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ペトラプト・パルテプト

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カテゴリ:Tomoest
『Tomoest』 その40


その40  ~実体化1~





嫌~な疎外感は置いといても、なんだか腹が立った。

そりゃあさ、雛苺が悪いかもしれないけど、そこまですることもないんじゃないの。

この光景をどう感じているのか知らないがベリーベルはゆらゆらとしているだけだ。


「ちょっと! ベリーベル! あんたもなんか言ってやんなさいよ!」


もちろん、ベリーベルは答えない。

いくら雛苺のマスターとは言え、私は直接、人工精霊と会話できない。

ただの人間だから当たり前だけどね。

それでも雛苺の人工精霊なんだからちょっとは弁明してくれてもいいじゃない。

あの二人に言われっぱなしよ!

それでドールに仕えているっていうの? 

自分の主人(シスター)が一大事って時にさ! 


「理紗もいいかげんにしなさいよ。金糸雀をたぶらかしてどうすんの?」

「巴、人聞きの悪い事、言うなあ。ウチは真面目にカナちゃんの応援してんねんで。」

「応援!? 応援ですって? そんなの応援って言わないわよ。」


ああ、わかってる。わかりすぎるほどわかってる。

これが理紗の酔っ払って弾けた姿なんだ。伊達に何年も友達やってない。

弱者をかばう正義の味方、そういうのが彼女の本質なんだ。

ただ酔うと正義の意味がいらぬ方向を向く事になるのだけはどうしようもない。


「何言うてん。もう充分すぎるくらい証拠あるやんか。それに…。」

「それに…?」

「やっぱりカナちゃんがかわいいからなぁ。」


理紗は満面の笑顔でそう答えると金糸雀の方を向いてなにやら話し出した。

あれやこれやと今後の活動について議論している。

私はとっくに蚊帳の外…なんだわ。

別にさ、私は初対面の二人が仲良くする事はいいと思っているわよ。

特に理紗ったら、その辺は誰彼かまわず物怖じしない性格だしさ。

相手がたとえドールでも古い友達のように接せる才能の持ち主であることもね。


でもね…。

なんて言うのか…。嫉妬とは違う、行き場のない感情みたいなのがこう…。


「ん~~~~~~~。」


口に出してうねった。

私もまだまだ酔っているのかもしない。

でもさ、でもさ、でもさ…。


気がつくと心配そうにベリーベルが近づいて来るのが見えた。

だいたいベリーベルだって当事者のくせになんだってそんなに…。


「むっ!?」


なんとなく閃いた気がした。


「そっかー。ふう~ん…。」


ベリーベルを睨んで頬をひきつらせ、ワザと笑顔をつくった。


「じゃあ私は、私なりにやってやろうじゃないのよ!」


そう言って私は立ち上がった。

理沙が酔っ払って暴走するなら私だってやってしまってかまわないわけだ。

それにさっきはそうしようとしていたのだしね。


ベリーベルは私の考えに気がついたのかブルブルと震えながら後ずさりする。


「雛苺がいないから、あなたに仲間になってもらうだけよ。
 だって一人で相手するのってなんだかズルイって感じがしない?」


そういって呪文を唱える。これが魔術師でもない私が使える唯一の呪文というか聖句なんだわ。

中世のラテン語を模した発音が正しいはずなんだけど、私には出来ない。

それになぜだか中世フランス語・ドイツ語でも成功したためしがない。

確率的に成功した例はニュアンスが微妙に近い英語だけなので、それが理解に苦しむけど
魔術師でない私には仕方のないことなんだわ。


「You, in the name of that book, it solves the taboo here, you display permits before me.
 As for name of that book “the desire which should advance”….」

 (汝、彼の本の名において、ここにその禁忌を解き、我の前に現すを許す。
  彼の本の名は「進むべき希望」…。)』


ベリーベルを見つめながら私はゆっくりと聖句を唱えていく。

本当の魔術師ならここで自分の魔力を解放して相手にぶつけていくらしいが私にはそんな芸当は出来ない。

ただの人間ゆえの悲しさってところかしら。

でも…背中が総毛立つような感覚は何回味わっても感動的なんだけどな。

ベリーベルが言うには気のせいらしいんだけどね。

実体化とは禁忌を解くことで魔術ではなく聖句なんだとか言っていたから。


やがて唱え終わるとベリーベルの周辺に魔法陣が浮かび上がり実体化が始まる。

それを見て、今回も成功なんだと確信する。

ちなみに初期はかなり失敗したが、今ではそれもまずない。

とはいえやはりドキドキするのよね。なんだか魔術師になれたみたいで。

時間にしてわずか数秒のことなんだけど、やっぱり緊張するって言うか…。


「ん!? カナちゃん、ちょと待ってや。」


理紗は妙な気配に気づいたのか金糸雀とのおしゃべりをやめ、ベリーベルのほうを向いた。

私はニヤリと笑ってそれを見ている。


ポンッと軽い音を立ててベリーベルが完全に実体化した。

いつもの冴えないサラリーマン風のスーツ姿の男性が現れる。

顔は20才後半の疲労感溢れる美青年って感じなのはいつもの事だ。


「えええええーっ!!」


理紗の目が点になって驚いているのが見えた。驚きで絶叫しているみたい。

そりゃそうだ。普通驚くのは当たり前の事だからね。


「えええーーーっ、かしら!」


続いて同じように金糸雀の叫び声。これもある程度は予測できた。不思議でもなんでもない。

いわゆる想定の範囲ってところ…。

………のはずなんだけど…。


「ええええええええええええーーーーーっ!? 」


今度は私が驚きの絶叫を上げる番になってしまった



                      …つづく。





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最終更新日  2007/06/04 02:56:26 AM
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