう。 ク: そうですか? カ: ご家族の方々に何とおっしゃるか、また言っていただいてよろしいですか?(笑い) ク: ええ、ええ、よろしいですよ。(笑い) (略) 〈電話連絡〉 第4回面接から1週間後、クライエントから電話で連絡があり、症状がまったく起きないということなので、まだ残っている面接回数(5回分の面接の契約をした)は「貯金」ということにして、いつでも来談できるような形で終結した。また、完治したというクライエントの報告に対して、カウンセラーは、「多分あなたの治りたいという気持ちが強く働いたためなんでしょう」と応答した。なお、家族の者ともとてもうまくいっているとのことであった。 〈予後〉 終結から2ヶ月後、クライエントの長女(心理学専攻の大学生、カウンセラー志望)から電話連絡があり、18年間苦しんできた症状がきれいにとれた様子を伝えてくれた。また、2年3ヵ月後、クライエント本人から以下のような電話連絡があった。すなわち、終結から6ヵ月後、下痢をしたのがきっかけで症状が再発しそうになったが、「また(面接期間と)同じように我慢に我慢を重ねれば」必ず治癒するという確信とそれによる安心感があったのと、何よりも家族に対して迷惑をかけたくないという思いがあったので、結局は再発せずに済んだ。そして、それ以後まったく何事もなく元気で過ごしているとのことであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Feb 22, 2005 10:23:17 PM
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